第2話 自己紹介
「ごめんごめん。おどろかせちゃって」
女の子が無邪気に笑って、謝罪した。
「でも、イタクなかったでしょ」
そうなのだ。わたしは立ちこぎの状態のまま後ろにひっくり返って地面に叩きつけられたのだが、大した衝撃もなく、不思議とそれに伴う痛みは感じなかった。
わたしは仰向けの体を起こして立ち上がった。女の子がブランコを挟んですぐ正面に立っている。さっき滝のように吐いた血は跡形もなく消えていた。だけど彼女の何とも言えない不気味さに、知れず足が震える。すると、そんなわたしに対して彼女は信じられない言葉を放った。
「やだなあ、仲良くしようよ。オタガイ、死んでるんだし」
「えっ」
思わず息を呑む。
「やっぱりジカクないんだ。だってあなた、そんなに大けがしてるのに全然イタクもクルシクもないでしょ? 死んでるからだよ」
うそ。
「それでも生きてたときのイメージがあるから、生きてるのとおんなじふうに感じるんだよね。だけどじきに分かるよ。おなかも空かないし、トイレもいらないから。あとスイミンも」
死んだ? わたしが? いつ?
わたしは記憶の糸を懸命に手繰り寄せる。
たしかわたしは自分の家にいて、自分の部屋にいて、
新しい母親にさんざんバットで殴られて、蹴飛ばされて、階段を転がり落ちて……。
何が原因だったっけ? まあどうせ、弟がらみの些細なことだろうけど。
「ねえ、これからどうする?」
わたしの思案を遮って、女の子がわたしの顔を覗きこむ。こう言っちゃ悪いけれど、不気味な顔だなと思う。骨に皮がぶら下がっているかのようで、みずみずしさはどこにもない。落ちくぼんだ目は深い影を造っているけれど、その奥で眼球は忙しなく動いている。まるでどこかうきうきしているような感じさえする。ガサガサの口元にずっとうすら笑いを浮かべているし……。
「あ、わたしのこと気味ワルイって思った? 悪いけど、あんたもソートーだと思うけどねえ。あ、わたし、
「……
おまけに中学生くらいなのに妙にたどたどしく話す子だ。わたしはまだ彼女のことをすべて信用できず、用心して、それだけ答えた。
「うたぐり深いなあ。まあいいけど」
寧々はさっきまでわたしがこいでいたブランコに颯爽と飛び乗ると、その外見とは裏腹に、清々しい表情で実に楽しそうに自分のことを語り始めた。彼女のくたびれたスカートから細い枝切れみたいな足が覗く。立ちこぎができるのが不思議でならないほど細く、痛々しい。
「あたし、本当はもう立てなかったんだよね。力でなくてさ。でもこうして幽霊になっちゃえば関係ないんだ。やった」
行くあてもないし、わたしも仕方なく寧々の隣のブランコに座った。
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