二人の少女

ふさふさしっぽ

第1話 夜の公園で

 気がつくとわたしは夜の公園にいた。かすかに辺りから蝉の声がする。入り口の両脇に植えてある背の高い大きなヒマワリが、まるでわたしを監視するかのように威圧感を放っている。


 どうしてわたし、こんなところに……?


 子どもの頃遊んだ、それほど大きくない近所の公園だ。今でも昼間は小さい子どもや母親たちの憩いの場となっている。休日は父親の姿も多く見える。


 ああ、そうか。またわたし、無意識に逃げて来たんだ……。


 わたしは自分の頬をさすった。右頬がぷっくらしている。視界がおかしいのは瞼が腫れあがっているためだろう。自分の体を見回すと、中学校の制服はところどころ汚れていて、腕や足、果てはお腹にまで無数の痣があった。けれど、不思議と痛みはなかった。どうしてだろう。もう痛いという感覚も麻痺してしまったのだろうか。


 家に帰る気には到底なれず、わたしはとりあえず手近なブランコに立って乗った。何も考えず、ぐんぐんこぐ。限界まで上昇してから、ふと思った。この勢いをつけたまま前方に体を放りだしたら、頭でも打って死ねるだろうか。いや、だめだ。中途半端に怪我なんかして迷惑をかけたら、あの人たちにどんな目にあわされるか分からない。


 だけどもう疲れた。このまま手を放して、ブランコを囲む固い安全柵にでも頭をぶつければ死ねるんじゃないか、本気でそう考えた。


 考えながらふと顔をあげると、真正面、ブランコの安全柵の外側に女の子が立っていた。わたしは突然のことに息をのみバランスを崩す。けれどなんとか持ちこたえた。


 ブランコは大きく前に進み、否応なしに女の子に近づいて行く。女の子はそんなわたしをじいっと、目で追っていた。そのまま慣性によって、ブランコは女の子から遠ざかる。


 この子、いつからここにいたの? どうしよう。


 そんなふうに思っているうちに再びブランコは彼女に近づく。わたしは得体のしれない彼女への恐怖で体が固まってしまい、ブランコを足でとめることはおろか、彼女から目をそらすことすら出来ずにいた。


 女の子が近づく。わたしと目が合う。女の子はどうやらわたしと同じ年くらいらしい。大きな目をしている。だけど頬がげっそりこけている。どうやら彼女はずいぶんと痩せているようだ。


 女の子と一番近づいたとき、


「あーそーぼ」


 と彼女が言った。女の子にしてはしゃがれた声だった。そして「あーそーぼ」と大きく開けた口からどす黒い、何か液体のようなものをどばあ、と吐いた。


「ひゃあああああ!」


 それが何なのか分かった瞬間、わたしは腰をぬかしてブランコから転がり落ちてしまった。

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