第24話 ドッジボール全国大会の結果

「あり、うっぐ……、がとう、ひっく……、ございました、ううっ……」

「ありがとうございました」


 試合が終わって、相手チームのリーダーと握手を交わす。俺の目の前に立つ子は、顔中を涙で濡らして、話せなくなるほど泣いていた。それほど本気だったのだろう。彼は嗚咽を我慢しながら、最後のあいさつをする。そして、握手を交わした。


「とても楽しい試合だったよ」

「僕も、そう、思い、ます……うぐっ……」


 彼も、そう思ってくれたのなら嬉しい。俺は、その子の手を優しくギュッと握る。


「よくやった!」

「泣くな! 立派だったぞ!」

「どっちも強かった! 決勝に相応しい戦いだった!」

「感動したよー!」


 観客席から応援が飛んでくる。俺たちは、観客席に向かって一礼した。


 なんとか勝てたけれど、俺たちが負ける可能性も大いにあった。実は、ギリギリの戦いだったと思う。俺たち全員が本気で挑んだからこそ勝てた試合なんだ。そして、熱い応援があったからこそ本気になれた。




 仲間のもとに戻って、彼らと一緒に試合をしたコートから出た。


「お疲れ様だよ、皆! よく勝った! 本当に凄いわ、全国大会優勝よ!!」


 監督の田中先生が、とても興奮していた。予選大会の時もかなり喜んでいたけど、今回はその時以上の喜び具合だった。全国大会で優勝したから当然なのかな。


 逆に、チームのメンバーは冷静だった。


「やったね!」

「かてて、よかった」

「おつかれさまだよ、みんな」


 試合に勝てたことを喜んでいるけれど、そこそこの反応であるだけ。


 まだ、全国大会で優勝したという実感が湧いていないとか、かな。


「この後すぐに表彰式が行われるそうよ。行きましょう!」


 田中先生の指示に従って、移動する。試合でかなり疲れたので、表彰式とかは早く終わってほしいな。そんなことを思いながら、表彰式に向かった。




「あなた達は、第19回全日本ドッジボール大会において日頃の練習の成果とチームワークの良さを発揮し、優秀な成績を収められました。ここに、栄誉を讃えてこれを賞します。おめでとう」

「ありがとうございます」


 ドッジボール大会の会長だという男性から、チームリーダーの俺が代表して賞状を受け取った。


 それから、立派な優勝トロフィーを受け取る。ぎっしりと重い。これが、勝者したチームしか味わえない重みなのか。あらためて、勝ててよかったと思った。


 その後、俺たちが倒した2位のチーム。ここまでなんとか勝ち上がってきたけど、残念ながら負けて3位になったチームが順番に表彰されていく。




 表彰式が終わって、ようやく家に帰れると思った。けれどまだ、俺たちのチームを応援をしてくれた方々に感謝を伝えないといけない。


 わざわざ大会の会場まで見に来てくれて、応援してくれた人たちと合流する。


「いやぁ、興奮したよ! とても強かったな、悟くん!!」

「ありがとう、井関のお爺さん」

「いやいや、こちらこそ。こんなに興奮したのは、久し振りだよ!」


 今日の大会を応援しに来てくれた人たちの中に居た、井関のお爺さん。どうやら、楽しんでもらえたようだ。よかった。


 練習中の差し入れやカンパなどで金銭的にもサポートをしてくれたので、感謝しかない。本当に。


 その他に、チームメンバーの親御さんや、大会には参加していないクラスメートの仲間たち。そんな応援してくれた人たちに感謝を伝えて、帰りのバスが駐車している場所まで皆で一緒に移動する。


 来た時と一緒で、選手と応援団は別々の大型バスに乗り込む。


「ふぅ、疲れた」


 バスが発進すると、俺は一息つく。


「……ん? もう皆、寝ちゃったのか」


 周りの座席を見てみると、皆は既に寝ていた。一斉に眠っている。やはり、試合で疲れたんだろうな。


 普通の小学生と比べて体力に自信がある俺だって、試合でかなり疲れたんだから。


 俺はバスの窓から見える外の景色を眺めながら、じっくり勝利の余韻を味わった。目的地に到着するまで、ボーッと過ごした。




 新学期が始まり、全校集会では俺たちがドッジボールの大会に出場して、優勝したことを校長が報告していた。


「えぇ! すごい。あの子たちって、いつも運動場で縄跳びしてる子、だよね」

「あと、よくかけっこしてるよ」

「ドッジボールもしてた。あれって、大会のために練習してたんだね」

「すごかったよ。ボールを投げる早さとかビュン、って」




 周りでヒソヒソと話す声が聞こえていた。俺たちは周りから、そんな風に思われていたのかと初めて知った。それから、思っていたよりも見られている、ということ。


 来年度からドッジボールのクラブが新しく作られるらしい。今までウチの学校には存在していなかったクラブ活動だ。


 まさか、遊びで始めたところから全国大会で優勝できるだなんて思ってなかった。そして、学校のクラブ活動に認定されるなんて考えもしなかった。


 ドッジボールの大会に興味があるとか、全国大会に参加してみたいという子はぜひ入部してくれと校長が勧誘していた。


 来年も、全国大会で優勝を狙うつもりなんだろう。


 俺は、どうしようかな。ドッジボールクラブに入部するかどうか。正直に言うと、全国大会で優勝できた瞬間に少し興味が薄くなっていた。満足した、というのかな。


 一旦ドッジボールのことを忘れて、別の新しい何かに挑戦してみたいな、と思っていた。でも、まだ何もやりたいと思うことは見つけられていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る