第23話 決勝戦 ※対戦相手チームのリーダー視点

 予選大会からここまで、僕たちのチームは順調に決勝戦まで勝ち進んだ。そして、今回の大会でも優勝することが出来れば三連覇となる。達成できれば、とんでもないことになる。


 僕は、チームのリーダーとして皆と一緒に、絶対に優勝してみせると約束をした。前リーダーにも、優勝して三連覇を達成して欲しいお願いされた。だから僕は絶対に勝ちたい。そのために、今日まで一生懸命頑張って練習してきた。



 決勝戦の相手は、初出場で最年少メンバーだけで戦ってきたというチーム。全国の大会に出場してくるなんて、凄いチームだと思った。でもまさか、そのチームが決勝まで勝ち進んでくるとは思っていなかった。


「皆、決勝戦だよ。相手チームを見ても油断しないで」

「わかってる」

「全力で挑もう」

「次も、絶対に勝つ」


 皆が僕の言葉を聞いて、気を引き締めてくれた。冷静に判断をすれば、僕たちなら勝てるはずなんだ。そう信じている。


 直前の試合を観察してみて分かったことがある。


 相手チームのディフェンス能力は非常に高い。だが、オフェンスが弱点だと思う。相手の選手は、ボールを投げる力が弱そうだと思った。僕たちより体が小さいから、仕方ないことなんだろう。だけど、この弱点に注目して勝つ方法を考える。


 とにかく、僕たちは積極的に攻撃を繰り返す。投げて外してしまうのは仕方ない。攻撃を繰り返すことだけ頑張ってみる。相手の攻撃は、ちゃんと落ち着いてから対処すれば大丈夫。そこまで、相手の投げてくるボールは強くないんだ。僕たちならば、キャッチできるはず。


「わかった」

「オッケー」

「それでいこう」


 事前に、皆で作戦を話し合う。監督も、良い作戦だと言ってくれた。


 積極的に攻撃して、防御の時は落ち着いて。そう考えて、相手を倒す。


「気合い入れていくぞ!!!」

「「「オー!!!」」」


 肩を組んで、試合前に大声を上げて気合を入れた。万全の状態で試合に挑む。


 相手リーダーの動きは注意しておかないと。試合中でもこちらの動きを見ていて、弱いところが瞬時にバレてしまうから。


 審判が、いつもの試合前チェックをする。相手リーダーと握手。ほんの少しの間、軽くギュッと握っただけなのに力強さを感じた。ちょっとだけ不安になる。僕たちは本当に勝てるのかな。


 いや、負ける気なんてない。全力で、戦おう!


 ジャンプボールで試合が開始した。ボールは、まず僕たちがキャッチした。試合が開始した直後、すぐに攻撃を始める。


「ウラッ!」

「外したか!」

「くっ! やっぱり、的が小さい……! ……当てられないよ!」

「大丈夫、落ち着いて。ボールは外野まで飛んでいったから、僕たちのボールだ」

「あ、あぁ! そうだね!」


 実際に戦ってみたら、さらに相手が小さく見えるようだ。俊敏な動きで翻弄して、ボールを奪うタイミングを狙っているのか。


 最初に考えていた作戦の通り、まずは攻撃する手数を増やす。攻撃し続けることで相手にボールを当てる。


「くっ!」


 ボールをキャッチされた。やはり、ディフェンス能力は高い。だが、この次を注意しておけば大丈夫なはずだ。周りを見て、皆がちゃんと構えているのか確認をした。


 大丈夫そうだ。僕も身構える。ボールが見えたら、ちゃんとキャッチする。


「3番!」

「ッ!」


 相手がボールを投げる動作に入った。相手が、僕たちの3番に視線が向いている。すぐ避けるように注意を促した。だが。


「なっ!?」

「えっ!?」

「ピー! 8番、外野へ」


 3番に注目していた。けれども、相手は途中でターゲットを変えた。狙われたのは8番の子だった。いきなり攻撃が来て、8番は対処できなかった。ボールが当たってアウトになってしまう。


「くっ!」


 フェイントだ。今までの試合だと、終わるギリギリまで温存していたはずなのに。それをいきなりやられて動揺していた。ダメだ、なんとか気持ちを立て直さないと。


 だけど、試合の流れが一気に向こうへ変わってしまった。やばい。早く、なんとかしないといけないのに。


「落ち着いて、リーダー。まだいける!」

「う、うん……!」


 そうだ。落ち着かないと。仲間が声をかけてくれて、少しだけ落ち着けた。


 そこから、なんと試合に集中する。思っていた通り、攻撃は弱い気がする。だからボールをキャッチできる。だけど、ディフェンス能力も思ったとおりだった。相手に当てられない。


 そのまま、5分の試合時間が終わってしまった。


 最初だ! 最初に僕が相手のフェイントに引っかかってしまい、指示を出したから当たった。くそー!


「リーダー、次はどうする?」

「……」


 皆の視線が、僕に集中する。僕はリーダーなんだ。気持ちを切り替えよう。


「同じ作戦で」

「大丈夫なの?」

「ここは頑張って、相手の体力を削る。そして試合終了間際に、必ず1人を落とす」

「うん。わかった」

「それでいこう」


 まだ若いから、僕たちよりも体力は少ないはず。そんな予測だけで、試合に挑む。とても不安だったが、どうにかして勝たないと。三連覇の夢が。




 二試合目は、1人もアウトになることなく試合終盤まで全員がコートに残っている状態だった。作戦通り。そろそろ、一気に攻撃を仕掛ける。


「田中くん! お願い!!」

「わかった」


 指示を出して、仲間がボールを投げた。今まで少し抑えていた分を出して、1番の豪速球をお願いした。


「ピー! 2番、外野へ」

「あっ!」

「やった!」

「まだ、油断しないで」


 それが、相手の体に当たる。喜んでいる皆に、すぐ落ち着いてもらう。油断をしてボールが当たる、というのを避けるために。


 1人アウトにしたから、あとは逃げ続けても勝てる。


 相手チームを全滅させる必要は無い。


「やった!」

「勝った!」


 そして、試合時間の5分は過ぎた。最初の狙い通り1人だけアウトにして僕たちの勝利。




「最後の試合だよ。絶対に勝とう!」

「わかった!」

「行こう!」


 これまで三試合戦ってきたけれど、二試合勝てば優勝することが出来る。


 現在の勝敗は1対1。この試合で勝ったほうが優勝だ。緊張してきた。



 三試合目が始まったが、相手は元気いっぱいだった。体力が無限だ。またボールを当てられない。逆に、僕たちのチームは疲れているかもしれない。


「あ」

「ッ!」

「ピー! 1番、外野へ」

「ごめん、皆」

「大丈夫だから、任せて!」


 僕は、足にボールを当てられてアウトになってしまった。鼻の奥がツンとした。


 ダメだ。まだ試合中だから、泣いちゃダメ。外野に移動をして、外野で動きながら皆の様子を見る。


 そのまま、三試合目は終わってしまった。向こうチームの勝利で。


 僕たちは負けてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る