第22話 全国大会本番

 ドッジボール大会が行われる会場に到着した。


 前回、俺たちが参加した予選大会が行われた体育館よりも数倍大きい会場だった。どうやら、ドッジボール大会以外にも様々なスポーツの大会が開催されている有名な体育館らしい。


 チームメンバーのお父さんの1人が大型のバスを運転してくれて、それにチームの皆で乗って会場まで送ってもらった。バスのレンタル費は、わざわざカンパを募って集めてくれたらしい。


 それから、応援してくれる子たちも別の大型バスに乗って後で来てくれるらしい。こちらもカンパを集めてバスを借りたという。


 大人たちに色々と支えてもらって、俺たちは大会本番を迎える。


 会場に入って、体操着に着替える。事前に受け取っていたゼッケンも付けてから、試合が行われる体育館内へ。


 通路ですれ違ったり、途中で見かけた子どもたちの雰囲気が凄かった。予選大会と違って、さらに空気が重い感じがした。


 普通の小学生なら、あのプレッシャーに呑み込まれて何も出来なそうだ。だけど、俺たちのチームは普通ではない。


 初出場の予選大会で優勝して、夏休みにも密度の濃いトレーニングを重ねてきた。短期間で、優勝できると思えるぐらいまでチームをしっかり仕上げてきた。だから皆、予選大会のときよりも落ち着いている。


「そろそろ、開会式が行われるらしいわ。行きましょうか」

「「「はい!」」」


 予選大会から引き続き、田中先生に監督を引き受けてもらった。


 大会のスケジュールを確認して、子どもたちを誘導してくれる。これから開会式が行われるらしい。


 整列した俺たちのチームは、他のチームと比べてやはり体が小さい。大きな身長が並んでいる中で急に、凹んでいるチームがあるので目立っていた。観客席から視線を感じる。今日は、試合の応援に駆けつけた観客たちが多かった。観客席を埋め尽くすほどの多さ。


 けど、全国大会に出場するような猛者たちは見た目で油断しないみたいだ。真剣な表情で、俺たちのことをチラッと見てくる。実力はどうかと観察されているのを肌で感じた。これは、かなり手強そうだな。


 開会式が終わって、対戦表が発表される。試合する相手が決まった。大会初戦は、九州からやって来たという強豪チーム。過去に優勝した経験もある相手らしい。


 全国大会だから、やっぱり初戦から厳しいかな。だが、全力で勝ちにいきたい。


 そのために予選大会の時と同じように、自分たちの試合が始まるまで他のチームを観戦しておこう。各チームの情報を集めておく。


 コートの外にある待機場所で、俺たちは自分たちの試合時間がくるまで待機して、他のチームの試合を観戦した。


 やはり、どのチームも投げるボールが力強い。


 コートの端から端まで全体を使って、全速力で力を込めて投げているな。あれは、反射神経だけで避けるのは難しそうだ。予測も必要になってくるかな。


 オフェンスはもちろんだが、パスも全力だった。コート内で動き続けて、ボールが当たらないように避ける時も全力である。5分間も体力が持つのか心配になるほど、彼らは1試合で力を出し切っている。


 それから、試合の最中の応援が凄かった。観客が大声で激励して、互いのチームの応援が試合の外でぶつかり合う。本気の応援同士で。見ているだけで熱くなってくるほどの気持ちを込めて。体育館内に凄い熱気が渦巻いていた。


「そろそろ試合が始まるから、移動しましょうか」

「「「はいッ!」」」

「悟くんも」

「……はい」


 俺は、他チームの試合の様子をギリギリまで観察し続けた。相手の弱点を探って、本気で勝つための準備を怠らない。しかし時間が来たので、コートに移動する。




「両チームのリーダー、前へ」

「はい」

「はいッ!!」


 気合の入っている向こうのチームリーダーが前に出てくる。彼と、握手を交わして自陣のコートへ戻ってくる。


「ジャンプボール、頼む」

「まかせて」


 ジャンプボールで試合が開始した。やはり、最初のボールは弾けずに向こうからの攻撃で試合が始まる。これは仕方ない。


「ゴメン!」

「全然、気にしないで。試合に集中しよう」

「わかった」


 ジャンパーが謝りながら戻ってきたので、問題無いと励ます。試合に集中するよう指示して、相手の攻撃に注意する。


「ッシ!」

「あっ!」


 いきなり相手のパスを、上手くカットできた。俺はボールをキャッチして、すぐに反撃。


「ピー。6番、アウト。外野へ」

「なんしよーったい!」

「すまん!」


 これは、幸先が良い。試合がスタートした直後に、1人アウトすることが出来た。相手チームの選手が1人減る。


「わっ!?」

「ピー。4番、アウト。外野へ」

「大丈夫か?」

「ごめん、当たっちゃった」


 だが、その直後に相手ボールを当てられた。大会通して初めてのアウトに動揺したのか、すぐあとにボールを当てられてしまった。もう1人、アウトになる。数十秒で形勢が逆転していた。


 だが、まだまだ時間はある。5分間という試合時間が、まさに絶妙だった。


  逃げ切れるようで、逃げ切れない。最後の最後まで逆転が可能な時間だと思う。なので、最後まで諦めない。


 5分間というのは小学生にとって集中力が続く限界の時間らしいが、俺はもう少し長く集中することが出来る。だから、試合終了間際の攻防が大切だと考えいてた。


「ッウラッ!」

「うわっ!?」

「ピー。1番、アウト。外野へ」

「リーダー!!」


 もう少しで試合が終わるというタイミングで、相手リーダーを倒すことが出来た。その勢いに乗って、ボールをキャッチしてくれる仲間。俺の親友の脩だ。


「おさむ!」

「おうッ!」


 脩はキャッチしたボールを投げようとしている途中、直前でターゲットを変える。俺が指示したフェイントだ。試合で初めて使う戦術。


 初戦だけど、思い切って切り札を使うことにした。まずはこの試合に勝つことで、チームで勢いに乗るために。


「あっ!?」

「ピー。3番、アウト。外野へ」

「ボール! はやく!」

「ぐっ!?」


 その結果、相手はボールをキャッチすることが出来ずに落とした。相手は、慌ててコートに落ちたボールを拾おうとしたけど、そこで試合終了の笛が鳴った。


「ピッ、ピー!」

「っしゃあ!」

「ないす!」

「いいよ!」


 初戦は、なんとか勝つことが出来た。笑顔を浮かべる俺たちのチームと、悔しそうにする相手チーム。だが、試合はまだある。油断してはいけない。


 その後、1分間の休憩。その時に、試合で気が付いたことを皆に共有しておいた。次の試合で活かすために。


「相手チームがボールを投げる時、目線で誰を狙っているのか分かりやすい。そこを注意してみて」

「うん」

「わかった」

「気をつける」


 2試合目は、1試合目よりも楽に勝てた。最初に勝ったことで勢いに乗れたこと、相手の大きな弱点が判明したことが勝因だろう。


 俺たちのチームはまず、初戦を危なげなく勝ち進むことが出来た。

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