第18話 大会出場への道

 大会に出場するための準備を進める。出場の申し込みについて、担任の田中先生に相談してみると、前のめりで協力すると約束してくれた。


「わかったわ。申し込みについては、私に任せて!」

「お願いします」

「練習、頑張ってね。優勝できるように応援しているわ。何か必要なことがあれば、すぐに相談してちょうだい」

「ありがとうございます」


 申し込みについては問題なさそうなので、放課後に皆を集めて練習を開始する。


 大会に参加したいと集まってくれたのが29名。1チームは20名以内で、試合に出られるのは12名だけ。能力を見極めて、選抜する必要があった。


 7月にそれぞれの地区で予選大会が行われる。8月に全国大会が実施されるというスケジュールのようだ。


 予選大会で勝ち進み、全国大会に出場する。そして、目指すは優勝だ。




 まずは、ルールから確認していく。普通に遊ぶドッジボールとは違って、大会には正式なルールが存在している。


 ボールを持って投げられる態勢になったら5秒以内には投げないとファールになり相手ボールになるとか。仲間同士でパスしてもいいのは4回目まで。5回目までには絶対に攻撃をしないとダメ、というルールとか。


 一つ一つ丁寧に、皆でルールを確認していく。事前に入手しておいたルールブックを読んで、小学二年生でも理解できるように噛み砕いて分かりやすく説明していく。


 確認を終えたら早速2チームに別れて、実践同様の練習試合を始める。


 ルールに則った内野と外野のコートを準備して、12対12の人数に別れる。残り5名が審判を務める。最初の試合は、俺が主審を引き受けた。


「じゃあ、ジャンプボールをする子を1人決めて」

「ぼくが」

「やるよ」


 コートの中央に両チームから1人ずつ呼んで、向かい合わせて立たせる。


「じゃあ、試合開始! ピッ」


 審判の笛も用意していたので、それを鳴らして試合が開始したという合図をする。空中にボールを上げて、ジャンプボールを狙って跳ぶ両チームの子たち。


「あっ」

「よし!」


 右側チームの子が指先で上手くボールを弾いて、試合が始まった。急いでボールを拾ったら、相手に当てようと投げる。それをキャッチして、反撃する。上手く避けて外野ボールに。


 どんどん試合が進んでいく。


 まだまだ、学校の校庭で遊んでいるだけのような雰囲気。競技というような感じは全然しない。これから、仕上げていく必要があるかな。


「ピー。ボールを持って5秒過ぎたからファール! 相手ボールに」

「え! はやいなー」

「気をつけないと」

「ごめんごめん」


 試合してみると、5秒というのが意外と短い。まずは、そこに皆が苦戦していた。


「あぶない!?」

「うわっ!? あ。当たっちゃった。ごめん」

「だいじょうぶ!」

「皆、怪我をしないように気を付けてね」

「「「わかった!」」」


 それから、ボールを避けようとすると仲間同士で体が当たっちゃう。これは、何か対策を練らないといけない。事前に勉強しておいた、あのフォーメーションについて教える必要があるな。


 5分の試合が終わった後、皆を集めて反省会を行う。初めて戦った試合にしては、なかなか良かったと思う。でも、大会で勝つためには直すべきところも多い。


 とは言いつつ、俺もドッジボールについては素人。勉強をして知識を入れただけ、なんだけども。


「ボールをキャッチするときは、両手でこう抱き込むようにすると良いかも」

「こう?」

「そうそう、両腕でね」


 ジェスチャーを交えて話す。ボールを上手くキャッチする方法について。これは、大会優勝を目指して事前に勉強していた知識だ。


「ボールを避ける時はこうやって、ひざを少し曲げて中腰になる。そして前傾姿勢になれば、ボールが当たる部分が少なくなって避けやすくなると思う」

「こうだね!」

「なるほど!」

「わかった。やってみる」


 試合中に、見ていて気になったことを教える。すぐに吸収して、次の試合に活かす子どもたち。そして、これも事前に覚えた知識である。


「それから、横一列に並んで味方同士の衝突を防ぐようにしてみよう」

「こうするのか」

「つよそう!」


 9人で横一列に並ぶというのは、ドッジボールで王道のフォーメーションらしい。もちろん事前に調べておいた知識を、皆に教えた。


「パスをカットする人を、誰か決めておこう」

「うん!」

「ぼくがやるよ」


 この中では背の高い子たちが立候補してくれたので、敵のパスカットを専門にする役目の人を決めておく。


 色々と手探りしながら、フォーメーションや戦術などを考えて練習試合を繰り返し行って、チームとして仕上がっていく。


 それぞれの能力についても、徐々に見えてきた。


 ボールのキャッチが上手くなりそうな子。

 投げられたボールを当たらずに、避けるのが上手そうな子。

 ボールの投げ方が上手くて、素早く狙いを定めるのが上手い子、などなど。


 皆、それぞれ良いポテンシャルを持っている。誰を試合に出そうか、悩ましい。


 3試合して、今日の練習は終わり。集まってから、1時間ほど過ぎていた。今日は少し長めに時間を取ってもらった。けれど、今後は30分ぐらいで解散する予定だ。あまり長時間、子どもたちを拘束したくないから。


 その代わりに、一人ひとりにトレーニングの指示を出す。効率的にトレーニングをして、効果を出していく。


「君は、ボールを落とさないでキャッチする練習をしよう」

「わかった」


「そして君は、ボールを避ける練習。当たらないよう、俊敏に動けるようにね」

「うん」


「3試合で疲れているようだから、まず体力をつけようか」

「そうする」


 どのような練習をするべきか皆に指示を出して、どれぐらい練習するのかは各自の判断に任せた。小学二年生には、ちょっと難しいかもしれない。けど、信じてみる。ちゃんと出来る子たちばかり、だから。


 暇な時間を見つけて練習してくれたら、それだけで良いから。無理をして怪我とかしないようにだけ注意しておく。


「個人練習では、無理をしないでね」

「そうする!」

「むりはしない」


 個人で練習してきた成果をアピールするために、皆で集まった時には練習試合だけ繰り返し何度もやる。


 各試合の様子を見て、大会に出場するチームのメンバーを決めていく。


 そうこうしているうちに、あっという間に7月になっていた。もうすぐ、予選大会の日がやって来る。

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