第17話 次の目標
「大会に参加して、優勝を目指したい!」
グラウンドに皆を集めて、彼らの目の前で俺は宣言した。
「なになに?」
「大会?」
「何するの?」
いつものメンバーは、興味津々という反応だった。知り合ったばかりの子どもは、困惑している。別のクラスに変わった子たちも集まってきて、かなりの集団になっていた。そんな彼らに説明する。
「ここに居る皆でドッジボールの大会に出場して、優勝を目指したいんだ」
「ドッジボール?」
「大会、だって」
「すごそう!」
テレビや新聞で見かけた、ドッジボールの全国大会。小学生の部に皆で出場して、優勝を目指したいと前から考えていた。
二年生になって、目指してみようという気持ちが固まった。だから、皆に提案してみたのだ。
「かてるのかな?」
「今から頑張って鍛えたら、優勝を目指せると思う」
不安そうに呟く溝江さんに、俺は言った。きっと優勝できるだろう、と。
「ゆうしょう! すごい!」
「ドッジボールなら、ぼく、とくいだよ!」
「やってみたい!」
今までは、クラスメートの中だけで競い合ってきた。これからは外に目を向けて、他の人たちと力比べをする。しかも、大会の優勝を目指して本気で挑んでいるような小学生たちと。
ちゃんとトレーニングのスケジュールを組んで、大会で優勝するために必要になる努力を積み重ねていく。
そのためにも、まずは皆のやる気を確かめておく必要があった。
皆がやる気になっていると、浮かない顔をした男の子が1人、手を挙げる。
「あの! ぼく、ボールがこわい」
彼に続いて女の子が1人、手を挙げた。
「わたしは、ピアノのれんしゅうがあるの」
顔面にボールが当たってしまうのを怖がっている子が居たり、ピアノを習っているので突き指したくないという子たち。その後にも何人か、大会参加を辞退する。
そっか。そういう子も居るのは当然か。人数が多くなったし、大会に参加するのに消極的な子が居るのは至極当然のこと。そんな彼らを、仲間外れにはしたくない。
「なるほど、わかった。休み時間は、いつも通りに皆で遊ぼう。大会出場を目指して頑張る子は、空いた時間とかに練習するということで。どうかな?」
「うん」
「そうしよう!」
「ごめんなさい」
「全然、大丈夫だよ。皆で、楽しめる遊びを考えよう!」
ドッジボールを嫌がる子たちが居るので、瞬時に方向転換。嫌がっている子たちに配慮して、休みの時間を楽しめる遊び方を改めて考える。
俺の休み時間の目標は、皆で楽しむことだから。
そして俺も、突き指には気を付けないといけないな。同じくピアノを習っていて、近いうちに発表会の予定もあるから。
しかし、素直に言い出してくれてよかったよ。無理やり突き合わせてしまうのは、嫌だったから。あくまでも、この集まりは自発性を重視している。無理強いをしないように、気を付けないと。
それから、皆でワイワイと騒ぎながら楽しい遊び方を考える。知り合ったばかりの子たちも、すぐに馴染んだ。小学生は、一緒に思いっきり遊ぶというのが仲良くなる最短ルートだと思う。
「やっぱり、きょうそうからだな!」
「しょうぶ、しようぜ」
「ぼくたち、走るのはやいよ」
「おれだって、まけない!」
そして始まった徒競走。今日から加わる子たちは、まだまだ足の速さは遅かった。というか、1年前から遊びで鍛えてきた彼らが速すぎるのだ。
「はぁ、はぁ……。くっそー、まけた!」
「どうやったら、そんなにはやく走れるの?」
「えっとね、こうだよ」
競争で勝った子が、負けた子に腕の振り方を教えていた。前に俺が教えた走り方を皆で共有している。とても良い雰囲気だ。
「悟くんに教えてもらったら、ぜったいにはやく走れるようになるよ」
「えー、すごい!」
「おしえて、おしえて!」
「分かった。順番にね」
俺も、新しく知り合ったクラスメートたちに走り方のコツを教える。これで彼らも成長できるはずだ。
ドッジボールのチームを作る前に、まずは体の動かし方について覚えたほうが良いかもしれない。
その後にルールの確認をして、戦術を考える。そして、実践練習を繰り返すかな。
それから後で、先生に大会へ出場するための手続きについて相談しないと。色々と調べて、エントリーするための手順は分かっている。参加するためには学校の承認が必要なので、先生に相談するのは必須だ。
徐々に、大会出場の準備を進めていく。優勝を狙って、これから皆で楽しみながら頑張っていこう。
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