第15話 少し未来の彼女の話 ※隣の席に座る少女視点
※今回のお話は、かなり先に起こる予定のことを書いています。
見方によっては、ネタバレになるような内容が含まれています。
もしもネタバレが気になる方は、読み飛ばしてもらったほうがよいかと思います。
読者の方にはお手数おかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
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悟くんは今、日本を離れて海外で生活をしている。私は、もう少しで中学二年生になろうとしていた。あれから、早くも一年が過ぎようとしている。あの小学六年生のときに起きた出来事から。
「柚彩ちゃん。悟くんから、メール来てる?」
「うん。来てる来てる」
「どんな内容?」
「私にも見せてよ」
「慌てないで、泉穂に
「……私?」
「そうだね」
「わかってるって、柚彩」
柚彩ちゃんがマウスでパソコンを操作して、Eメールのソフトを起動した。そこに新着のメールが届いているマークが表示されていた。送られてきたメールを開いて、皆で内容を確認する。
私たちは、パソコンのメールを使って海外にいる悟くんと連絡を取り合っていた。国際電話は料金が高いので、親から禁止されている。海外に居るから時差があって、電話をする時間を合わせるのも大変なので、メールでのやり取りに落ち着いた。
柚彩ちゃんのお父さんが自宅で使っているパソコンを貸してもらって、女の子たち皆で柚彩ちゃんの家に集まり、悟くんから送られてきたメールを確認するというのが私たちの日課だった。
悟くんの海外での生活や、勉強した内容などがメールに書かれている。
それからやはり悟くんはいつものように、海外でも人を集めて様々な楽しいことに日々挑戦しているようだ。小学生の頃から色々な人を巻き込んで、様々な事をやって楽しんできた悟くんらしい。彼は海外に行っても変わっていないようで、安心する。
「ほら、皆! ここ読んで、ここ!」
「きゃー!」
「私たちのこと好き、だって!」
「すごい」
「悟くんってば、大胆!」
「ドキドキしてきちゃった」
「もうちょっと、詳しく見せて」
おそらく彼は、友人として好きだと書いているのだろう。けれど私たちは、わざと都合の良い方の解釈で、メールを読んで騒いだりしていた。
ここに集まっている4人全員が、悟くんに好意を持っている。彼女にして欲しいと思っている。そんな気持ちを胸に抱いている。
彼が海外へ行く前に告白しておけばよかったと、私は今も後悔していた。そして、他の3人も同じように後悔しているらしい。まだ誰も、彼と付き合っていない。
ここに居る子たち以外にも沢山の女子たちが、悟くんに注目していた。彼はとてもモテる。だから私たちは、彼を取り合わないように協定を結んだ。争ったりしたら、悟くんが悲しむから。
落ち着いて、彼が送ってきてくれたメールの続きを読む。
私たちのことを気にかけてくれる文章が書いてあった。そして、次の休みに日本へ帰ってきた時に遊ぶ計画など。
メールを読み終わって、皆で次の休みについて話し合う。
「悟くん。来月の休みには帰国するかもしれない、って」
「楽しみだね」
「次は延期にならないと、いいんだけど」
「どこに遊びに行ったら、悟くんは楽しめるかな?」
「どこだろう。やっぱり本屋?」
「千絵もそう思う? 読書、好きだもんね」
悟くんは、長い休みの時には一時帰国することがあった。けど、未だにメディアが彼のスキャンダルをスクープしようと追いかけている。日本に帰ってきたとしても、気を休めることが出来なかった。だから、もっと帰ってきてほしいと思うけど無理は言えない。
一年前は、悟くんに関わりがあった多くの友人たちや私たちが記者のターゲットにされて、悟くんが巻き込んでしまったと皆に謝るような状況だった。悪いのは全て、強引に取材しようとしてくる記者たちなのに。
時が過ぎて、以前に比べると落ち着いてきた。けれど、記者たちは今でもしつこく時野一家を追いかけ回しているらしい。
だから悟くんたちは、家族全員で海外へ移住して状況が落ち着くのを待っていた。
悟くんは、日本を離れるのをかなり嫌がっていた。絶対に戻ってくると、私たちと約束してくれた。
高校生になる前までには日本に戻ってくる予定だと彼は話している。だが、もっと先に延びてしまうかもしれない。私たちは今、悟くんと楽しい高校生活を送ることが夢だった。メディアの記者たちには、邪魔してほしくない。
こうなったのは、悟くんが原因ではない。メディアの偏向報道が酷かったせいだ。世間は、一方的に時野一家を悪者にして叩いた。
遺産相続の問題、悪徳業者や介護サービスの不正利用を擁護、さらに資産家だった老人の屋敷を乗っ取り、などなど。
悔しいけれど、私たちはまだ大人の難しい問題など理解することは出来ていない。だけど、悟くんや彼の家族が悪いということは絶対に無いと信じている。
悟くんの教えてくれた事情と、ニュースでやっていた話の内容が大きく違っていたから。どっちを信じるかなんて、決まっている。
これまでに様々な大会に出場してきて、輝かしい結果を残してきた悟くんのことをスーパー小学生として絶賛していたというのに。メディアの手のひら返しによって、ある時から急に悟くんは悪者にされた。
その時に、ニュースや新聞、雑誌という各メディアを素直に信用しないほうが良いという学びを得た。ちゃんとした情報を集めて、嘘かどうか、自分で判断することが大事なんだということを理解した。
だけど世間は、悟くんの事をよく知らない。ニュースでやっていたから、悟くんが悪いと信じている人が大半だろう。本当は、そうじゃないというのに。
悟くんは遠く離れた場所に居て、風評被害や誹謗中傷なんてことは何も気にせず、海外でのびのびと生活しているようだった。
そこに私たちが一緒に居られないのは悔しいけれど、気持ちは全く離れていない。いつか日本に帰ってくると約束してくれたので、それまでじっと我慢して待つだけ。
彼が早く日本に帰れるように願って、私たちは楽しい日々を過ごしていた。
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