第11話 噂は学外まで広まって

 俺たちの大縄跳びチャレンジの噂は、どんどん広まっていった。


 そして何故か、地元のテレビ局がインタビューをしに来ることになった。俺たちの活動について、話が聞きたいそうだ。活動というか、休み時間の遊びだけど。


 テレビクルーが学校にやって来ると早速、撮影が始まった。俺たちは、体操服姿に着替えると、いつものように大縄跳びをしてくれと指示された。


 いつも休み時間に挑戦しているから、私服で大縄を跳んでいるんだけどな。


「298、299、300!」

「「「にひゃく、ッ、きゅうじゅうはちッ! にひゃく、きゅうじゅう、きゅうッ! さん、びゃく!」」」

「「「おぉぉぉ!」」」


 数分間、跳び続ける幼い子どもたち。周りで撮影している大人たちのどよめく声が聞こえてきた。今日は、過去最高の記録である322回まで失敗をせずに跳び続けることが出来た。


 いつもよりも調子が良い。周りにいるギャラリーの視線や撮影用カメラのレンズを向けられて、皆のやる気が上がっていたから限界を超えられたのだろう。


 レポーターの女性が、子どもたちにマイクを向けていた。俺は、少し離れた場所でその様子を眺めている。俺なんかよりも、彼らのほうが元気いっぱいで子どもっぽい返答をしてくれるだろうから、撮れ高も良いだろう。


 と思っていたら、インタビューを受けているクラスメートの1人が俺の方を指差しながら話しているのが見えた。


 何を話しているのかな。疑問に思っていると、レポーターの女性とバッチリ視線が合った。それから、レポーターとカメラマンが近寄ってくる。マイクも向けられた。これは俺も、インタビューを受けないとダメか。


「こんにちは!」

「……こんにちは」

「ちょっと、お話を聞かせてもらえるかな?」

「いいですよ」


 レポーターの女性が話しかけてきて、大きなテレビカメラが俺の顔を捉えていた。しっかり撮影されている。


「君が、このメンバーをまとめているって聞いたんだけど」

「えっと、まぁ……。色々と指示したりは、してました」


 俺が答えると、レポーターの女性が興味深そうな目で見てくる。


「この活動のキッカケも君だって聞いたけれど、本当?」

「最初に大縄跳びを提案したのは僕です」

「そうなんだ! どうして、大縄跳びをしようと皆を誘ったのかな?」

「楽しいことがしたいと思ったからです」

「そっか! ちゃんと、活動は楽しめているかな?」

「はい、とても楽しいです。活動というよりも、遊んでいるだけなので。それから、クラスメートの皆と目標を達成するために集中すると、普段では感じられないような一体感を得られるので」

「そ、そっか! なるほどね。あとは……」


 それから、数分間のインタビューが続いた。皆を上手くまとめるためのコツとか、皆のやる気を高める方法とか、目標回数を決めた理由とか、色々と話を聞かれたので順番に答えていく。レポーターの女性は、少し戸惑っていた。


 小学生なのに、ハッキリと喋りすぎたかな。


「お話を聞かせてくれて、どうもありがとうね! とっても有意義なインタビューが出来たよ」

「そうですか。それは、良かったです」


 インタビューが無事に終わった。レポーターの女性が俺にお礼を言って、ようやく解放してもらった。


 どうにも子どもっぽくない答えを連発してしまったが、テレビクルーの大人たちは満足そうな表情を浮かべて帰っていったから、アレで良かったのだろう。


 インタビューが終わると、俺の周りにクラスメートの子どもたちが集まってきて、皆がワイワイと盛り上がりながら話し合い、喜んでいた。


 初めてテレビに映るとか、レポーターの女性をテレビで見かけたことがあるとか、これから有名人になるかもしれないという期待とか。皆、とても興奮していた。





 それから数日後、撮影された映像が番組になってテレビで放送されるとうことで、家族と一緒にリビングのソファに座って見ることになった。夕食後のことである。


 家族皆で見るのは少し恥ずかしいけれど、母親が既に放送日時をチェックしていたので、隠すことは出来なかった。


「お! 悟がテレビに映ってるぞ」

「ほんとね! ちゃんとお友だちに指示を出して、偉いわね」

「録画してるよな?」

「えぇ、もちろん! ちゃんと録画してるわよ」

「もう一度、確認したほうが良いんじゃないか? 録画し忘れてないか?」

「大丈夫です。さっき、3度も確認したので安心して下さい」

「そうか! じゃあ今は、番組に集中して見よう!」

「……」


 テレビに映ることなんて、初めての経験だった。とても嬉しそうに番組を見ているウチの両親。しかも、録画までしているらしい。それも恥ずかしかった。


 なので俺は、番組を夢中になって見ている両親たちをチラッと横目に眺めながら、黙って時間が過ぎるのを待った。


「あ! インタビューも受けているのね」

「おぉ。堂々と立派に答えているじゃないか。すごいぞ」

「あー、うん。まぁね」


 俺がインタビューされている様子が、バッチリと映っていた。レポーターの女性の質問に、ハキハキとした口調で答えていく。


 そんな場面を見た父親に頭を撫でられながら、俺は褒められた。普通に受け答えをしただけなんだけどな。やっぱり恥ずかしい。そんなに褒められてしまうと、もっと恥ずかしい気持ちになってしまった。顔が熱くなるぐらい。


 俺たちが大縄跳びをする様子が放送された時間は、10分ぐらい。


 大縄跳びにチャレンジしていた子たちがインタビューを受ける様子が、7分ほど。


 そして、俺がインタビューされている様子が10分も。とっても長い。


 その後、学校の先生たちがインタビューを受けている場面が3分ほど映っていた。このシーンは知らない。どうやら、子どもたちとは別で撮影していたようだ。


 俺を映していた時間なんて減らして、先生や子どもたちをインタビューする様子をもっと放送したほうが良かったんじゃないかな、と俺は思う。


 長くテレビに映って、両親が喜んでくれたのは良かったけど。


 約40分ほど、大縄跳びチャレンジに関する映像がテレビに映っていた。


 まさか、思いつきで初めたような遊びが学校内で噂になって、学外まで広がった。そして、テレビ局のクルーがインタビューしに来るなんて、想像もしていなかった。


 こんな事も、あるんだな。驚きである。

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