第3話 小学校に行く

「えーっと、学校へ行く準備をするためには何が必要だっけ……?」


 学校が始まるので、短時間で自分の部屋の中を確認する。


「あった。まだ綺麗な状態みたいだな」


 子供用の小さめなベッドと勉強机、それから本棚。黒色のランドセルを見つけた。とても懐かしいな。まだピカピカで、新品のように綺麗だった。


 小学校に通っていた時にずっと使っていたから革がボロボロになっていて、肩から掛けるための帯状のベルトも千切れる寸前だったのを覚えている。


 ボロボロになったから別の新しいかばんに買い替えてほしいと何度か両親にお願いしてみたけど、我慢しないさいと言われ続けたのが嫌だった思い出として今も記憶に残っている。


 小学校を卒業した後に、すぐに処分されたっけ。今度は、もう少し丁寧に扱おう。


「あと、それから……コレだ」


 ランドセルを見つけた後に、授業の時間割を発見した。これを参考にして、学校の授業に必要な教科書を詰め込んでいけば良い。


 今日の授業科目を確認する。ひらがなで書かれた時間割は、逆に見にくい。


 こくご、さんすう、せいかつ、ずこう。


「コレとコレと、コレかな」


 本棚に置かれている教科書を取り出してから、ランドセルの中に詰め込んでいく。これで、学校へ行く準備は大丈夫だろう。


「さとるー? 時間は大丈夫なの? 早くしないと、学校に遅れるわよー!」

「分かってる。今から行くよ!」


 階下から母親の声が聞こえてきた。あと着替える必要があるかな。急がないと。


 服装はどうしようかな。部屋の中に洋服のタンスがあったので、そこを開けて中を確認してみる。子供用のシャツと短パンしか無かった。ジーパンとか穿きたいけど、タンスの中には見当たらなかった。もう少し大きくなってから、ということかな。


 子供の洋服を着ることに、少しだけ抵抗を感じながら着替える。学校へ行く準備は完了した。ランドセルを背負って、下へ降りる。


「はい、ハンカチとティッシュ。あと忘れ物は無い?」

「うん。大丈夫」


 母親から渡されたハンカチとティッシュを、自分のボケットに突っ込む。


「じゃあ、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 手を振って、家を出た。


 歩き出そうとして、立ち止まる。さて、ここからどっちに向かったらいいのかな。小学校がある場所を、ちゃんと覚えていない。昔過ぎて忘れてしまった。


「たしか、こっちのはず」


 周りの景色を確認しながら思い出す。間違ってたら、元の道に戻ってくれば良い。そう考えて、とりあえず行ってみようと先へ進む。


「あ。まだ、あのコンビニが建ってない。更地だ」


「ここにスーパーが出来るのは、5年後ぐらいかな。それまで、アッチの遠い方まで買い物しに行かないといけないんだよね。確か」


「うわっ!? あの中華料理店、まだやってる時代なのか。懐かしいなぁ」


 歩きながら、景色を見て色々と思い出していた。コンビニやスーパーなどが、まだ無かったり。行ったことのある料理店が、まだ営業していることに驚いたり。


 街の様子を眺めて、少しずつ記憶を修正していく。


 そして、歩いているうちに道が分かった。俺が通っていた小学校はこの先にある。俺と同じ小学生だと思われる子どもたちが、同じ方向へ進んでいる。


 どうやら、この道で間違い無いようだと安心する。


 小学校が徒歩で行けるぐらい近くにあって良かった。自宅がある場所によっては、小学生でも電車通学が必要な場合のある学区である。俺は、中学生と高校生の時には電車通学だった。


「さとる! おはよう」

「うわっ、びっくりした」


 突然、後ろから何者かにタックルされた。地面に倒れないように踏ん張る。何とか耐えた後、何事かと振り向いたら小さな男の子が立っていた。


 元気いっぱいな男の子には、見覚えがあった。小さい時から仲の良かった友だち。社会人になってから会わなくなってしまった彼の名前は、城生じょうおさむだったはず。


「おはよう、脩」

「おう!」


 挨拶したら、彼は返事をしてくれた。良かった、名前は間違えてなかったようだと安心する。そんな彼が、誘ってくる。


「がっこうまで、いっしょに行こうぜ!」

「うん。行こう」


 学校まで一緒に行ってくれるとは、ありがたい。彼の後についていけば、ちゃんと教室まで辿り着けるだろう。案内してもらおう。


 たしか、1年生の時に彼と同じクラスだったはずだけど。いや、違ったかな……。覚えてないや。


「なぁ、きょうはあそぶ?」

「遊ぶ? これから学校に行くんだろう?」

「休みじかんだよ。なにしてあそぶ?」

「え? うーん。ドッジボールとか?」

「いいね! ドッジボールしたい」


 他愛もない話をしている間に、学校まで辿り着いた。下駄箱で上靴に履き替えて、教室へ向かう。ここまでは、脩に案内してもらって問題なく辿り着けた。


「べんきょう、めんどいよな」

「ちゃんと勉強しないと」

「さとるが、かあちゃんみたいだ」


 おしゃべりしている間に、教室に辿り着いた。さて、ここからもう一つの問題だ。俺の席は、どこなのかな。


「おはよう、さとるくん」

「あ、うん。おはよう」


 クラスメートの女の子に挨拶された。だけど、顔を見ても誰なのか思い出せない。誰だっけ。内心で焦っていると、横に居た脩が女の子に挨拶していた。


「おはよう、ゆさちゃん」

「うん。おさむくんも、おはようだよ」


 横で聞いていて、なんとなく思い出した。彼女は、溝江みぞえ柚彩ゆささん。高校生の頃は、クラスのマドンナとしても有名なぐらい可愛い女の子だった。まさか、小学校の時に同じクラスだったとは。全然、覚えてない。


 ところで、俺の席はどこだろうか。確か、後ろの方だったような記憶があるかも。適当に、座ってみるしかないか。一度、チャレンジしてみる。


「さとるくん、そこはアキラくんのせきだよ。まちがえてるー!」

「あぁ、そうだった。ごめんごめん」

「さとるくんのせきは、コッチだよ」

「あ、そっちか。教えてくれて、ありがとう」

「フフン! いいよ」


 空いていた席に一か八か座ってみたら、クラスメートの女の子に間違っているよと指摘された。その後に席の場所を教えてもらえたので、俺は無事座ることが出来た。

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