第4話 小学一年生の授業内容
「みなさん、おはようございます!」
「「「おはようございます」」」
「……おはようございます」
教室にやって来た担任の若い女性の先生が笑顔で、子どもたちに挨拶をする。
皆が声を合わせて元気よく返事している中で、俺は少し恥ずかしい気持ちになり、小さめの声で返事をした。皆の声に紛れて、俺も声を出しているように聞こえているなら良いんだけど。
これから俺は、小学生たちの中に混じって生きていることにある。ということは、今のように恥ずかしいことがこの先も沢山待ち構えていると分かって、不安になる。
いや、でもダメだ。こんなことで恥ずかしがっていたら大変だろうから、いちいち気にしないようにしようと思った。どうせ誰も、俺の本当の姿を知らないんだから。思う存分に小学生を楽しもうと、気持ちを切り替える。
とはいえ、いきなり馴染むことは難しいだろうな。徐々に違和感を無くして、皆に混じっていこう。
「それじゃあ、これから授業を始めますね」
「「「はーい」」」
最初の授業は国語だ。プリントが配られて、ひらがなの書き取り練習が始まった。線をなぞって、ひらがなを書いていく。線から外さないように書くというのが意外と難しかった。
手先を細かく動かそうとすると、思うように出来ない。文字を書こうとするけど、なかなか鉛筆が制御できずに苦労していた。手を動かすのが、かなり大変だ。これは体が小さくなった弊害なのかな。まだ体が成長しきっていないということか。
それでも、なんとか課題を終わらせる。顔を上げると、周りの生徒たちはまだ机に向かって鉛筆を動かし、プリントの線をなぞっていた。
「悟くんは、もう終わったの?」
「はい」
「とっても早いね! それに、ちゃんと丁寧に書けてる。凄いわ!」
俺が書き終わったのを担任の先生が気づいて、チェックされる。結果は、ちゃんと書けていると先生に褒めてもらえた。俺にとっては当然のことだけど、少し嬉しい。
どんな事でも、誰かに褒めてもらうのは嬉しいな。
「それじゃあ君は、特別に次のプリントに挑戦ね。出来るかな?」
「やってみます」
追加の課題が出される。それも、さっさと終わらせる。また早く終わらせたことで褒めてもらえた。そんな感じで国語の授業は終わった。
次の授業は算数。四則演算はちゃんと覚えているから、これも楽勝だった。
「この足し算が出来る子は、手を挙げて」
黒板に書かれた問題を指差して、先生は皆に問題が解けるかを聞いていた。生徒の半分ぐらいが手を挙げる。そんな彼らの中に混じって、俺も手を挙げた。
「じゃあ、悟くん。前に出て、答えを書いてみてくれるかな」
「あ、はい」
まさか当てられるとは思わず少し驚きながら、席から立ち上がって前に出ていく。黒板に書かれた問題を上から順番に、チョークで答えを書いていく。上の方は、手が届かなくて少し背伸びしながら。
「うん。もう大丈夫だよ悟くん」
「はい」
サッ、サッ、サッと5問目まで答えを書くと先生に止められた。あと10問ぐらい問題は残っていたが、ここまでと止められた。
「はい。全部、大正解だね!」
「すげー!」
「さとるくん、すごい」
「かくのも、とってもはやかった!」
先生は赤色のチョークを持ち、俺が書き込んだ答えを上から順番に一つずつ花丸を付けていった。それを見て、クラスメートたちが感心する。足し算を答えたぐらいでこんなに褒められると逆に、申し訳なく思ってしまう。
大人としての記憶があるから足し算が出来ることなんて当然で、ズルをしたような気分になった。そういうのも、気にする必要は無いのかな。
「はい、ありがとう悟くん。自分の席に戻ってね」
「わかりました」
さっさと、自分の席に戻って座る。しばらくクラスメートたちの視線を感じたけど気にしないふりをして、算数の授業を受け続けた。
まだまだ午前中の授業は続いて、今度は生活という科目。どういう事を習っていたのか、思い出せないな。とりあえず授業を受けてみよう。
授業内容は、クラスメート同士で自己紹介を練習するというものだった。これは、とても助かる。この授業のお陰で、分からなかったクラスメートたちの名前を自然に把握することが出来た。
画用紙に大きく自分の名前を書いて、前に出て順番に発表していく。話型に沿って好きなことや、特技などを皆の前で話せるよう順番に練習していく授業だった。
皆の前に出て注目を浴びたりすると恥ずかしがって、声が小さくなったり、上手く話せない子も多かった。俺は、他の子たちと少し違う意味で恥ずかしく思いながら、大きな声で子供らしく自己紹介する。
「これから、僕の自己紹介をします。名前は、時野悟です。好きなものは、カレー。特技は、体を動かすことです。これから皆と仲良く出来たら良いなと思っています。どうぞ、よろしくおねがいします」
「よく出来ました、悟くん。皆さん、拍手!」
パチパチパチと、子どもたちの小さな拍手が教室内に響き渡る。そして、また別の子に順番が回っていく。俺は、他の子たちの自己紹介を静かに集中して聞いていた。
「わたしの自己紹介をします。みんな、きいてください。なまえは
彼女は、俺に席を教えてくれた女の子だ。少し緊張しながら、頑張って自己紹介をしている。結構難しい漢字だけど、ちゃんと自分の名前を書けている。
「すきなものは、ケーキです。えーっと、えーっと……。とくぎは、すいえいです。プールで泳げます!」
言葉に詰まりながらも、何とか話せている。とても可愛い。頑張って、と心の中で彼女にエールを送りながら見守る。
「えっと、わたしの自己紹介は、いじょうです!」
「はい。よく出来ましたね、泉穂さん」
「エヘヘ」
無事に自己紹介を終えることが出来て、緊張が解けたのだろう。先生に褒められて笑顔を浮かべる泉穂ちゃん。
こんな感じで皆の自己紹介は進み、俺はクラスメートたちの理解を深めていった。これから皆と仲良くしたいという気持ちは本心だから、クラスメートたち皆の名前や特技などを忘れないよう、しっかり覚えるために誰よりも集中して彼らの自己紹介を聞いていた。
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