第5話 休み時間
午前中の授業が終わって、給食の時間。
給食当番が配膳してくれた料理を食べる。学校の教室で給食を食べるというのも、かなり久しぶりである。昔を懐かしむ気分による味の補正が入っていたのか、どれも美味しく食べられた。
「あー、美味しっ!」
「悟くんは、好き嫌いしなくて偉いね」
「はい。とっても美味しいです、先生」
何度も繰り返し美味しいと言って給食を食べていると、先生に褒められる。単純に美味しくて食べているだけなのに。
「せんせい! おれも、ちゃんたべてる! おいしいよ!」
「わたしも! おいしい!」
「皆も、ちゃんと食べて偉いね」
美味しく食べる俺に影響されたのか、他の子どもたちも好き嫌いをしないで給食を残さず全て食べていた。それを見て、担任の先生は喜ぶ。ついでに俺は、おかわりも頂いた。腹いっぱいである。
昼食が終わって、休み時間になる。
「はぁ、はぁ……っく。この体は、やっぱり重たいな」
運動場に出て、思いっきり走ってみた。やはり、勇者時代に比べたら全然動けなくなっていた。それは当然か。戦闘に関係するチート能力は、神様に返したからな。
「さとるくん、はやーい!!」
「ね! かっこよかったね、さとるくん」
いつの間にか、女子たちに見られていたらしい。俺が走り疲れて休憩していると、クラスメートの柚彩ちゃんと泉穂ちゃんが、足の速さを褒める声が聞こえてきた。
2人の他にも、何人かの女の子たちが俺に注目しているのを感じる。
子どもの頃は、走るのが速いヤツが女子たちにモテるって聞いたことがあるけど、本当のようだな。
「おい、さとる。おれとしょうぶしろ!」
「えー?」
突然、脩から勝負を挑まれた。おそらく、俺に勝って女子たちにアピールしたいんだろうな。その気持は、よく分かる。
「ふぅ……。わかった、勝負しようか」
「おれが、かつぜ!」
彼の勝負を受けて立つ。脩って、足の速さはどうだったかな。高校生の頃は、俺と同じ帰宅部だった。そんなにスポーツが得意というイメージも無い。でも、今の彼は速いかもしれない。実力は未知数だった。
さて、本気を出すのか。それとも、脩に花を持たせようか。俺は少しだけ考えて、本気で勝負することにした。競争するなら、やっぱり勝ちたい。
チート能力を失った俺は、脩と本気で勝負してみたら意外とあっさり負ける可能性もあるから。
「誰か、スタートの合図をしてくれない?」
「じゃあ、ぼくがやってあげるよ!」
近くに居た同じクラスの男子が、スタートの合図を引き受けてくれた。俺と脩は、スタートラインに並んで合図を待つ。
「いくよ? スタート!」
「ッ!」
「うおぉぉぉぉ!」
良いスタートが切れた。横に並んでいる脩は、声を上げて走っている。気合は十分だけど、少し遅いな。俺たちは並んで50メートルの距離を走り抜いた。少しだけ、脩のゴールが遅かった。僅かの差で、俺が勝った。
勇者時代とは体の強さが違うけれど、体の動かし方などは覚えている。その知識を活用して足の動かし方など調整すると、良い感じに走ることが出来た。
「やった。俺の勝ち」
「くっそぉぉ! もっかい!」
「わかった。もう一回、勝負ね」
とても悔しそうにしている脩に再戦を申し込まれたので、それも受けて立つ。
「これが、おれのフルパワーだから」
「なるほど、フルパワーか」
今度は、靴を脱いで裸足で走ることにしたらしい脩。今度も同じ子に、スタートの合図を頼んで勝負が始まる。
「スタート!」
「フッ!」
「うぉぉぉ! まけないぃぃぃ!」
そして、今度も勝負も俺が勝った。脩は、むしろ遅くなった。裸足で走るのって、思ったよりもスピードが出ないよね。砂利とか踏んで、痛そう。
「くっそー!」
「こんどは、ぼくとしょうぶして!」
「おれも、おれも!」
「わたしも、さとるくんといっしょに走ってみたい!」
クラスメートたちが集まってきた。俺と脩の勝負を見て、次は自分と戦ってくれと挑戦が殺到する。
「わかった! 順番に勝負しよう!」
「よっし、まけないぜ!」
「おれが、ぜったいにかつ!」
「わたしだって、まけないんだから!」
ということで俺は、クラスメートたちと50メートル走の真剣勝負を繰り返した。皆との勝負は、休み時間が終わるまで続いた。そして何とか、1度も負けることなく勝ち続けることが出来た。
俺の身体能力が他の子たちと比べて優れている、という訳ではない。体の使い方について知っているから、どうやったら速く走れるのかを理解しているので勝つことが出来た。
本気の勝負を繰り返し、体の動かし方について色々と修正していったのも大きい。誰かと競い合うたびに俺は、どんどん速くなっていった。
フィジカルではなく、テクニックで勝つことが出来た。やっぱり、知識と経験って大事だな。
その後も、休み時間になるたびにクラスメートから勝負を挑まれるようになった。俺の居るクラスは、負けず嫌いが多かったようだ。
俺とクラスメートたちが50メートル走で競い合う真剣勝負がしばらく流行って、次の日にも休み時間が始まったらすぐに運動場へ出ていって勝負が繰り広げられた。皆でワイワイ盛り上がりながら、勝負を繰り返した。それが、1ヶ月ぐらい続いた。
競い合い、皆の足がどんどん速くなっていく。俺は、本気で勝負した子どもたちに走り方のコツを教えた。それを素直に吸収していく彼ら。テクニックを学んだ彼らと勝負して、とうとう俺は負けるようになった。
負けるようになったが、本気を出して勝率8割程度をキープしている。まだまだ、俺が勝ち続ける!
子どもが相手でも、負けん気の強い俺だった。
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