第9話 休み時間の挑戦

 習い事を始めたり、ちょっとした出来事があったり。


 でも、相変わらず小学校に通うだけの普通な日々を送っていた。ちゃんと真面目に授業を受ける。サボったりしない。代わり映えもない。


 だけど、休み時間に少しだけ変化があった。




 1ヶ月ほど続いていた、休み時間に行っていた50メートル走で誰が速いのか競う真剣勝負に、皆が飽きてきたようだった。


 普通の子なら、飽きてしまったら他の遊びに興味が移って集まらなくなるだろう。なのに、クラスメートたちは俺のもとに集まってくる。飽きているはずの徒競走を、皆で続けようとしてくれるのを感じた。


 これ以上、皆が飽きてしまったことを無理やり続けるのはやめておこうと思った。正直に言うと、俺も飽きていたから。せっかくなら、皆で楽しい気持ちで遊びたい。嫌だと思ったら、止めてしまっても別に問題は無いだろうから。


 ということで、新しい遊びを彼らに提案したくなった。


 鬼ごっこ、リレー、大縄跳び、ドッジボール。どれなら皆で楽しめるかを重視して考えてみる。


 しばらく考えて、次に皆で何をするのか決めた。今度は個人競技じゃなくて、皆で協力してみよう。




「皆! 今から、大縄跳びにチャレンジしてみよう!」

「おおなわどび?」

「どうやって、あそぶの?」

「ここにある大縄を回して、皆で並んで一斉に跳ぶんだよ」


 体育倉庫から借りてきた大縄を、皆の目の前に掲げて見せる。ずしりと重かった。この大縄を回すだけでも、かなり大変そうだ。回し手には、かなりの体力が必要だ。


「これを皆で協力して何回ぐらい跳べるのか、挑戦してみようよ」

「やる!」

「おもしろそう!」

「やってみたいな!」

「わたしでも、とべるかな?」

「なわとびなら、できるよ!」


 皆の反応は良さそうだった。ということで早速、皆で大縄跳びにチャレンジする。


 大縄は、俺が回す。そしてもう片方を回す役を、クラスメート中で大柄な男の子を指名した。彼にお願いして、一緒に縄を回してもらう。


「ぼくが、おおなわを回すの?」

「うん。君なら出来ると思う」

「わかった! やってみるよ!」


 皆が配置について、大縄跳びを何回失敗せずに跳べるのかという挑戦が始まった。


「さぁ! 順番に大縄の中に入って、タイミングよく跳んでね」

「「「わかった!」」」


 腰を落として、腕を大きく振って大縄を回す。これが、なかなかの重労働だった。ただ単純に、大縄を回すだけじゃない。安定させて大縄を回し続けないと、ちゃんと跳べないから。片方を任せた男の子も頑張ってくれているようだ。早くも額から汗を流している。


「今だよ!」

「うん! やった、いけたよ!」

「そこでジャンプして! 足が引っかからないように、注意して!」

「わかった!」


 大縄をグルングルンと回して、皆が跳びやすいように。躊躇っている子たちには、声で入るタイミングを指示してあげた。


 次々と子どもたちが回っている大縄の中に入って、跳ぶことに成功していく。


「あぶない! あ、だいじょうぶだった」

「ちょっと、こわいね。当たったら、いたいかなぁ?」

「ほら、とべたよ! みてみて!」

「わたしも、いっぱいとべた!」


 タイミングよく大縄の中に入って、跳んでいく。クラスメートたち全員が無事に、縄の中に入ってジャンプを繰り返した。


 何度か縄に足を引っ掛けてしまう子も居たけれど、少し練習するだけで跳べるようになった。


「君は、もうちょっと真ん中で。大変かもしれないけど、なるべく高く跳んでみて」

「わかった」

「それから君は、前の方に移動しようか。それで、大縄を回している人をよく見て」

「うん、わかったよ! さとるくん」


 位置を調整する。体力がありそうな子、跳ぶのが得意そうな子を中央に配置する。そして、その他の子たちは端の方へ移動してもらう。とても素直に、俺の言うことを聞いてくれる彼ら彼女ら。


 こうやって、目標達成に向けて色々と調整している時間が楽しかった。皆も、俺と同じように楽しいと思ってくれているだろうか。


 考えても仕方ないのかな。今は、俺が思いっきり楽しもう。その楽しい気持ちを、皆と共有できていると信じるだけ。


「じゃあ、始めるね!」

「うん」

「こい!」


 大縄を回す。引っかからないように注意して、クラスメートたちが順番に縄の中に入ったのを確認して、最後の人が入った瞬間からカウントを始める。


 今回は、良い感じに跳べていた。皆の調子が良い。




「50、51、52」

「「「ごーじゅう、ごじゅいち、ごじゅにー」」」


 引っかかることなく大縄を跳べた回数を、声を合わせて数えていく。全員の意識が大縄を跳ぶことに集中して、縄を避けて跳ぶタイミングはバッチリだった。


 後は、皆の体力が続く限り跳び続けるだけ。


 50メートルの真剣勝負で競い合っているうちに、彼らの体力は自然と鍛えられていた。その体力が、今度は大縄跳びでも発揮される。だけど。


「63、64、6……ッ」

「あっ」

「あ~あ」

「だめだった」


 誰かの足が引っかかってしまった。大縄の回転が止まる。皆がしょんぼりとした、残念そうな顔だった。


「ドンマイ、ドンマイ! 足が引っかかっちゃったけど、64回も跳べて最高記録を更新してるよ。これって、とても凄いこと。だから次は、100回を超えて跳ぶまで皆で頑張ろうか!」

「ひゃっかい!」

「できたら、すごいね!」

「わかった、がんばるよ!」

「はやく、つぎをやろ!」


 皆の意欲が非常に高かった。十分に楽しめているようで、良かった。今すぐ、次の大縄跳びにチャレンジしようとしている。


 全員のやる気が、みなぎっているのを感じた。なんとか目標を達成したいという、熱い気持ちが伝わってくる。


 目標に設定した回数を跳べるまで諦めない。しかも楽しみながら、クラスメートが協力して記録に挑戦することが出来ているようだった。目論見通り。


 50メートルの速さを競い合っていた勝負から、大縄跳びの目標回数を跳ぶという新たな挑戦へ。特に揉めること無く、スムーズに移行することが出来た。


 いつか大縄跳びの飽きがくる日まで、休み時間になると彼らと一緒に楽しみながらチャレンジを続ける日々を過ごしていた。

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