第7話 習い事を始める

 学校に通ってから数日経って、小学生としての生活にも徐々に慣れてきた。


 目覚めたら朝ごはんを食べて、学校に行き、クラスメートと会話して仲を深めて、授業を受けて、休み時間は誰が速く走れるか競争する。午後の授業が終わったら家に帰って、時々家事の手伝いをしたり、学校で出された宿題をしたり。


 そうこうしているうちに夜になって、夕飯を食べる。お風呂に入って、寝る準備が整ったら寝る前に体をほぐすストレッチをして、ようやく就寝。ぐっすりと眠る。


 これが、俺の一日を過ごす大体の流れだった。


 小学校での勉強は楽勝だったので、俺は将来に備えて自分で勉強することにした。まずは学校の図書室で本を借りて、興味が湧いたことについて詳しく調べていった。


 様々な国の歴史、名作と言われる文学作品、偉人たちの伝記、科学技術が書かれた本を読んで学ぶ。


 異世界では、本というのが非常に貴重だった。こんなに手軽で好きなように何冊も本を借りることが出来て、自由に知識を増やせる環境というのが非常に恵まれていることを、俺は異世界での生活を通じて理解していた。


 手軽に本が手に入る現在の状況をありがたく思って、楽しみながら勉強することが出来た。自由に勉強できることが、得だと思えた。


 以前の俺は、勉強なんて好きじゃない学生だった。普通の中学や高校に進学して、大学にも入った。そして、相応の会社に入社した。


 給料はそこそこ貰っていた。だけど、もっと欲しいと思っていた。あの時、もっと勉強に時間を費やして、いい大学に入っておけば良かったと後悔したこともあった。もっと良い会社に勤めることが出来ていたかもしれない、なんて明るい未来の妄想を何度も繰り返した。


 あんな苦しい後悔は、もうしたくない。そのために、今のうちから積極的に勉強に励んで優等生キャラを目指す、というのもアリかもしれない。


 体を動かすことも得意になっていたので、文武両道という感じを目指せるかもな。自分のキャラクターについて考える。周りから、どう見られるのが良いのかな。


 とりあえず、勉強は続けていこう。今からコツコツ、知識を蓄えておく。こうして事前に準備しておけば、高校、大学の勉強も楽になるだろうから。


 今はまだ、パソコンが普及していない時代である。インターネットを駆使すれば、知識を学ぶスピードをさらに加速させることが出来ると思う。けれど今は、ネットを使うことは出来ないので、自分で出来る範囲で色々と勉強しておく。将来のために。




 休日になると、俺は両親に色々な教室やレッスンなどの見学に連れて行かれた。


 野球クラブ、サッカークラブ、水泳、ダンスレッスン、ピアノ、そろばん、剣道、空手、柔道、英会話、ボーイスカウト、などなど。興味があること、やりたいと思うことを好きなだけ挑戦してみろと言われた。うちの両親は、とても教育熱心だった。


「悟は、どんなことを習いたい? どれが楽しそうだった?」

「え? うーん、そうだなぁ……」


 父親に質問される。見学しに行った習い事の中から、好きなのを選べと言われた。選んだ習い事に好きなだけ通わせてくれるらしい。俺は、どうしようか悩んだ。


「ダンスレッスンは? どうかしら?」

「うーん。やはり男として、剣道か柔道とかの武道を習わせたいよな」

「英会話も、将来のために必須でしょう」

「将来のためを考えるなら、水泳が良いんじゃないか? 体力増強のトレーニングに最適だと聞いたことがある」

「東大生は、ピアノを習っている子が多いらしいわよ。この子なら、もしかしたら」

「ーーー!」

「~~~!」


 両親が、どの習い事をさせようかと熱心に話し合っていた。2人で白熱して、俺は蚊帳の外になった。


 そういえば昔も、今と同じように色々な習い事をさせてもらっていた。その時は、やる気なんて無かった。全ての習い事が中途半端に終わって、月謝が無駄になった。今考えると、ものすごく勿体ないことをしていたよな。時間もお金も。


 今度こそ、ちゃんと学びを得て自分の力に出来るように習い事を有効活用しようと思う。


 さて、どれを選ぼうかな。これは、かなり慎重に考えて選んだほうが良さそうだ。


 とりあえず、ボーイスカウトは止めておこう。野外活動について学ぶことが目的の ボーイスカウトは、俺には必要ないかな。


 俺が勇者として活動していた頃、嫌というほど森の中を歩き回り、何度も繰り返し野宿した。野外での活動については、ボーイスカウトから学ばなくても出来てしまうだろうから大丈夫だ。


 せっかくなら、体を鍛える運動系の習い事をしたいと思った。その他にも、楽器の演奏を覚えていたらカッコいいだろうな。


 俺も男として、女性にモテたい気持ちが強かった。将来は、絶対に彼女がほしい。美人の奥さんが欲しい。そのために楽器を覚える。動機は不純かもしれないけれど、そんな理由で楽器を演奏する方法を覚えたいと思った。


 後は、日本語以外の言葉を話せるようになっておくと便利だろうな。俺はこの先も一生、日本で暮らしていくつもりだった。でも、海外に行くこともあるだろうから。その時に通訳を介さずに話せるようになったら、便利だろうと思う。


「父さん、母さん。俺、この習い事に通ってみたい」

「ん? そうか、なるほど。早速、手続きしておくよ」

「悟がやりたいことを見つけてくれて、良かったわ。頑張ってね」


 ということで俺は水泳とピアノ、英会話という3つの習い事をさせてもらうようにお願いした。わかったと、両親から許可が出る。すぐ申請も出してくれて、翌週から習い事に通うことが決まった。




 平日は学校の授業が終わってから、月曜日と木曜日にピアノのレッスンを受けて、火曜日に英会話教室、水曜日と金曜日は水泳教室に通っていた。


 学校が休みの土曜日にもピアノのレッスンがあって、それが終わった後に英会話のレッスンを受ける。隔週日曜日に水泳教室もあった。


 とにかく、小学生だけど習い事でスケジュールが埋まって、急激に忙しくなった。でも、有意義な時間を過ごすことが出来ていると感じていた。習い事を楽しみながら通わせてもらっている。




 教室までは、母親の運転する車に乗せてもらって向かう。毎回の送り迎えなんて、とても大変そうだ。けれど、母親は面倒臭がらずにやってくれた。本当に感謝だ。


「ほら、今日も頑張ってきなさい」

「うん。行ってくるね」


 今日も教室まで送ってもらって、俺は習い事を始める。しっかりと先生から技術を学んで習得する。集中して、レッスンを受ける日々を過ごした。

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