第3話 アニメの第三話は大体急展開

 早く今日になった。

 部屋は王国が用意してくれたし、武器から防具から何もかも用意してくれた。

 しかし、防具は手に取った段階で装備は諦めた。


 なぜなら重いからだ。

 現代では生粋の営業戦士だったオレは営業カバンより重い物を長時間装備するのは無理だ。


 鉄の塊である防具など尚更。

 折角女神から貰ったスキルもあるし、突き返してやった。

 ご好意を突き返すので、不敬罪とかになるのか思ったが、国王から「男らしい」と言われたので、こいつは案外ちょろいぞ。


 少し遅れて、勇者と合流した。

 勇者は相変わらずの鳥の紋章の鎧を着ている。

 こいつ、寝る時も装備していないだろうな?


「それでは、参ろう」


 勇者にエスコートされる形で、オレは魔物の群れを攻めに行くことになった。

 勇者はエスコートがとても上手で惚れそうになった。

 そんな訳はない。


 オレが馬に乗れないと言うことで、近くまで徒歩だ。

 馬車という話もあったが、目立つし、逃げる時に邪魔になるらしい。


 馬には乗ってみたいと思っていたので、この作戦が終わったら練習してみよう。

 響け、ファンファーレ、届け、遠くまでである。

 ここから、オレのうまぴょん伝説が始まる。


「どうしたのだ?」

「いや、馬術も習ってみたいなって」

「向上心があることはいいことだ。戻ったら私が指導しよう」


 おお!なんと勇者様直々に指導してくださるらしい。

 行幸っ…!なんという行幸・・!奇跡っ…・!


「君は時折不思議な顔をするな、鼻と顎が尖った……」

「あ、いえ、気にしないでください!」


 いかんいかん、ギャンブル好きのエスポワール顔になっていたみたいだ。

 エスポワール顔ってなんだ。


「よし、ついた。この森の向こうだ。隠密行動になるから逸れないようにな」

「わかった、よろしく頼む!」


 森は逸れやすい。

 オレはぎゅっと拳を握り、森に入っていった。


 ◇


 オレは死ぬかもしれん。


 そんな訳で、オレは迷った。

 案外早い段階で逸れて一人になってしまった。

 いやー、外回りで地理には強いと思っていたが、思えばスマホのアプリマップに頼りっぱなしだった。北とか南とかアプリで判断していたことを後から気づいた。


 文明の利器はここまで人の知能を低下させていくのか。

 まさかの急展開に不安よりも笑いが込み上げてきた。


 アニメのキャラなら、ここで年輪の集まっておる方向とか日の沈む方向、北極星の位置やらで進む道を決めるのだろうが、現代世界でヌルヌルと暮らしていたオレに備わっている訳ない。


 キャンプはしようとした事がある。

 それは女の子たちがワイワイ楽しそうにキャンプをするアニメを見たからだ。

「ぬるキャン!」。あのほのぼの感やボッチでもキャンプができる可能性に魅せられた。

 しかし、テントを買い、自分の手際の悪さと冬という悪い北風にテントを吹き飛ばされて、挫折した。

 寒かった、体も心も。

 温かった、実家のこたつ……。


 こたつか、そうだ、この世界でこたつを作った売れば金持ちでは!?

 何かのアニメで主人公が魔王軍幹部と作っていたな。

「あのすば」か。


 おー、そう思えばこんなところで死んでいられないな!

 まぁ、【最強】だからそう簡単には死なないだろうが。


 取り敢えず前に進もう。


「あれ?」


 すると、目の前に魔物がいた。

 丁度、森を抜けたところであった。

 不用意に飛び出したオレと、川で洗濯をしていたゴブリンと目があった。

 目と目が合う〜瞬間、好きにはなれないな、この見た目は。


『転スラ』のゴブリンは可愛らしく描かれていたが、リアルのゴブリンは、こう、グロい。

 トラックに轢かれたみたいな顔している。


 待てよ?オレもトラックに轢かれて死んだんだよな……。

 オレもゴブリン説!?エルフに媚薬を盛ってしまう嫌らしいゴブリンになってしまうのですか?

 やめて!甲冑の小鬼スレイヤーさん!こっち見ないで!


「ひえぇぇええ!!」


 ゴブリンが悲鳴を上げた。

 声は案外可愛かった。

 美声というよりアニメ声だった。


「人族!殺される!いやー!」


 耳が痛い。

 すごく怯えておる。

 ここに来た時みたいにすぐに襲われると思ったので拍子抜けだ。


「どうした?げっ!人族だ!」

「なんてことだ……。ここも、襲われるのか……」


 茂みの奥からたくさんゴブリンが出てきた。きもい。

 しかし、どれも戦おうとする様子が無く、絶望している。

 いったい全体、何事なのだろう。

 というか、ゴブリンと言語が共通なのにも驚きだが。


「み、見逃してもらえませんか?」

「馬鹿、人族は凶暴で残忍なんだ。俺たち皆殺しだ……」


 様子がおかしすぎる。


「ボク、わるい ニンゲン じゃないよ!何かあったの?」

「え?我々の村を襲うつもりでは?」


 オレは勇者に魔物の群れを強襲するとだけ聞いた。

 ゴブリンたちが暮らす村とは聞いていない。


「いや、ここらに人間を襲う魔王軍がいると聞いていたんだが……」

「魔王軍は昨日撤退してしまいました。まさか、こんなに早く人族が動くとは……」


「いやいや、オレはてっきり侵略する魔王軍がいると思って」

「何を言っているのですか、この大陸を侵略しているのは人族ではありませんか」


 そのゴブリンの言葉にオレは言葉を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る