第2話 不法侵入からの器物破損そして窃盗、それが勇者
人間軍に保護されたオレは入念な身体調査を受けた後、何故か国王に謁見することになった。
魔王軍から現れて、魔法の一斉攻撃を受けて生き延びている人間をいきなり国のトップに合わせるなんて頭おかしいのでは無いか?
これは、ファンタジーだからなんでもいいのか?
現世ではまずお目にかかれない廊下や扉。
イギリスとかフランスとかの世界遺産のお城とか行ったらこんな感じなのだろうか?
そう言えば、中世ヨーロッパではそこら辺で糞尿を垂れ流していたらしい。それを踏まないようにハイヒールが生まれたらしいが、この城には糞尿はないようだ。
なんの考察をしているのだオレは……。
「おお、よくぞ、来られた、勇士よ」
いかにもな白髭を蓄えた赤い冠を被ったお爺さん。
恰幅の良い体つきに豪奢な様相。
誰が見ても王様だな。
某RPGゲームでのテンプレとかあるのだろうか?
おお!しんでしまうとは なにごとか!
勇者が負けて死んだ時の台詞だ。
嘆き悲しんでくれているのだなぁと思う。
でも、次の言葉にいつも首を傾げている。
しかたのない やつだな。
おまえに もう いちど
きかいを あたえよう!
死んでいるのにである。
勇者も平気で生き返っているし。
死の概念が気絶程度の世界。
ここもそうなのだろうか?
「話は聞いておる。魔王軍に一騎当千の働きをしたそうだな」
何もしていないぞ。
後方の魔王軍を引き連れて前方に逃げてきたくらい。
あっ、そうか、連れてきたから一網打尽にできたのか。
つまり、オレは囮として知らず知らず貢献していた。
「その恐れを知らぬ心。魔法攻撃を受けて立つ強靭な肉体。おぬしは勇者の素質があるかもしれぬ」
でた!勇者!
この世界にも勇者という概念があるのか。
まぁ、魔王軍と言っていたし、勇者もいるのは必然か。
「勇者ですか?」
「うむ、我が王国はまだ建国して間もない。魔物との戦争を限られた兵力で戦っておる。王国軍の最高指揮官に勇者はいるが、戦争ゆえいつ死んでもおかしくない。だから我が王国は困っている。もし、その勇者が死んでしまえば後任がいない。だから、今後任の勇者を探しておるのだ」
「勇者が見つからないとどうなるのですか?」
「王国は魔物の攻撃に怯え、土地を追われるだろう。人類の敗北だ。人類のため、次期勇者は見つけておかなければならぬ。」
なるほど、だから人外的力を持つ者を引き込もうとしているのか。
でも、だからと言った国王自らスカウトは危険すぎないか?
オレが魔物の化けた姿なら暗殺できてしまうぞ。
だから、入念な身体調査をされたわけだが。
しかし、勇者か。
そう言えば、勇者と言えば特権があったな。
空き家や民家に不法侵入。
箪笥を漁り、壺を割る器物破損。
そして、お金があればポケットへ窃盗。
ゲームではこの流れるような犯罪行為を子供の時ながら平気で行っていた。
そのゲームでは王様が「この地に再び平和をっ!」って送り出して、それらの犯罪を繰り広げるわけだから、平和の概念が崩れる。
これは大人になった心が変に染まってしまったからだろう。
もっと純粋にいなければ。
「分かりました!ぜひ!勇者になりたいです!」
二十歳は若くなった思いで言ってやった。
純粋に無垢なショタ龍司だ。
おっぱいおねいさんに何かされるやつだ、ぐふふ。
王様の前だ。自重しよう。
「よくぞ言った!では早速、勇者を紹介しよう。入ってこい」
「お初にお目にかかります。勇者です」
見るからに勇者。鳥の紋章の鎧を着ている。
というか、日常的に鎧を着ているのか?
日本の武士は、戦以外は具足を脱いでいたという。
それは重いからだ。
重く無いのか?
「話は聞いています。頑丈なようで。是非、王国軍で活躍してもらいたい」
活躍したいが、先程みたいな囮からの一斉攻撃の的はやめてほしい。
できればもっと花形。一騎打ちとか。
「では早速、明日私と一緒に魔物の群れを攻めましょう。大丈夫、規模は小さい。私と2人で強襲だ」
「は?」
展開が早すぎる。
こういうのはもっと時間をかけるところじゃ無い?
友情・努力・勝利。
売れてる週刊誌も言っている。
「それは良い。しっかり学んでくるのだぞ。次期勇者」
国王も乗り気だし。
まぁ、オレには女神からもらったスキルがあるが、もっとこう、魔法とか剣とか学びたいな……。
「では、また明日会おう!」
勇者はそう言って出て行ってしまった。
どうやら、明日から早速異世界冒険が始まるらしい。
急展開に混乱しながらでもワクワクしている自分がいる。
「では次期勇者よ。この地に、平和をっ!!」
国王は誇らしげに言い切った。
多分、あの国王は言いたかっただけなのだろう。
娘の婚約相手が挨拶に来て「娘はやらん!」とちゃぶ台を返すのと一緒だ。
早く明日にならないかな。
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