第1話 着地はやっぱり赤いパワードスーツのあれ

 まずは、あの女神に感謝しなければならない。

 オレは与えられたスキルについて理解しようとしている段階で異世界に飛ばされた。


【強靭】?まぁ、頑丈な肉体なのだろう。

【無敵】?元配管工員の輝く星か?レースゲームでは昔からお世話になってる。

【最強】?最近の小説のテンプレワードだな。


 まぁ、ここまではいい。


【粉砕】?これは攻撃系のスキルか?拳が強くなるとか。


 問題はここから。


【玉砕】?これ死に際は宝玉が砕けるように美しくって意味だぞ。死ぬ時限定スキルか?

【大喝采】ってなんだよ!あの女神、ノリでつけただろ。


 それでだ、何故女神に感謝しなきゃいけないのかというのは、転移してくれた場所だ。

 横を見ると雲が自分と同じ高さにある。

 これは、オレが空を飛んでいるわけではない。

 そう、落下しているのだ。

 親方!空から三十路サラリーマンが!

 言っとる場合か!


 だって猛烈に下から風を受けているもの。

 バンジージャンプはしたことあってもスカイダイビングは無いぞ。

 衝撃映像とかで気絶してる人いるけど、確かに気絶してしまいそうだ。


 しかし、意識が飛びそうになると、強制的に戻される感覚になる。これは……スキル【最強】ではないか?さっそく把握できた。最強の精神力だ。


 そして、この風圧でも体が悲鳴を上げない。

 これはスキル【強靭】だ。


 女神のお陰でもう二つのスキルの初歩を理解した。

 さて、それなら【無敵】は落下しても平気という訳かな。


 ならカッコよく着地したいものだな。

 義経のようにヒラリと落ち葉が地につくようにしなやかな着地……違うな。

 そう!


 着地はやっぱり赤いパワードスーツのあれ!




 ――――ドゴォ!!



 まず右膝は地面に着け、左膝は立てる。

 右腕は地面に拳を突き立てるようにして、左腕は……あれ、どうだっけ?

 上に掲げていたか?

 だめだ、それでは座敷の居酒屋で注文したいのに中々店員が気づいてもらえない人みたいでは無いか。


 あれは地味に傷つくからな。

 入り組んだ居酒屋など、コミュ症には地獄だよ。

 呼び出しボタンぐらい置いてくれって思う。


 っと、どうなった?体は無事か?

 おお、着地も決まった。つまり、【無敵】なんだな。

 まさに、チート系異世界ものだ。


 もう、前半の3つも理解できたぞ。

 これは女神に感謝だ。

【粉砕】は女神へのゲンコツで検証してみよう。


「なんだ?何事だ?」

「なにか降ってきたぞ」


 土煙で何も見えないが、騒然としているな。

 こういう時は大体、可愛い女騎士が先陣を切っている戦場で、ピンチであると相場が決まっている。


 よし、土煙が晴れた。

 おっぱい大きめの女騎士をギボンヌ!


「人間だ!魔王軍幹部へ報告しろ!」

「武装せよ!戦闘だ!」

「周囲に人族の軍が隠れているかもしれないぞ!」


 ははは、どうやらオレは魔王軍の最前線に落とされたようだな……。

 あの女神、世界を救えって根本に落としてきやがった。


「人族の街はまだ先のはずだ。作戦がバレたか」

「ええい!捕まえるなり殺すなりしろ!出来るだけ捕まえろ!拷問にかける」


 周りには見るからに魔物といった奴らが鎧やら剣やら持って走り回っている。


 話を聞くに、これなら人族に攻撃をかけるところだったのだろう。

 そこにオレが運悪く落ちた。いや、女神に落とされた。


 こいつら、隊列を組んでやがる。

 1人に対してしっかりしてるじゃないか。


「死ねー!」


 うお!切りかかってきた!

 棒で殴られる感覚で反射的に受け止めてしまった。


「か、かてぇ……」


【強靭】で相手の攻撃を安易と受け止め、無敵で傷一つつかない。

 よし、【粉砕】を使ってみるか。

 ズームパンチッ!!


「ぎゃあ!!」


 魔物が跡形も無く吹き飛んだ。

 気持ち悪すぎる。感触も残ってるし。

 それに、理不尽な暴力はやっぱり気分が悪いな……。


 最強なのは嬉しいが、優越感は湧かない。

 むしろ、申し訳なさが残る。


「仲間がやられた!」

「おのれ!俺の友を!」


 それを言われたらもう殴れないぞ。

 しかし、いくら無敵でも捕まってしまえば身動きが取れない。

 ここから逃げなければ。


「逃げたぞー!追えー!」

「あっちだ!」


 力の加減が難しいが【粉砕】を意識しなければ普通のパンチになる。

 身の危険を感じない限り封印しよう。

 まぁ、今は身の危険の真っ只中なんですけどね。


 よし、もうすぐ軍の最前方だ。

 後方に行ったら幹部とか居そうだからこっちにきた。

 向かっているのは人間の街なら尚更だ。


 走るオレにラガーマンのように絡みつく魔物。

 もうすぐ抜けられる。

 ゴールはここじゃない!まだ、終わりじゃない!


 前線を抜け出し――


「今だ!一斉攻撃!」


 飛び出したオレのいる場所に無数の魔法が打ち込まれた。

 それは魔物たちが放ったものではないのだろう。

 茂みや崖の上からだ。


 それは、人間側の奇襲だったのだろう。

 魔王軍の先鋒は跡形も無く粉砕されていた。

 死屍累々にか1人立ち尽くすオレの姿はまさに無双者。

 オレは何もしていないが。


 折角の一張羅がボロボロであった。


「隊長、一体残っています!」

「あれは……人だ」

「あの魔法攻撃の中で生きている訳ないだろ」


 つまり、かの拳王のように立ったまま死んでるというわけか?

 右腕を上に掲げて……居酒屋で気づいてもらえない人じゃねーか!

 我が生涯に一片の悔い……だらけだ!


「手をあげています!」

「助けを呼んでいるのでしょう」

「……奇跡だ」


 こうして、オレはこの世界の人間に保護されることになった。

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