第10話 脅威のウイルスとは
グループ課題をする時間が延期となり、舞ちゃんは井上瑛太君とゆっくり話すことができたようだった。
舞ちゃんは、今まではどちらかというと自分から好きになって告白するタイプの子だったから、男の子に告白されて友達から始めるという形が無かったらしく、私の顔を見ると照れ笑いをしてから顛末を話してくれた。
「まずは、友達から始めようって言ってくれて…。」
あー。この笑顔はたまりません…。
頬を上気させて笑う笑顔は、君は天使かと思う程に可愛かった…。
だから、つられて月夜の晩の謎の男の子の話をしちゃったんだよ。
舞ちゃんは驚いていたけど、祝福もしてくれた。
「やっと零にも彼氏が出来たね」って…。
いやいや…。
付き合おうと言われたのでもなく、私自身に恋心があるわけでもなく、出会っただけなのだけど…。
そんなに簡単に恋に落ちることは出来ないよ。私は…。
不思議な男の子だと思ったし、パーソナルスペースが狭いことも嫌じゃなかったけど、私の中では恋愛=結婚みたいな図式があって…。
でも、結婚に関しては、絶望的な未来予想図しか持っていなくて…。
私は植物と話が出来るって自分では思っているけど、これは精神的な病の一つではないかとも思っている。
私の母が精神的に病んで自殺してしまったこともあるけど、妄想とが幻想が過ぎると精神的な病気に移行するんじゃないかって考えているからだ。
だから出来るだけリアルな世界っていうか根拠のある世界で生きていたいって思ってる。
将来的に研究職に就くよりも、学校の生物の教師になりたいって思い始めているのもその影響からだ。
学校とかそういった機関で、堅実に働く自分を想像して、確実な現実を手に入れたいって真面目に考えている。
そこには、結婚とか子どもとかのイメージはなく、だから恋愛もする必要がないって感じているんだ。
大切な人が居なくなる不安は、もういらない。
無くなることが不安ならば、大切に想うような人を作らなきゃいいんだって思う。
◇◇◇
1週間飛んでしまったグループ課題をする時間になった。
今日は、全員集まれたようだ。欠席者はいなかった。
いつも通りに講義棟の小さな教室を借り、私達は集まった。
口火を切ったのは、内田高志君だった。
「そろそろ脅威のウイルスについて考えていこう。」
脅威って言うのはさ、助からないって事じゃなくて伝染性が高いってことだと思うんだ」
「伝染性もそうだけど、治療薬がないってことも重要じゃない?」
舞ちゃんも発言した。
「致死率はどう考えるの?
致死率が高かったら、すぐに封鎖されてエボラ出血熱みたいに、その場所でしか流行らないから、いくら伝染性が高くてもパンデミックにはなりにくいと思うんだけど…。
低すぎても、脅威のウイルスにはならないし…。」
私は自分の中で考えていたことを話した。
「致死率は4%ぐらいがいいんじゃない?
出来れば潜伏期間が長い方がより確実に伝染する地域が広がると思う」
井上瑛太君は、自分のPCを覗き込みながら話していた。
「でも、潜伏期間が長いウイルスって少ないんだよね。
どちらかと言うと短期間での発症がウイルスの特徴かもしれない…。」
「発症から考えると人の免疫能力の差が関係するだろう?
免疫に作用するようなウイルスが発症期間をバラバラにするから、それが一番強いんじゃないか?
例えばエイズウイルスみたいな感じのさ…。」
吉田翔君も話に入って来た。
「症状もさ、風邪っぽいのがいいんじゃない?
直ぐに身体の変調が分かるよりも、風邪かな?って思って病院に行かずに周囲の人に感染していくようなタイプのウイルスって脅威だよね?」
舞ちゃんは可愛く笑いながら、結構怖いことを話していた。
「ウイルス自体がどんどん変異していくっていうのも怖いよな?
治療薬が追い付かない位の速度で変異されたら、絶対治療できないじゃん?」
内田高志君も怖いことを言い出した。
「ウイルスが特定できないように、現存するウイルスと未知のウイルスを掛け合わせるっていうのもありじゃね?
例えば、風邪の原因となるようなどこにであるウイルスにエイズウイルスのような免疫に強いウイルスと新種のウイルスを掛け合わせると…。
治療方法も見つからないし…。」
井上瑛太君が小さな声で話す内容が一番怖い…。
「何だか『20世紀少年』ってマンガの実写版映画みたいだね。
ガスマスクをつけたサラリーマンっぽい人が、世界中のとある道端でスーツケース型のタンクの栓を開くと一斉に未知のウイルスが空気中に放出され、人々が血を吐きながら倒れていく…。」
自分で映画のワンシーンを思い出ながら話していたのに、私は鳥肌が立ってしまった。
「うーん。もっとひどいかな。
だってさ、血を吐きながら倒れたら感染したって誰もが分かるけど、今話しているウイルスは、風邪に似た症状何でしょう?
世界中の何処かにそのウイルスをばら撒かれても、最初は誰も気付かなくて…。
気付かないうちに家族とかに感染をさせていて、気付いたら、重症化してて…。
潜伏期間もまちまちだから、感染経路も特定出来ないし…。
人を一か所に留め置くことは、多分無理で、飛行機とか電車とか移動する人は世界中を回っているだろうし…。
致死率が低ければ、警戒心も低くなるから、多分自分は大丈夫って思う人の方が多くて…。
すぐにパンデミックだって気づけばいいけど…。」
私達5人は、自分達で考えた脅威のウイルスの定義を思いつくまま話していたが、想像するだけで鳥肌が立っていることに気付いた。
恐い…。
こんな生物兵器が出来てしまったら、私達はひとたまりもないだろう。
ジジジジジジ…。
教室の中に取り付けてある防犯カメラの音がやけに響いている。
それほどまでに、私達は自分達が出した結論に対して沈黙してしまっていた。
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