第8話 舞ちゃんの恋愛事情
舞ちゃんの彼氏は、都内の大学に通っている2年先輩で、とっても顔がいいらしい…。会ったことが無いから分からないけど、舞ちゃんはかなりの面食いだから、きっとそうなのだろう。
先日、彼氏の誕生日だったこともあって、かなりお高い財布をプレゼントしたことは、聞いていたけど、その後どうなったのかは知らされていなかった。
だから、先週の週末に舞ちゃんが内緒で彼氏の家に遊びに行っていたことも、週明けに打ち明けられるまで、知らなかったんだ。
舞ちゃんは、誕生日に会った後から連絡が少なくなった彼氏の体調を心配して、突然の『来ちゃった!』作戦をやったらしい。
それで、丁度彼氏のマンションの下に着いたときに、彼氏が出掛ける様子だったから、その後をこっそりついて行き、行先で見てしまったのだった。
彼氏は、ブランドものを換金できるお店に入り、舞ちゃんがあげた財布を封も開けないまま換金していたらしい…。
何故舞ちゃんが自分があげたプレゼントだったか分かったのかというと、そのブランドの包みのリボンが自分が作ったものだからだ。
舞ちゃんは手先が器用で、リボンやフリルを可愛くアレンジしてみせるのが得意だった。だから、彼氏のプレゼントにもわざわざ海外製のレースを購入して、新たに包装し直してプレゼントしたのだ。誕生日だから…。心を込めたのだろう。
「いつも商品の提供を頂き、ありがとうございます。」
商品を受け渡す窓口は暗く、店員の顔は見えない…。
「あー。いいからさー。これいくらぐらいになるの?封を開けてないから、箱も綺麗だし、結構原価に近い値段になるっしょ?」
丁度品としては、社長の椅子かと思われるくらい豪華な座り心地の良さそうな椅子にふんぞり返る様に足を組み、横柄な態度で店員と話す彼は、過去にも訪れたことがある様な素振りで話をしていたようだった。
「商品のお値段を査定させて頂きますので、少々お時間を頂きます。」
「早くしてくれよ。俺さー。今からデートだから時間ないんだよねー。」
いつも舞ちゃんに対する態度とは打って変わり、少しイライラした様子で話す彼は、お金の亡者に見えたとも言っていた。
「査定ができました。○○万円となります。」
「ほぼ原価じゃん。やりー。んじゃ、換金宜しくー。」
「はい承りました。商品についておりましたおリボンをどうされますか?
恐らく既製品とは異なると思われますが…。」
「あー。いらねぇし…。ついでに捨てといて…。」
「はい、畏まりました。」
店員と彼氏の話の一部始終を聞きながら、彼氏への想いが引いていくのが分かったって舞ちゃんは話してくれた。
「あーあ。どうして私は、こう男運がないんだろう…。」
深い溜息をつきながら、重たい話をさらっと告白してくれた舞ちゃんに、私は掛ける言葉がなかった。
週明けの誰も居ない教室で、私達は横並びに座って話をしていた。
本当は、満月の夜に起きた私の事件を聞いて欲しかったのだけど、言い出す雰囲気でもなく、何とはなしに舞ちゃんの話を聞いていたら彼氏のこんな話で…。
もうすぐ、課題をやるためのメンバーも集まってきそうな時間だけど、ここは舞ちゃんの話を最後まで聞いた方が良さそうだし…。
「尽くし過ぎちゃうんだと思うけど、好きになると何でもしてあげたくなっちゃうし…。だから、都合のいい女になっちゃうのかな…。」
溜息をつく舞ちゃんの横顔は、とても可愛くて…。
なんで舞ちゃんが軽く扱われるのか、私には理解できないけど…。
「彼が出来ると、彼が言うことは全部叶えたいって思っちゃうんだ。
でもって、最初は遠慮している人も、どんどん欲張りになっていって…。
私だけを好きだと言ってくれた言葉とか気持ちとかって、どこに行っちゃったの?って感じに最後はなっちゃう…。」
何度目かの溜息をついた舞ちゃんが、吐き出すように言い捨てた言葉に、何も言えなずにいた私は、ただ隣でぼんやりと座っていることしか出来なかった。
「お前がさ、相手をダメにしてんじゃね?」
辛辣な言葉が不意に聞こえた。
後ろを振り向くと、内田高志君が立っていた。
その後ろには、申し訳なさそうな表情をした井上瑛太君も居た。
肩に掛けていたブランドのリュックを無造作にドサッと机に置くと、内田君は尚も畳みかけるように言葉を紡いだ。
「アンタさ、いや、舞ちゃんだっけ?男に言いなりになって何が楽しいの?
男はさ、何でも言うことを聞く女には興味が無くなるんだよ。
考えても見ろよ、こいつ何考えてんだろう?って考える方が興味も関心も長続きするだろう?
お前はさ、相手を一番に考えているようで、結局は自分を一番にして欲しいから何でも言うことを聞いてる振りをしてんじゃね?
俺さ、自分本位な奴って反吐がでるんだよな…。
でもって、『私は貴方のことを一番に思ってます』って感じで迫るんだろう?」
あんまりな言い分に腹が立った。
舞ちゃんのこと、何も知らない癖に…。
立ち上がった私は言葉を出す前に、手を出してしまっていた。
パァーン…。
内田君の横っ面を思いっきり叩いた音が教室中に響いた。
舞ちゃんの瞳からは、涙が零れていて…。
声を掛けようとすると、舞ちゃんはサッと踵を返して教室の外へ走り出してしまった。
追いかけようとする私の肩を内田君は、ぐっと掴むとこう言った。
「言い方がきつくて御免…。
でも、瑛太が追いかけたから、多分大丈夫だよ。
瑛太は超が付くくらいお節介で情が深くて、舞ちゃんのことが気になっているけど言葉に出せないような…そんな純情な奴なんだ。
俺とは違って、優しく慰めてくれるよ思うから…。
心配いらないよ、きっと…。
だからさ、彼奴に任せといてあげてよ。
…、それにしても結構いい平手打ちだったな。
グーパンじゃなくて助かったよ…。
あー、痛ててて…。」
内田高志君は、殴られた頬をさすりながら苦笑いをしていた。
嫌味な事を言う割には、友達想いの部分もあって何となく面白い奴だなって思っちゃった。
ま、舞ちゃんへの暴言は後で絶対本人謝らせるけどね。
グループ課題は、吉田翔君が急に欠席になったのと舞ちゃん事件とで、リスケとなってしまった。
今週中には、少しでも内容検討に入らないとやばいんだけどな…。
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