第4話 幼馴染

母が亡くなってから、またおじいちゃんの家に戻った私は、小学校で幼馴染の山本舞ちゃんに再会したんだ。

幼稚園が一緒だった舞ちゃんは、私よりちょっとだけ小さくて、ぷっくりしていて御餅みたいな肌の女の子になっていた。

あれから何年も経ってしまい、20歳になった舞ちゃんは、ふっくらとしたきめ細かな肌とぽっちゃりした体形は変わらないけど、ニコニコ笑う顔は誰にでも好かれる陽気なキャラと相まって友達の多い子に成長している。

舞ちゃんと同じ小学校に通うようになって、私はこれまでの自分のキャラを少しだけ変えて、舞ちゃんと同じように笑う様に心掛けたんだ。

友達は多い方がいいじゃん?

ま、気にくわない人には辛口だけどね。


舞ちゃんは、嫌いな人っていないようで、滅多なことで怒ることもないし、一緒に居て穏やかに過ごすことが出来る友人の一人として今も付き合いが続いている。

何と言っても大学も一緒だしね…。


舞ちゃんの家は、お父さんとお母さんの3人暮らしなんだけど、お父さんは製薬会社で働いているからか、お母さんは専業主婦でいっつも家にいるようだ。

家は一軒家だし、小さいけどイングリッシュガーデン風に作られたお庭があって、いかにも裕福な家って感じ…。

小さい頃からピアノを習っている舞ちゃんは、私にとっては理想のThe 女の子って感じなんだけど、本人としては悩みが尽きないようで…。

専業主婦の母親には毎日生活全般に口を出され…、舞ちゃん的には、たまには一人になりたいって思うようだけど、贅沢な悩みとしか思えない。

って言うと僻みにしか感じないだろうけど、親の有難さって居なくなってから分かるもんだしね…。


舞ちゃんは、美人というよりも可愛いって分類に入るような子で、ふわふわした雰囲気だけど、男の子との付き合いは、私よりもかなり発展している。

初経験は中学3年生になる直前だったかな…。

その頃は、1つ上の背の高い先輩と付き合っていて、卒業式の後に彼氏の家に遊びに行って襲われちゃったらしい…。

舞ちゃんは、先輩が好きだったから後悔はしてないって話してたけど、先輩には本命が別に居て、結局は遊びだったらしく…。

何度かそういった行為があってから、先輩とベッドの中に居るところを本命の彼女が来たらしくバッティングしてしまって、彼女に頬を引っぱたかれて『泥棒猫!』って怒鳴られて…。


修羅場だよね。

彼氏は、いろいろ言い訳したようだけど、結局は情けなくも彼女に『もう二度と浮気はしません』って土下座して謝ったらしい…。

これって舞ちゃんが、浮気相手って事でしょう?

舞ちゃんも、そんな彼氏を見て気持ちがさぁ~っと冷めたって言ってた…。



でも、舞ちゃんは負けずに次の恋にチャレンジする女の子で…。

今の彼氏は、何人目なんだろう…。

舞ちゃんはもてるんだけど、長くは続かないんだ…なんでだろう?


私は、生まれてこの方彼氏なんてものは出来たことが無い…。

自慢じゃないけど、好きになった男の子が居ないんだよね。

舞ちゃん曰く、美人の部類に入るようなんだけど、目力が強いっていうか、恐い印象があるっていうか…。

男の子が寄って来た試しがない。

勉強も運動も格闘技も出来る女の子は、恋愛向きじゃないんだと思う。

残念ながら…。


ま、格闘技を習っているっていうのもダメだなんだと思うけど…。

守りたい物を守るためには、時には力が必要じゃない?

小さい頃から植物と仲良くお話しできる私としては、植物を意味もなく傷つける人が許せなくて…。

公園の花壇を悪ふざけで荒らす男の子に注意したら、思いっきり肘鉄を食らった事件があってから、私は格闘技を習い始めたんだ。

叔父さんが大好きだった古い映画のブルースリーに憧れたってこともあるし…。

身体を鍛えるって結構楽しいんだ。

私の一番の技は、『回し蹴り』…。

数メートル先から走り込んで、右フック、左アッパー、右足から左足を華麗に回しながら蹴り上げる技が入った時は、かなりの達成感がある…。

ま、一度だけしかやったこと無いけどね。

あれは、お年寄りのカバンを引っ手繰った犯人が、たまたま私の方に逃げてきたから出来た技だったけど、警察から表彰状を貰ったっけ…。

そのせいで、中学校とかでは『回し蹴りの女』なんて命名されてしまって、男子が皆ドン引きだったのも、モテない原因かもしれないけど…。


亡くなった叔父さんは、このエピソードを大笑いして喜んでいたっけ…。

『自分の身は自分で守らないといけないよ』って言ってたっけな。


大学に一緒に入学した舞ちゃんは、全寮制が一番魅力だったみたい。

「やっとお母さんから解放される!」って喜んでたっけ。


そして、今は2年上の彼氏との付き合いが始まっている。

彼氏は、他大学の人なんだけど、かなりカッコいいからモテるようだ。

舞ちゃんは、彼の本命になれるように、かなり頑張っているようだけど、『本命』なんていう言葉が出る以上、何人もの女性と付き合っているんだろうな、その彼氏は…。


舞ちゃんの恋を応援したいけど、一人の人と誠実に付き合えない男性というだけで、私的には受け入れがたい…。舞ちゃんには言えない私の本音だ。


恋だ愛だと言ってられない理由はそれだけじゃない。

大学から出されている課題の方がかなりキツイんだ。

それも、めんどくさいグループワーク形式なんだよね…。



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