同性愛者達の街

@kajiman

同性愛者達の街

この世界の恋愛は自由だ。異性を好きになっても同性を好きになっても構わない。異性と同性を共に愛することすら構わないし、誰を愛さなくとも構わない。

但し、人に自分の恋愛観を押し付けてはならない。


過去に異性愛者の王様を好きになった者が、同性愛を強要して国家転覆を企てたとして死罪となってから、その国は国内に同性愛者達の街を作り手厚く保護することにした。

同性愛者にその気が無くとも、世継ぎ出生を阻もうとしたと法律上裁かれたことを、王が憐れんだためだ。

人が人を愛することは尊いことであり、止めることは出来ない。それは性の違いによって阻まれることでも無い。

だが、無理矢理その人の性志向を変えることは、人の尊厳を踏み躙(にじ)る犯罪である。

その国は国民にそう説くことで差別を減らすよう努め、棲み分けを行った。

成人後に役所に申請することで、国民はいつでも同性愛者の街に移住することが出来、同じ性志向の者と愛を育むことが出来るようになった。

もちろん仕事のため、旅行のため、親族に会うためなど、街の外に出ることも自由に出来た。

ただ人目を気にせず暮らせる街を作った。


大多数の人々は王に感謝したが、それでも諦め切れない人々もいた。

同性愛者の美しい女性をパートナーとして求める男や、仲の良い異性愛者の男性をパートナーに求める男。或いはその逆。

王は苦悩した。

無理矢理に思いを遂げることは罪だが、ただ思いを伝えることまで罪として良いのだろうか、と。

人の持つ性志向とは案外に強い。絶対に同性しか受け入れられない者、絶対に異性しか受け入れられない者もおり、その考えを無理矢理変えることはその人の尊厳に関わる。

ただ、だからと言って相手の考えを全く認めないのでは、それはまた違う諍いの種となる。

王は成人した国民一人一人に身分証を発行することにした。

それは、兼ねてよりの課題であった税の管理を行うための台帳機能と合わせ、自らの性志向を記載したカードだった。

国民は自らの性志向にそぐわない告白を受けた際、この国民カードを示すことで穏便に断ることが出来、もしそれでも追い縋られた場合は、警吏に届けることで対応を委ねることが出来るようになった。

悪用を防ぐため、性志向の変更届けはより厳格化されたが、国王は苦悩を抱えていた国民を含むより多くから感謝され政策は成功を収めたかに見えた。


だが、王は批判された。

新聞は、相手の気持ちを慮ることをせずに思いを伝え続けて逮捕された若者の純愛を持ち上げ、カードを提示することでその思いを断った相手とその制度を作った王を糾弾した。

物珍しさから同性愛者の街に移住したものの、これまでちやほやされていた異性としての優遇を得られなくなったため困窮することとなった半端者を、王の政策の被害者だと取り上げた。

また、性志向という個人情報を国が管理することも批判し、併せて税金逃れを防ぐための台帳機能すらもよく分からない理由を付けて批判した。

連日連夜、人を集めては王の宮殿の前で、この批判は国民の総意だと騒ぎ立てた。


そして事件が起こった。

王の政策により自分達の街を得られ、漸(ようや)く穏やかな生活を得られた者たちは、声の大きい煽動者によって今の生活を壊されることを恐れた。

国王に、貴方のおかげで幸せを得られた、だから新聞の言うことに負けず政策を変えないで欲しいと感謝と共に伝えるため、王宮前に集まった。

これには同性愛者に限らず、異性愛者やその他の者も多く集まったが、その思いが正しく取り上げられることはなかった。

あろうことか、新聞には王の政策に反発した大規模デモとして全国に報道された。そして紙面には参加者達の顔写真を添えられ、言ってもいない王政批判を書き立てられた。

その日、顔写真を晒された参加者が無念の手紙を王の元に送り、自殺した。


王は諦めた。

人は人の考えを変えることは出来ず、その考えが人を傷付けようとも、その人が自分の正義を信じている限り止まることはない。

ならばもう、これ以上の歩み寄りは不可能だ。

王は金品をばら撒き、立ち所に政策を法律として施行した。そして法律を破る者を容赦なく投獄し、賄賂によって成立した法律の無効を訴え騒乱を起こした者を法律に則って投獄した。

王もまた、新聞と同じように自分の考えを押し付け押し通す道を選んだ。

ただ批判は甘んじて受け入れた。


王は稀代の暴君として後の世に名を残した。

同性愛者の街と国民カードは、今も残り国民を守り続けている。

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