第31話 外出(と書いてデートイベントと読む)4

「……」

「……」


また蓮を怒らせてしまった。水族館を出てからも何度か呼びかけて謝ったけど、蓮は一言も返してくれない。

とうとう嫌われてしまったのかと思った。でも、手は離されないことが、まだ大丈夫なんだと教えてくれてる気がして、少しだけ希望を持ってしまう。

そもそも怒らせるなって話なんだけどね。分かってるんだけど。なんで蓮が怒るのか全く理解できないからどうしようも無い。モニター越しの時は分かりやすかったのに、手を繋げる程近い今の方が分からない。


「乗るよ」

「えっ、うっ、うん」


繋いだ手を眺めながらぼんやり考えていたので、何も考えずに返事してしまった。一体何に乗るんだ?と疑問を抱いた時には遅く。それを認識した瞬間、蓮と一緒に乗り込んだ。


「扉を閉めるのでお座りくださーい」


従業員さんの声に従って、蓮と隣合ってイスに座る。ガチャりと音がして扉が閉まる。それを合図に、止まっていた思考が動き始める。

なんで観覧車?

思考は動いても意味は全く分からない。どうしてここに連れてきたのか、男同士で観覧車に乗ることへの抵抗がないのか。蓮の考えていることが全く分からない。

とりあえず、カップルでもないのに隣合って座るのも変なので、移動をしようとすると。


「蓮?」


腕を捕まれ引き止められてしまった。向こうへ行くなと言うことなのだろう。


「分かった」

「……」


もう一度座り直すと、蓮は俺の手を握ってきた。そして訪れる沈黙。怒らせた俺から話せることもないので、蓮が話してくれるのを外を眺めながら待つ。

……こうやって蓮と手を繋いだり、二人きりで出かけたりするの、周りから見たらどう映るんだろ。俺的には年の離れた弟を相手にしてる感じだけど。外見は同い年だから、仲が良すぎる二人か、それとも……。


「真琴……」


名前を呼ばれ思考は現実へと戻る。


「ごめん、真琴……」

「……なんで蓮が謝んの?」

「僕のせいでイルカショー見れなかったから……真琴、見たがってたでしょ……」

「まぁ、見たかったけど……イルカショーはまた見に行けばいい。そもそも勝手にはぐれた俺の方が悪いから、ごめん」


俯いていた顔を覗き込んで謝る。久しぶりに見た気がする蓮の顔は今にも泣きそう。

泣きそうな程苦しませたことに申し訳ないと思う。けど同時に、夕日と蓮が似合いすぎて綺麗だとも思ってしまう。

イケメンと夕日の組み合わせってずるいよなぁ……。


「近いっ……」

「ごめん。でも、ちゃんと顔見て謝りたいからさ、上げてよ」

「……ヤダ、見せたくない」

「でも話しにくいからさ、これならいい?」


イスから立って、手は離さないで、蓮の前でしゃがみこむ。これなら髪の毛で顔は半分隠れてるから大丈夫なはず。


「ごめんね、蓮」

「……」

「いつも勝手なことして怒らせてごめん。心配かけてごめん。これからは気をつけるから、許してほしいな……それに、俺はもっと蓮と仲のいい友達になりたいしさ」

「…………ヤダ」


断りの返事にショックと、今さら込み上げてきた恥ずかしさに逃げたくなる。

うぅ……オッサンが言うにはくさ過ぎるセリフを放ってしまった。割りと本気で言ってしまったから、余計にキツい……。


「やっ、ヤダか……あーうん、ごめん今のは忘れてくれたら……」

「僕は友達なんかヤダ」

「うぐっ」


まさかの友達は嫌だに心が抉られる。そんな傷心の俺を無視して、蓮は話を続ける。


「そんなもので終わらせたくない。友達なんて普通の関係じゃなくて、もっとそれ以上の関係になりたい。手を繋ぐだけで終わりたくない。もっとこれ以上のことを真琴としたい」

「どう……いう意、味……?」

「こういう意味だよ」


そう言って、蓮は唇ギリギリの端にキスしてきた。キャパオーバーな蓮の行動。分かったのは蓮のまつ毛が長いことだけで、意味なんてちっとも分からない。

だけどそんな俺を置いて、蓮は話を続ける。堰を切ったように。


「ねぇ真琴、僕がずっと怒ってた意味はね。真琴が関わった人は全員、真琴に惚れちゃうから嫌だったんだよ」

「そんなわけ……」

「あるんだよ。だから僕はずっと牽制してきた。なのに高校に入ってから、一部は怯まなくなっちゃった……今日だって二人も増えたし」


次々と与えられる情報に、頭の処理は追いつかない。いっぱいいっぱいで、近くても最後に呟かれた言葉は聞こえなかった。


「本来の計画なら、真琴を僕に惚れさせてから打ち明けるつもりだった。けど、真琴が色んな人を惚れさせるし、煽ってきたから計画は変更」


蓮は俺の左手を両手で包み込むと、眩しい笑顔で言い放つ。


「手加減しないから覚悟してよね真琴」


言う相手間違えてると思うのは……俺だけ?

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