第30話 外出(と書いてデートイベントと読む)3
人が集まっている場所を求めて歩いていると、老若男女問わず集っている人たちを見つけた。その人たちは団体が集まっているのではなく、一人を中心に集合していた。ので、もしやと思っていると。
「お兄ちゃん!」
「あー……やっぱりあの人か……」
「翡翠!」
翡翠くんが声を上げると、お兄さんは囲っていた人たちをかき分けて、俺たちの元へとやってきた。
凄いな。翡翠くんが言った通り、本当に人に囲まれていた。
「もう!また一人で勝手に行ったでしょ!」
「ごめんねぇ。迷子の子がいて心配で……」
「だからって、お兄ちゃんが迷子になったら意味無い」
「あはは……」
「笑い事じゃない!心配したんだよ」
「ごめんなさい……あれ?翡翠、そちらの方は?」
「真琴さん。僕と一緒にお兄ちゃんを探してくれたんだよ」
「そうだったんだね。翡翠と一緒にいてくれてありがとうございます」
「いえ……」
「お礼を言われるほどでは」と、言葉を続けようとした瞬間、いつものディスプレイが目の前に表示された。
『
出たよ。お馴染みの、攻略対象への最最低限の情報と見たくもない好感度。チクショウ、なんだってまた好感度が【100】……いやまてよ。もしかして【100】は最低に近い数字でなんじゃないか?うん、そうに違いない。だってそうじゃなきゃ、出会って早々から……。
『【100】は最高に近い数値であり、好感度のカウントは【1】単位でされています。レアケースで【100】以上の数値で反映されることがありまふ』
違う。聞きたいのはそこじゃない。つーか誤字腹立つな。こいつが腹立たしいのは今に始まったことじゃないし、ここで声を出してキレたら俺は一躍ヤバい人になってしまう。それは嫌だ。
だからここは歯を食いしばって我慢するけど、ムカつくな。この心を読んでいるかのような回答と、本当に知りたいことは教えない態度。
「はぁーーー……」
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、すみません、先輩の前でため息なんて失礼でしたね」
「いえ、別に気にならないので。それより、顔色が悪そうですが」
「ちょっと憂鬱なことを思い出しただけで、大丈夫ですから」
へらりと笑って見せる。先輩に心配をかけないように。
「君がそう言うなら。もう心配はしませんが、話して気が楽になるなら、いつでも僕に話してくださいね」
「すみません、三雲先輩に心配をかけてしまったようで」
「いえ、それより……僕のことは琥珀でいいですよ」
「へっ?」
突然変わった話題に呆気に取られる。
「三雲先輩……?」
「琥珀です」
「三雲せんっ……」
「あっ、こーちゃんでもいいですよ」
「……琥珀先輩」
どうして俺が出会う先輩たちは、葵先輩しかり強引な人ばっかなんだ。
「んー、もっと親しげな方がいいですが、今はそれで我慢します」
「あはは……」
「でも、僕のワガママに付き合ってくれてありがとうございます」
そう言って琥珀先輩は、俺の頭を撫でてきた。まるで小さい子にするように、優しく。
普通、歳が近い上に出会ったばかりの人にされたらいい気はしない。だけどこの人からのは、もっとして欲しいと思ってしまう。ずっと、このまま……って、ダメだ!
「っ!」
「ありゃ」
「お、俺はそんな子どもじゃないんで!」
「ふふっ」
ま、魔性だ!琥珀先輩は魔性の人だ!そりゃあ、老若男女集まるはずだ。この人に笑いかけられたり、困った顔をされたら、何でも捧げてしまいたくなってしまう。……絶対に二人っきりにはならないでおこう。
「真琴さん」
琥珀先輩から距離を取っていると、近くにいた翡翠くんが手を繋いできた。
「翡翠くん?」
そう言えば色々衝撃があって抜けていたけど、翡翠くんも攻略対象なんだよね。こんな年下まで攻略対象とか、ホント恐ろしいゲームだな……。
「あのっ、真琴さん一人でいましたし、もし良かったら僕たちと……」
「真琴っ!」
「へっ?」
突然名前を呼ばれたので、振り返ろうとした瞬間。空いていた手を掴まれ引き寄せられた。あまりの勢いによろけてバランスを崩してしまったので、背後にいる手を掴んだ人に体重を預けてしまう。
幸いにもバランスを崩したのは俺だけで、翡翠くんは幸いにもその反動を受けなかったようだ。怪我が無さそうなことにホッとし、肩越しに手を引いた人物を確認すると。
蓮がいた。額にうっすら汗を滲ませ、少し息を切らした。
「れっ、蓮?」
「バカ!方向音痴のくせに僕から離れるなんてバカ!」
「ごっ、ごめん。小さい子が一人でいたから気になって……」
「お人好し。それなら僕にも一言いってよ……バカ」
そう言って蓮は俺の肩に顔を埋める。
「ごめん」
いつもならバカバカ言われることに、腹を立てて言い返す。けど、蓮が俺のことをどれだけ心配していたのかが伝わってきたので、「ごめん」以外は言えなかった。
「……で、その小さい子の件は解決したの?」
「う、うん」
「そう。じゃあ行くよ」
「れっ、蓮!」
いつもの様子に戻ったのか、素っ気ない態度で目も合わせず歩いて行こうとする蓮。ちゃんと琥珀先輩と翡翠くんに挨拶をしたいが、心配させてぞった蓮の手は解けない。
「あのっ、琥珀先輩!翡翠くん!すみません、今日は友だちと一緒なので」
「いいよ。真琴さん、またね」
「また学園で会おうねぇ」
「真琴、早くして」
「ちょっ、待って蓮!」
また怒らせてしまった蓮に俺は立ち止まることも出来ず、ズルズルと引きずられて行った。
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