第29話 外出(と書いてデートイベントと読む)2

 苦い気持ちを抱えたまま電車に揺られて数十分。目的の水族館に着いたのでチケットを買おうとしたら、蓮に「先に買ってある」と言われた。なので並ぶことなくスムーズに入場。さすが乙女ゲームのイケメン。同性との外出でもスマートさをみせるか。

 同じ男としての格差に少しだけ落ち込んだが、館内に入った瞬間それはすぐに吹き飛んだ。

 眼前に広がる海の世界。団体で泳ぐイワシにスーッと滑らかに親ぐエイ、そしてジンベイザメの大きさに圧倒される。


「すごっ、見ろよ蓮。でかいなー……」

「うん、大きいね」

「あそこのマグロもすごい大きい」

「そうだね。真琴、下」

「下?……あっ」


 言われた通りに目線を下げると、ダイバーがちょうど魚たちにご飯をあげていた。ちょっとしたショーを催しているのか、周りいる子どもたちは楽しそうに眺めている。


「よく気づいたな」

「……たまたま視線を向けたらいたんだよ」

「へー、でもやっぱ蓮はすごいな。周りにちゃんと目を向けてさ。俺なんか上の大きいジンベイザメに夢中になってた」


 素直に褒めると、蓮は顔を背けてしまう。俺に褒められても嬉しくなかったのかな……。


「……ねぇ、そろそろイルカショーやるみたいだよ」

「マジで、見に行きたい」

「こっち」


案内してくれる背中について行こうとすると、隅でうずくまっている男の子が目に入った。


「あっ、蓮」

「……」


声をかけて引き留めようとするも、人が多いせいで声は届かない。腕を掴んで止めようと思ったけど、さっき嫌がられたことが頭をよぎって躊躇ってしまう。

そうこうしているうちに蓮はどんどん先に行ってしまう。子どもを放っておく訳にはいかないので、蓮のことは諦めて男の子の元へと向かう。


「どうしたの?」


声をかけると、男の子はおそるおそる顔を上げてじっと見つめてくる。


「お兄ちゃんがどっか行っちゃった……」

「迷子か」

「違う。お兄ちゃんが迷子」

「そ、そっか、じゃあ一緒に探しに行こう」

「うん」


しっかりしてる子なのかと思ったけど、少し明るい所に出ると目元が少し赤くなっていた。それは見てないふりをして、男の子に話しかける。


「お兄ちゃんの特徴ってなにかある?」

「顔がいい」

「か、顔?」

「うん、顔がいいからよく人に囲まれてる。お兄ちゃんのんびりしてるから人が多い所に割りといる」

「へ、へー」


とてもわかりやすい特徴だけど、嫌な予感がする。すでにかなりの人数と出会ってしまってるから、もうこれ以上はお腹いっぱい。だけど迷子は放っておけない。

気が重くなるのを感じながら、俺は迷子の手を引いてお兄ちゃん探しを始めた。


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