第18話 チシャ 2

 飛び散ったガラスを片付けた報告を終え、ようやく謎の少年と話ができる場が整った。部屋は現在進行形で魔法にて修復中なので、談話室にて少年の事情聴取だ。

 少年は隙あらば腕に抱きついてこようとしていたが、今は蓮が取り押さえているので俺の傍には来れなくなっている。

 


「で、君はいったいどこの誰なの?」

「僕は真琴の恋人だよ」

「はぁ?」

「にゃっ!」

「蓮そんなにすごむなって、怖がってるだろ」

「……真琴が言うなら」


 姑も真っ青な睨みはすぎに引っ込んでくれたが、相変わらず圧はすごい。窓を壊されて怒るのは分かるけど、こんなにきつく当たらなくてもいいと思う。まったく、なにがそんなに気に入らないんだか……。

 蓮が落ち着いたのを確認してから、少年に向き直って尋ねる。


「あのね、悪いんだけど俺は君のこと知らないし、誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」

「勘違いじゃない!それに真琴は何度も僕のこと好きだって言ってくれた!」

「ええ……でも本当に覚えがないし……」

「嘘なんじゃないの?真琴の気を引こうとして吐いてるんでしょ君」

「ウソじゃないもん!ねぇ真琴、僕のこと分かるよね?何度も会いに来てくれたんだよ……」


 今にも泣きそうな声で訴えられたら、嘘でも知ってると言いたくなる。けど本気で分からないし、他の人と勘違いしてたら後々傷つけることになる。


「ごめん、分からない。でも名前を教えてくれたら……」


 せめて名前が分かれば何か思いだすかもしれないと考えたが、その瞬間鋭い爪で頬を引っ掻かれた。


「っ!真琴なんかきらい!名前なんか……付けてくれなかったじゃん……バカ!」

「こらっ、お前!真琴に何するんだ!」


 蓮の怒る声を無視して少年は続ける。ボロボロに泣きながら。


「二度と会いに来るなバカ!」


 ボン、と音を鳴らすと少年はネコになって談話室から逃げて行った。


「あいつ……真琴、ケガ大丈夫?」

「……」


 ようやく彼が何者なのか分かった。よく考えてみれば分かったじゃないか。あの子の耳には特徴的なキズがあったし、俺が好きだと言ったのもこの学園であの子ただ一人だ。


「追いかけないと」

「真琴?」

「心配してくれてありがとう蓮。ごめん、あの子追いかけないと」

「えっ、待って真琴!」


 引き止める蓮の声を振り切って、あの子がいるであろう場所へと全力で走った。

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