第16話 閑話 3
side三浦 渚
いつ声をかけようか悩んでいるうちに、校舎の片隅まで来てしまった。今ここで話しかけても不審がられると思い、とりあえず様子を見よう。それで話しかけられそうなら声をかけてみよう。
見つからないよう物陰に隠れて見守っていると、真琴はどこかへと立ち去ってしまう。追いかけようとすると、足元に一匹のネコがすり寄ってきた。追いかけるためにこの子をどこかにやりたいが、こうも甘い声を上げられては無下には出来ない。
「お前、お腹空いているのか?」
「にゃっ」
「確か小腹用の煮干しがあったからこれ」
「にー」
美味しそうに食べる姿が可愛らしく、二本目の煮干しを取り出そうとすると。
「ネコー……って渚?」
「あっ」
真琴が現れた。戻ってくるとは思ってなかったので内心焦る。立ち去るのも変なので視線を逸らしてネコの相手をしていると、真琴は隣にしゃがんで缶詰をネコに与える。
「渚もこいつに捕まったのか?」
「ああ。その袋、真琴もか」
「そーオネダリされちゃってさ。可愛すぎるから買ってきた」
「にゃーにゃー」
「分かった分かった。あげるからちょっと待って」
無邪気な笑顔に胸の辺りが締め付けられる。女子に笑いかけられてもこんな感情沸かなかったのに、なぜだろう。
初めての感情を弄んでいると、ふいに真琴が話しかけてきた。
「そう言えば、なんて渚はここに?」
「…………散歩」
「ん?そうか、じゃあ俺と一緒だ」
本当は真琴に話しかける機会を伺いながらずっとつけてたけど、それを言っては引かれてしまうのは流石に分かる。何度か爽に鈍いと言われたけど、これぐらい分かる。
ネコを見るふりをしながら真琴を盗み見ていると、その頬に睫毛が付いているのを発見する。取ってあげた方がいいと思い、近づいて頬に手を伸ばす。取ってそれを見せると、真琴は焦った様子で走り去ってしまう。
「あっ、一緒に帰ればよかった」
「にやっ」
当初の目的であった一緒に帰ることができなくて残念がっていると、ネコが慰めてくれた。そうだ、こいつを口実にまた話をしよう。ここなら二人きりになれる。
「うん、またお前に真琴と会いに来るよ」
しばらくネコと遊んでから、俺はその場を後にした。
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