第2話 オープニング
「…………ちゃん……」
「んっ……姉さん……もう、少し…………」
「お兄ちゃん!」
「うわっ!」
突然の衝撃と大声に飛び上がる。ぼんやりとする視界が明瞭になってきて、ようやく声の主が分かる。
「もう!入学式の日に寝坊するなんてありえない。だから程々にしたらって注意したのに!」
文句を言いながらもテキパキと準備を進めてくれる女の子。時折見えるご尊顔はかなりのものだ。目が覚めたら美少女がいるのはかなり興奮するものがある。が、ニートの俺を起こしてくれるような美少女の知り合いはいない。
この子は誰だ?
まじまじと女の子を観察しながら考えていると、服をぶん投げられる。
「ぶはっ」
「ぼーっとしてないで着替えて!」
「ええっ……」
おかしいな。今日も出かける用なんて俺にはなかったはずだ。
不思議に思い口を開こうとするが、女の子に聞けそうな雰囲気でもないので大人しく言われた通りにする。受け取った服に袖を通して、ネクタイを締めようと鏡の前に立つ。しかしそこに映っていたのは、いつもの冴えないニートではなかった。
そこには、『ドキ学』の悪役キャラの、主人公の双子の兄『真希真琴』がいた。
「はぁ!?」
「わっ!急に大声上げないでよ。どうしたの?」
ギギギ、と壊れたロボットのような音がなりそうなほどぎこちない様子で声の方を見る。
どうして気づかなかったんだ……。この美少女は散々スチルで見てきたのに!どう見ても『ドキ学』のヒロインじゃないか!ゲームのヒロインがなぜ目の前にいるのかは一旦置いておこう。今は状況把握が先だ。
そう言えば、さっき入学式に遅れるとか言っていたな。ということは今はプロローグ。物語が始まったばかりだ。いや待てよ、俺たちの入学式ならそうだが、ヒロインが在校生代表として新入生を迎えるイベントがあった。そうなると物語の中盤の可能性があるな。よし、ヒロインに確認してみよう。
「な、なぁヒ……妹よ」
「なに?」
「今日って俺たちの入学式だよ、な?」
「そうだけど……お兄ちゃん大丈夫?熱でもあるの?」
そう言ってヒロインは俺の額に触れてくる。女の子に優しくされたのなんて小学生ぶりだ……。しかし間近で見ると本当に可愛い。まつ毛長いし肌だってキレイだ。オマケに、幼い頃から過保護すぎて後々悪役になる兄に優しく接するなんて。こりゃ逆ハーを築けても不思議じゃない。
「お兄ちゃん?」
「あ、いや、大丈夫!熱はないから、うん。ほら、早く行かないと遅刻するぞ」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
カバンを持って部屋を出る。ここがゲームの世界である以上、中身が『真希真琴』じゃないことは知られない方がいいに決まってる。例え悪役でも。
靴を履いて玄関を出ようとすると、目の前に突然ディスプレイのようなものが浮かび上がる。SF映画であるような半透明のiPadのようなものだ。
「なに、これ」
「どうしたの?」
「あ、急にこんなものが出てきたんだけど分かる?」
「どれ?」
「だからこれ」
「だからどれ?」
ディスプレイを指さして聞いているのに、ヒロインは見えてない素振りをする。もしかして、俺にしか見えてないのだろうか。
「ごめん、やっぱなんでもない」
「そう、変なお兄ちゃん。やっぱ熱でもあるんじゃない」
「ないよ。大丈夫だから行くぞ」
「うん」
妹の背中を押して玄関を出ようとする。ディスプレイについて調べたいし、俺は後ろを歩こう。そう決めて一歩足を踏み出すと。
「おはよう楓」
「おはよう蓮くん!」
攻略対象がそこにいた。げっ、と思ったのと同時に、半透明のディスプレイに文字が表示される。
『本郷蓮【攻略対象】真希楓と真琴の幼なじみ』
ふーんこれってヒロインとの関係性を教えてくれるんだ。スクロールしていくと、生年月日や好きな物、嫌いな物まで出てきた。
便利だなーと思いながら流し読みしていたが、最後の一文に釘付けになる。
『真希楓への好感度【100】真希真琴への好感度【-50】』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます