優しさの意味を知りたい(優しい彼女)

@slow_dance

第1話

23時が過ぎた。


優子は畳み終えた洗濯物を目の前に暗い部屋で一人、卓也の帰りを待っていた。


ガチャ。玄関の鍵を開ける音がした。


リビングのドアが開いて、拓也が入ってきた。


「え、どうしたの?電気もつけずに・・・」そう言いながら、卓也は電気をつける。


優子が部屋で待っていることは知っている。


「私ね、学生のころから成績はずっとBで勉強もスポーツも平均より少し上くらいだったの」


「ん、どうしたの急に?あぁ、優子は真面目だもんな。」


「そう、真面目なの。真面目って普通なんだよね。ねぇ、卓也は私のことどこが好き?」


「なんだよ、急に。さっきからなんか変だぞ。」


優子は黙っている。


「いや、まぁ優子の優しいところいいと思うよ」


「そうなの。莉佳子は頭がよくて先生にも褒められてた。私がどんなに頑張っても勉強では勝てなかった。愛佳は可愛くて愛嬌も良かったから、男子からモテてたの。遥は美人でバスケ部のエースで女子からも人気があった。」


「優子は優しいね、私はそれしか言われてこなかったの。優しいは何もない人が言われるの。」


「優しいって何?」


「みんながやりたがらない、実行委員も掃除係も引き受けるよ。でもね、感謝はされるけど、誰からも褒められなかった。」


「優しいって普通なんだよ。普通ってつまらないもん。」


「誰も洗濯物畳んで待っててなんて、頼んでないんだもん。そんな優しさいらないんだよ。必要とされるのはかわいくて、笑顔でいつもニコニコしてて。こんなめんどくさいこと言わないの。」


「でも、結局私は普通の優しい人でしかいられないの。彼氏の浮気に気づきながら、気づかないフリをする、そんな優しいフリをしながら彼氏の帰りを待っている。私はそんな私が嫌いです。ごめんなさい。」


そう言って、優子は部屋を飛び出していた。


日付が変わっていた。


2回目の記念日の終わりとともにまた一つ恋が終わった。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しさの意味を知りたい(優しい彼女) @slow_dance

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ