第9話 パニック発作?
……殺される、殺される、殺される!
背筋がみるみる固まっていく。
首と肩がガチガチに凝って、
全身の筋膜がコンクリート化する。
息ができない。
横隔膜も胸骨も動かない。
助けての言葉も出ない。
「ルカ!」
声が段々と遠くなっていく。
その優しい声を聞きながら、
体重のすべてを彼に預ける。
「ころ、される」
「俺は殺さないよ、そこに座ろう」
「生きてる?」
「大丈夫、途中下車したよ」
安心すると眠気が襲う。
意識が遠のいていく。
「もう、電車はやめよう」
優しい彼の声が聞こえる。
※
「ありがとう、ごめんね、また来てもらって」
「いや、いいさ。俺も勉強捗るしね」
「会えて嬉しかった!」
「うん、またね」
※
温かくて頼もしい肩で目が覚める。
パニック障害と診断されたのは18の時だった。
本当は電車に乗れなくて、
でもずっと隠して学生と会社員をやってきた。
最近過労のせいか頻度が上がっている。
パニック発作に効く薬はオーバードーズにならない限界量まで飲んでいる。
認知行動療法も試した。
が、悪化するばかりだ。
最近はお出かけも旅行もままならない。
「それ、本当に広場恐怖なのか?」
「セオリー的にはそうなんだけど、ね」
「ヤブ医者なんじゃねえの」
「前の先生もパニックって言ってたから」
「けど、殺されるってほど追い詰められるの、それ? いつも呟いてるよな」
確かにおかしな点はある。
周囲を男性に囲まれて逃げ道が無くなると、
頭の中で「殺される」が始まる。
昔からそうだったから、みんな電車の中では生きるか死ぬかをしてるんだと思ってた。
彼の言う通りかも知れない。
「お父さん、体調悪そうだったな」
「ああ、いつもだけどね。最近は結構きてるね」
ずっと看病して支えてきた父が余命宣告されてもうすぐ1ヶ月。
文字通り生きるか死ぬか、
切った張ったの世界を私は生きていた。
「父が死んだら不良になる」
という可愛い夢はついに叶わずに三十路を迎えてしまった。
まさか、父の死は序章に過ぎないとは、
父の死がもたらすのは心願成就でも自由でもなく、
見たくも無いパンドラの箱だったとは。
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