第5話 大手町のアヴィーチー
「この水面に映る丸の内も、また一つの現実なんですよ」
「そうだねえ、夜景じゃなくて水面の夜景をじっくり見たことはなかったかも」
「でしょう、アルフレート・シュッツの多元的現実論を大学で学んで、それから大手町で色んなことを考えるんです」
「上のパレスホテルも、下のパレスホテルも、たくさんある現実の一つ、なのね」
「そんなに堅く考える必要無いのかも知れません」
「……冷えてきたね」
「ね。くっついて良いですか?」
予定通り彼のトレンチコートに手を突っ込む。
骨張った手にドキドキする。
身長差が心地よい。
肩に頭を預けて、リモートワークで閑散として丸の内を歩く。
「知り合いいそう」
「いいよ、バレたって」
私は今まで何度同じことを繰り返してきたのだろう。
そしてこれから先、あと何回繰り返せば許されるのだろうか。
君の手を取らなかった、君が振り解いた手を繋ぎ止めなかった、
それはそんなに罪なことですか。
大手町が無限再生される。
元カレはみなこの街で活躍している。
もちろん、君も。
君はまだ髪の毛があるんだろうか。
君の今の暮らしは幸せなのだろうか。
私にはとっくに関係のないことだ。
振り返って、笑顔を作る。
「まだ離れたくないです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます