第2話 記憶力には自信がありません

「一乗谷城址、最高だった!」

「あんな谷に城と城下町構えて、すごい栄えてたんだよ」

「庭の跡見てたらさ、目の前にVRみたいに景色浮かんできたの。絢爛豪華な!」

「ルカは視覚記憶とイメージは得意だもんな」

「ごめん、暗記とかダメ。また聞いちゃうかも。この後はどこにいくの?」

「おいうっかり屋、加賀屋だろ」


あれはコロナ前か。

コロナが来てから会っていない。

日本史の成績が3だった私は、彼のために日本史をゼロから猛勉強した。

記憶力にだけは絶対的に自信が無い。


気管支のあたり、胸の中央が締め付けられる。

もはや持病とも言える腰痛が酷くなる。

身体が暴れているのを感じる。

また号泣でもしているのだろう。

「漢方飲まなかったな」

五苓散を探して口に入れる。

長い味が広がるが、低気圧ウツにはこれしか効かない。


ダウンドッグも鋤のポーズも安眠には導いてくれない。

私に眠るという機能は備わっていないのかもしれない。

無限に広がる暗闇にまた飲まれそうになる。


「お前、そんな奴だったっけ」

頭にリフレインする。

嗚呼、おめでたい人。

お可愛い人。

そうやって単線電車のようなイージーな人生を歩むのは楽そうね。

なぁんて、私は四宮かぐやさんのような深窓の令嬢じゃあない。


となりでいつもの寝息が聞こえる。

時刻は四時。

もう外は白んでいる。

「この時間になれば眠れる、よね」

記憶というのは寝ている間に再構成されるらしいから、

朝起きたら記憶が戻っていることを祈ってすべてを手放した。


セット。


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