私ね、君の記憶が無いの。

にも

第1話 この世界は思っているより説明不能

「あ、えっとね、私、君の記憶が無いの。」

ーー冗談で言っている雰囲気では無い。

「へえ! そんなデートしたんだ! なんか青春だね! そっか……。」

ーーおいおい何言ってんだよお前。俺は全部、会話まで覚えてるってのに。

「やっぱり君と話すと楽しい気がする! さっすが、T大は違うねー!」

ーーまぁ、そりゃそうだろうよ。

「その後出会ったのはクソみてぇな能無しばっかだったわー」

ーーは? え、今なんて?

「やっぱり君くらいのレベルの男の人じゃ無いとね! 頭悪いやつゴメンなんだよな。」

ーーあれ……こんな奴だったかな……記憶力には自信があるんだけど……。



「お前、そんな奴だった?」

その言葉がクルクルと回り続ける。

そんな奴、か。

ベッドの中でコロコロと回り続ける。

そんな奴、かもね。

覆水盆に返らずとは言うけれど、一体この責任の所在はどこにあると言うのだろう。

身体が熱くなる。

鼻の奥がツンと痛む。

左側の目から涙が溢れる。


知らないよ、私だって。

なぜ君の記憶「だけ」が抜け落ちてしまったのかなんて。

気づいたら、無常なほど時が経っていた。

ーーは、ははは。ミスチルかよ、なんてね。

閉ざされたドアの向こうには、素晴らしい明日は待っていない。

明日はもう見えてる。

夢はなくても希望はなくても、残された遥かな道を行くだけ。


「ああごめん、もう寝るから、おやすみ」

そう告げてまたベッドに戻る。

明日クマ無く会社に行く自信は、無い。

これは終わりのスタートライン。


オンユアマーク。

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