第22話  啓示

 監視者の去った後は野獣の襲撃とか取り立てて騒ぎとなる事もなく夜明けを迎えた




黒パンと根菜スープの朝食をとった後、本日のそれぞれの行動の確認となる


我々ロバートPTはランクアップ条件を満たす指定対象獣の狩り、勇者PTは月影湖の固有ボスを狩る。

 固有ボスはゲームだと一度倒した後の再湧き時間は20分程度だったが、ルークによると魔力溜りの状況次第だが三日か一週間ほどの時間を経ないと「ぬし級」の魔獣は現れないらしい。

 そして主級は一匹出現すると討伐されずそのまま手を出さずに置かれてもそれ以上数を増やさない。

 もちろん雑魚といわれる下級獣は放置されるとその数増えるのみだが。




この月影湖のボスは『天駆蛇アーケージュ』『岩水晶大蟹クリスタルシェル』『蛙王窮覇キュッパ



「天駆蛇」と「岩水晶大蟹」は昨日討伐さたのでしばらく出現しないと予測され、勇者PTの標的は「蛙王 窮覇」

 湖畔警邏隊にはここ数週間討伐されたとの報告は入ってないとのことなので遭遇する確率は高い。


 ロバート達の指定討伐対象獣も残り一種類、「泥蛙マッドトード」から水属性魔石を採取


「泥蛙」と「蛙王 窮覇」は月影湖マップ東部の泥炭地帯に生息してるので合同ではないが近くで行動することになった、我々ロバートPTが泥蛙狩っている時ボスを目撃したら勇者に知らせる取り決めだ。


 もちろん密漁としないため湖畔警邏隊に狩猟申請は済ませている。



 泥蛙の棲息地、ゲームでは俯瞰視点でやや上空からアバターとその周囲を表示される仕様だった為、モンスターの姿がモロ見えだったので探すのに時間かかった事無かったが |FPS第一人称視点でこの場で立って見ると泥炭とやや茂った草叢くさむらに隠れた泥蛙を狩るのは手間取りそうである。



事前に狩場と対象獣の情報を調べていたロバートは魔道士のレナに「モンスター釣り出し」の指示を出す



「 【鬼火ウィルオーウィスプ】 」

 昼間の光の中、ややおぼろげな光の玉がゆらりとレナの掌の上に浮かぶ


ゲームの攻撃魔法スキルに無かった術だがレナの話では精霊魔法で特殊カテゴリーに入る部類らしい。夜間移動の照明として使う魔法光コンティニュアル・ライトに比べ明るさは劣るがそれに劣らぬ利便性を持つ。


 彼女が掌を前方に向けて「ゴー・フロント」と呟くと光の玉はフヨフヨとした動きで前進する。この魔法の優秀なところは術者から離れた場所に任意の距離・速度で移動制御できるところにある。


 人の胸ほどの高さを蝶々が飛行するほどのゆっくりした速度で茂みの上を進んだその時、黒っぽい土壌の地中からビールケースほどの塊が飛び出し、光の玉を洗面器のように大きく開いた口で飲み込もうと泥蛙が数体姿を現す。


 地球の熱帯地方に居る待ち伏せ型のカエルと似た習性だがサイズが洒落にならない

歯は無いため手足を噛み千切られると言うことはめったに無いものの頭に飛び掛られて窒息死する危険は決して低くない。


 弓弦が鳴り、ルークの放った矢が一匹の泥蛙の口腔を貫いて仰向けに倒した、レナは飲み込まれないよう光の玉を遠隔操作で上下や前後に揺らして泥蛙の狙いをかわす。

 三匹ほどルークの弓矢で屠った後、鬼火は役目を果し終えたかのように空中で霧散した。20mほど離れた泥炭地の地表に無傷で居る泥蛙残り三体


 ルークの弓で残りも倒せるのではないかと聞いたら口腔以外、背中や腹部はぬめる表皮で守られて角度が悪ければ矢では弾かれるとの事。



「魔法で一匹ずつおびき寄せて複数名で囲んで狩る」

片手斧のグリップを確かめラウンドシールドを構えたロバートが指示を出す。

 探すのが厄介だが姿を見せた相手にはそれが基本ですよね。


俺の攻撃魔法だとここの雑魚相手では威力強すぎて倒した後の剥ぎ取りに不都合と判断して、重甲戦士のロバートと双剣士のハンスに防御アップ・回避アップ・速度アップ・攻撃力アップの補助バフをレベル2で掛ける


…………結果瞬殺でした


 いや、誰も怪我しなかったし、短時間で倒せたので疲労もほとんど無いのは喜ばしい事なんですが、監視者の「初心者狩場で卒業者が荒らしている」といった感じの意味合いの言葉を思いだすと喜んでいる場合じゃないなと感じるんですよねぇ……


 気を取り直して依頼されたクエスト達成を目指すべくその後も「レナで釣り出し、ルークで数減らし、バフ受けた戦士系二人で残り殲滅」とのパターンで昼前には水属性魔石は人数分採取終えた。


「出番無かった」とシュンとした神聖魔道士のアイリスには気の毒な事をした。




 魔石だけでなく素材も採り終った遺骸を埋めようとした時、ふと思いつき「穴掘りの魔法とか無いかな? 」と尋ねて見ると「以前は有ったらしいがノームの集落でしか扱っておらず、現在そこへ行く道が閉ざされて習得する者も居ない」との事。

 ノームの集落か、たぶん「マッシュ村」を指しているのだろうがゲームでは品物とか売ってる店は無かった。


 だがゲームとは異なり、倒したモンスターが消えたりせず人が穴掘って処理する必要が有る世界なら穴掘り魔法は求められているはずだ。


「ノームの集落を探す」と言うクエストはゲームには無かったが

バージョンアップによるワールドマップ開放によって今まで行けなかった場所に行くことが出来る、と言う形でプレイヤーの行動範囲を広げる仕様であった。


 コンシューマーゲームじゃなくネットワークゲームである「A・L・O」もその形で新規プレイヤーを呼び寄せるキャンペーンを幾度も行っていた。


ゲームとの類似点と相違点はまだ全部は把握して無いが「過去に有った」と言う事は探して習得できる可能性はある。



問題はその魔法がどの系列に属しているかである

「A・L・O」では魔法の系列は『神聖・精霊・大地・暗黒』で予想されるのは精霊か大地魔法。

 ゲームでは二系統習得可能だが神聖と暗黒、精霊と大地は同時習得不可の仕様。

神聖・精霊の二つを持っている俺は穴掘り魔法が大地に属していると覚える事が出来ない。


いま構築しているジョブスキルは「神聖・精霊・詠唱・魔導・瞑想・魔装」の6つで、大地魔法を習得するには精霊魔法を抜いて大地魔法と入れ替えるしかない


そしてそれはゲームだと課金アイテムを購入して使用するのだが、生憎あいにく商店街ショッピングモールアイコンは見当たらない。



「魔法は便利だけど持ってないのは仕方ないわな」


「そういう時は手を使うしかない、てことだ」


 ロバートとハンスの声で思索に耽ってたのが破れて現状に戻る。

振り返って見ると二人は木製の鍬と円匙スコップで泥炭に穴を掘っていた


昨日の狩りの後始末では使ってなかったのでどうしたのかと聞くと

警邏隊の屯所から借りてきたとの事、借り賃は1本で銀貨1枚


「借りるだけで銀貨1枚っ!? 新品買えるんじゃないのか?」


 銅貨10枚で炙り肉付き晩飯代だったこと思い出して銀貨1枚は晩飯10回分、だいたい5000円くらいの価値だと考えると大量生産品の時代で金属製スコップはDIY店で2500~3000円くらいだったはず。



「あくまで保証金で、破損せず使用後掃除して返せば銀貨は戻ってくるよ」

 そうでなければ借りてまで後始末する冒険者は居ない、人目に付かない場所に放棄する人が出てくるのは明らかである。

 そうなると巡回して後始末をするのは警邏隊の仕事となり、彼らも自分達の仕事増やすより冒険者自身で片づけをするのに便宜を図るほうが互いにあとくされが無い、て事だとか。


今回はロバート達のランク上げのクエストで彼らが主体となり狩りとその後始末までが査定項目。俺はオブザーバー的立場なので穴掘りの肉体労働は免除、てことで倒木に腰掛けて皮袋に入れていたワインをちびちびと飲んで作業が終わるのを待つ事にした。



 ゲームでは気にしてなかったけど、この世界では誰かが片付けなければ遺骸は獣のえさとなり、めぐり巡って誰かの被害を招く事となる、と ごく自然に住民の基礎知識となっているのだ。


 狩場で勇者たちの姿は見えなかったが警邏隊詰め所に借りていた穴掘り道具を返しに行った時、彼らもボスを討伐して後処理して来たと警邏隊に報告していた。


 月影湖での仕事は終わり、あとはグリンワルドの街に戻りクエスト終了の報告すればロバート達ともお別れかな。


 この場所でのグランドクエストの開始イベントが無かったところを見るとロバート達は「世界の騒乱」の本流とは関係の無い一般人なのだろう、たおれても復活の出来るプレイヤーとは違い無茶なレベル上げは禁物だ。


 ゲームと異なりジョブスキルの入れ替えが___習得済みと言う条件の上でだが___入れ替え自由なら「料理人」ジョブに欠かせない「採取人」と「釣り師」の3つは当初の予定通りに取るとして、ゲームでは二魔法職にしたため抜くこととなった「法杖」を入れてスキル上げをするかどうか。


 法杖を入れると魔法の威力(魔攻)と物理防御を上げるメリットがある


 たぶんゲームでは描写を省略されたと思うが対人戦闘において相手の武器攻撃を杖を使っての受け止めや受け流しの意味があると推測する、これは収得すればパッシブスキルとして常時発動するスキルではないかと思う、紙装甲と言われる魔職にとって物理防御上がるのはのどから手が出るほど欲しい。

 ゲームだと二点しか装着できないアクセサリー類で補うのがデフォルトだった。





「ベル・カッツェどの、しばしお待ちを」


ロバート達と一緒にグリンワルドの街へ戻ろうと警邏隊詰め所を出たところで呼び止められた。振り返ると勇者PTのリーダーの侍祭がこわばった表情でこちらを見ている。蛙王を彼らだけで倒した事になにか思うところでもあったのだろうか、それくらいしか思いつかんが。



窮覇キュッパを倒す手助けをしなかったのは悪かったかなとは思いますが、詰問されるほど不義理をしたとも思えませんが? 」


 そう言うとマクギャバンは意外な事を言われたかのように瞠目し、ついで頭を左右に振った。


「いや、捜索の際そちらが見つけたらこちらに知らせる、と言うのが双方の取り決めで、こちらが見つけて戦いに入った事でそちらを責める事など毛頭ござらぬ」


ではいったい呼び止めたのは何用かと声に出さずに首をかしげて続きを促す


 マクギャバンは言葉をまとめる為かしばし瞑目し、ゆっくりと自分の言葉を確かめるかのように話し出した


     ◇      ◇      ◇     


 蛙王 窮覇を見つけ、周囲に採取業者や冒険者がいない事を確認して戦闘に入り、ボスの固有スキル「毒吐き」や「地響き」を回避しつつ20分ほどで蛙王を倒した


そして魔石や素材を剥ぎ取る際も周囲に人や雑魚モンスターが居ないことを交代しながら確認した。


魔石を取り出してかばんに収めた時突然話しかけられたのだ




『あなた方には資格がある、今よりあなた方に使命を授けます』




 声の方を振り向くと何時の間に出現したのか白いゆったりとした衣を身に纏った人物がそこに居た。肩まで流した緩やかに波を打つプラチナブロンドの髪、優しげで居て威厳を含んだ翡翠色の瞳。すっきりとした鼻梁に意志の強さを思わせる眉。


名手の画家が渾身の筆で描いた絵画から抜け出た女神と思える

男とも女ともその両方とでも形容しがたい姿。



マクギャバン、ゲイル、クロフォードをひとしきり眺めた後オルラントに視線を固定して語り始める。



『あなたは託宣を受け、アウレアを旅たった。

 そしてこの地で世界の趨勢を左右する人物と出会うでしょう、彼に助力を請いなさい、魔の侵攻はあなた方が思っている以上に各地に染み込んでいます。

 されど闇の陰謀はかりごとも彼の前では日の光に晒された霜柱のごとく脆く打ち砕かれるでしょう。』




 なんだそれは、勇者に対して「あんた以上にチカラ有る奴居る」と言うとはふざけてるにもほどがある。つか、話の流れ的には俺達を巻き込んで駒にする気がひしひしと感じるんですが。



「なんか詐欺師の話を聞かされている気分だけど、それで俺を呼び止めたのはそいつの『お告げ』とやらのせいか?」


「教会に仕える身としては『啓示』が告げられたとしたら無視する事は出来ぬ」


まぁ、例外は居るだろうけど聖職者と言うのは基本的に生真面目な奴だろうから「神のお告げ」とやらを疑う事など毛頭考えたりしないのは理解できる、こちらが巻き込まれる事無ければ「やぁ、めでたい」と言うのもやぶさかじゃない。


「そちらの言葉を疑うわけじゃないが、こちらの都合も聞かずに勝手に進路決められるのも業腹だな。そんな目立つ格好してるならすぐ探せるだろう、どこに行けば会える? 」


もしそいつが俺の推測通りの存在だと既にこの地には居ないだろうが

教会からの追加情報伝えるだけの奴なら「にんげん」なので痕跡は残る。

湿地に足跡も残さず現れ、消えうせることの出来る奴などそう居るもんじゃない。




「あの方は我々に啓示を与えてくださった後、消え去ってしまわれた」


「転移魔法や魔法具を使った形跡は?」


勇者PTの魔法使い___ホーリーライト王国では「魔法使い」じゃなく「法術士」と呼ぶと本人に後から訂正されたが___クロフォードはかぶりを振った。



「呪文詠唱も魔法具も使用したそぶりは無かった、勇者どのに『よきえにしを』と祝福の言葉かけられた後、その姿は背景が透き通って見えるように影が薄くなり、消え去った。

 かの方が消え去った後に花びらと木の葉が舞うように降ってきた、風が小枝ひとつ揺するほども吹いてなかったのに……」


そう言ってクロフォードは懐から白い花びらをそっと取り出して俺に見せてくれた。


「見せてもらっても?」


そうことわりクロフォードの差し出した花びらを手に取る。似たような種類はこの大陸の各地に生息しているが、手に取った花びらはそのどれでも無い。


…………ゲームではプレイヤーはクエストで必ず手にする、その花は天界にのみ存在する『ヘブンズリリー』




『Angel Law Online』(天使の掟オンライン)



プレイヤーはNPCである上級天使から「人間界に降りて人を助けよ」と使命を受けてこの大陸に降りて、魔界の侵略に苦しむ人を助け、魔獣を駆逐したり英雄の手助けをする事で功績を積み天使としての階級を上げる、というコンセプトだ。


天使と言う素性は隠し、あくまで人が魔と戦うのをサポートする役、という建前



ゲームだとプレイヤー同士を戦わせるPVP(対人戦闘)GVG(集団戦争)を入れたため、天使が「相手の嫌がることを進んでやる」と言う本末転倒さが過疎化を呼んだと囁かれた。




勇者の前に現れた存在はゲーム設定通りなら「グランドクエストの開始」を告げる者なのだろう。オルラントはプレイヤーではなく、この世界で生まれた者だ。


 例え転生と言う仕組みで前世の記憶を継承したと言っても「この世界がゲーム」と言う認識は持っていないと思う。


 プレイヤーとしての記憶を持ち、ゲームアバターの姿で俺が現れた事で何かが狂ったのか


それとも俺がこの世界に来たことが何者かの思惑の範囲内なのか


……今までより周囲に気を張り巡らせる必要があることだけは確かだ








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主人公のやっていたゲーム名が出ました




あと少し森の国でジョブスキル習得して上げた後、他の国に移動する予定

説明過多で話の展開が遅い、と感じられたらすいません

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