第15話 天駆蛇
「紅蓮の炎を纏い 来たれ赫怒の霊鳥 我が前の敵を焼き尽せ【
正式に詠唱呪文唱えた為『黄色茸ファンガス』に放った時とは違い火焔鳥は輝く光を放ち飛んでいく……命中、轟音を響かせ標的は肉片を飛び散らせた
月影湖北エリアを飛行巡回してたボスモンスター『
8対16枚の羽を持ち、全長6mの平たい身体で胴体は板金のような装甲を持つ
林などの障害物地帯を避けて主に湖面上空を飛び、生半可な攻撃は撥ね退ける防御力の高さとクワガタ虫のような大型の一対の大顎と尻尾に槍のような棘を持ち、下手な鎧を貫通する攻撃力を持つ昆虫型魔獣である。
わかりやすいイメージにすれば「ムカデの足の代わりに羽をつけた感じ」だ
『
フォースフィールドはまだ有効時間が残っている、が、追撃呪文は詠唱短縮で行かせてもらう。
「【
雷系広域範囲攻撃魔法「
そのかわり状態異常攻撃スキル仕掛けてくる奴は嫌になるほど居るけどな
閃光雷の4連撃受けて『アーケージュ』は地面に落ちた
だが依然大顎を鳴らし、尻尾をうねらせて攻撃の隙を窺っている
ボスだけあって体力あるな、しぶとい
「ひっ。」
ゲイルは近くに落ちた魔獣に慌てて矢を放つ
だが慌ててたせいか胴体の装甲にはじかれ刺さらない
「おいおい、横殴りするつもりか、邪魔だからどけよ。」
まぁ、内心MPK(モンスターによるプレイヤー攻撃)上等なつもりで位置取りしたのは内緒だがな
「ロバートっ! みんなっ!」
「「「おう」」」「はい」「あい」
成り行きを見守っていたロバート達に声をかけると、ゲイルが弓を構えた時から各自臨戦体勢とっていたので反応は速い。
ロバートは俺から見て左側、盾を構えてアーケージュの尻尾の棘を無力化すべく斧で攻撃。ハンスはロバートの反対側に周り羽の付け根をヒット・アンド・アウェイで削ぎ落とす攻撃。ルークはハンスとおなじく俺から見て右側にポジション取り、慎重に狙って魔獣の目を撃つ
アイリスはロバート、ハンスの順に防御力上昇、攻撃力上昇の補助バフ魔法かける
レナは氷系魔法を放つ、昆虫系には有効だし火炎系は素材剥ぎに都合悪いからナイス判断。
先制攻撃の成功で今の所こちらの被害は皆無
だが麻痺状態から抜け出せば攻撃力あるボスモンスターだけにタゲ取り役として念には念を入れて。
「迸れ我が魔力 盾となりわが身を守れ【魔導障壁<フォースフィールド>レベル2】」
魔導障壁を張りなおして残りMPをチェックする、満タン状態の約半分くらい残っている。素材取るため『火焔鳥』はなるべく控えて麻痺攻撃主体で攻撃するか
精霊魔法の他に神聖魔法でスタン効果ある奴試してみるとしよう。
「我は願う 敵を討ち果たす神界の鉄槌を下したまえ 【
アーケージュの頭部上空に白い光の魔法陣展開、そこから旋回する光の塊が落下、命中。魔獣は光の粉を纏った状態でがくりと地に伏す。
「スタンが掛かった、今ならスキル命中高くなるからよろしく」
スタン状態は約4秒、物理攻撃職には絶好のチャンス
「【
発動の早い
「【
溜めを必要とする
闘気でロバートの斧に薄く光がまとい短時間打撃力上昇、魔獣の尻尾を叩き切った、これで魔獣の
「白夜の彼方より 凍気よ 来たれ【
射撃士の属性射撃武技、詠唱時間と射手の闘気を要する為ここぞと言う時に使うルークの取って置き。
魔獣の頭部と胴体の繋ぎ目に命中、フリーズ効果発動、魔獣の動きが鈍くなる
アーケージュの体力ゲージは残り1/4を切っている
このまま俺にターゲット向けさせたままロバート達に止めを刺させればラストアタックボーナス行くな、と思ったとき、それは起きた。
「【
俺の右背後、ハンスとの間隙を突いて矢が飛んできた
中級弓武技の攻撃と言う事はあの馬鹿……
矢は魔獣の左眼に深く突き刺さったがその為スタン・フリーズ状態が解除となった
胴体の大部分は地に這ったままだが頭を
「ブレス、くるっ!」
警告を発しつつ後退、詠唱短縮で閃光雷を…
GRRRAAAAAAAAAAAAAAAAA
魔獣はその生命力と魔力を消費して最大攻撃【
高圧放水銃のように激しい酸の飛沫が襲い掛かる、
下手に左右には逃げられない、ここで魔獣の攻撃を受け持つ為のヘイト管理してきたのだから。
「今のうちに次のスキル攻撃準備!」
ロバートは尾部から頭部攻撃に移動してくる
それを確認しつつ魔獣の意識をこちらに向け続ける為に雷系魔法選択
「【
ブレスの勢いが落ちたところで魔獣の口元を目掛け閃光雷を撃つ
命中、だが
刃渡り1mの弧を描いた曲刀の如き大顎が迫る、障壁は持つか。
ガリガリと音を立てて障壁を削らんと大顎は開閉を繰り返す
「【
魔獣が俺に意識を集中している隙を突いてロバートの二度目の武技が頭部と胸部の境目に命中
「我が魔力
一拍置いてロバートが後退したのを確認し、装甲の裂け目狙ってレナの無属性誘導弾を放つ。氷魔法の氷弾フリーズより威力低いが精密さではこちらが使い勝手がよい…が、幸か不幸かクリティカル(会心の一撃)が発生、ロバートとレナにターゲット移ってしまった。
頭部を
まずい、瀕死状態とはいえブレスはかなりのダメージが……
「魔よ退けっ【
ブレスが吐き出されると同時にアイリスの神聖攻撃魔法が迎え撃った。神霊力を篭めて打ち出されたそれは面の範囲で叩きつける呪文である。
精霊魔法の雷系や氷系の弾状魔法が点の範囲で穿つのに比べ装甲持つ相手には破壊力では劣る。だが相手のブレスや投擲系攻撃に対し威力を削ぐ、逸らす目的として最適ともいえる
低い確率だがノックバック(吹き飛ばし)効果もある
……
…………
…………………
アイリスの
魔獣が自分で吐いた攻撃でダメージがあるのは笑い話のようだが、口から放射された時点で体内に有るのとは違って被ダメージ判定発生するのだろう
ともあれ、ラストアタックボーナスは神聖導師のアイリスだ
天駆蛇アーケージュの
「えっ、にゃにこれ、なんかオバケにゃ??」
驚いたのか言葉が変ですよ、アイリスさん。それともそれが素なん?
「普通の獣とは違い、魔素の蓄積で変化した魔獣は倒されたとき魔素を放出する事が有って、最後に倒した相手にそれを託す事が時々あるんだ。使い魔で倒した場合とかだとその使い魔に行く場合がほとんどだけどね」
ゲーム時代、俺は通常のフィールドモンスターは範囲魔法でサクサク狩るが、
ボス戦闘は使役する精霊を前衛にしてそいつを補助バフやアイテムによる回復で戦うスタイルを取っていた。
プレイヤー同士でPT組んで狩りをするのは低レベルのほんの初期で、中級と呼ばれるレベルではほとんどソロ狩りだった、それは魔職も物理戦闘職もだ。それは経験値が「PTの頭割り配分」だったのが理由だ、経験値100のモンスターを同レベルのPT5名で戦った場合、各人に100ずつ行くのではなく一人あたり20に分割されて渡される
範囲攻撃を覚えるレベル33~35になるとレベルアップに要する経験値の入り具合が切実な問題となり、PTでやるよりソロ狩りに行かざるを得ない。もちろんそれだとMMOやる必然性が無くなるので、クエストで「PT組まないとは入れないダンジョン」とか「ボス討伐クエスト」とかを用意されるのだが、課金で買うアイテムに「ペット」と呼ばれるモンスター実装された事で実質ボス戦闘はペット強化次第という流れになっていった。
「PT必須ダンジョン」はインスタンスダンジョンというシステムで
入り口に入る時点でPT組めば内部で他のプレイヤーとは出会わない、ボスの取り合いにならないと言う形なのだが、別アカウントを使って造られたサブキャラと組む事で実質ソロで入ることが可能。
金をかけて「ぼっちプレイ」をして何が面白いのかと思う人が居るだろう、俺もそう思う。
だが「いちいち他人と時間を合わせてダンジョン入るよりソロプレイでレベル上げるのが良い」と考える奴も居る
残念ながら俺がやってたゲームは後者の比率が多かったようだ
話がそれたようだ
俺の話した「使い魔」と言う言葉に興味を示したのがレナとアイリスの二人
「えーっ、ベルさん使い魔持ってるの?」
「見たいにゃー、見たいにゃー、いま呼べるにゃ?」
出して見せても良いのだが、現時点でそれを控えたい二つの理由がある
忠誠度が40以下に下がった状態で戦闘不能になると主人を見限って「逃亡」する
強化するのに課金かけた分だけに逃げられると精神的ダメージは大きい
忠誠度全回復は課金という鬼畜仕様だったが、この世界では課金はどうなのか不明
ペット使用が実装されていたらNPC販売のペット餌があると思うがそこらへん確認しないとな。
もう一つの理由はプレイヤーの所属国で最初から手に入れられるペット
メイン戦力の武具精霊であるアーマーナイトの姿は「首なし騎士」だから下手したら悲鳴上げるか腰抜かすかもしれない。
「使い魔は餌やらないと危険だからペットショップで餌与えて満腹にしてからね」となんとか説得する
「えーっ、つまんにゃーい」
「んー、ではクエスト終了後街に帰還した時にお願いしますね」
うん、そろそろ彼女の後ろでこちら見ている
「はははっ、私の使役精霊でよろしければ披露いたしましょう」
まだ居たのかよ、おまえ……
この場から離れていたと思ったら何時の間にか俺のそばに来ていた馬鹿
『エトワール』のゲイル・ブロムバッハがにこやかに立っていた
*
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