第7話 冒険者協会 その1

 冒険者協会の建物はホームタウンマップで言えば中央の沼の西岸やや北寄りに建っている。定番だと「冒険者ギルド」と呼ぶべき冒険者協同組合だが、俺のやっていたゲームでは「ギルド」はいささか事情が異なっていた。


ゲーム開始してからある程度のレベルに達するとプレイヤーは「ギルド創立」してメンバーを集め、それに伴う様々な特典を持つ事が出来る、それはギルドの規模が大きいほど顕著だ。


人が集まれば人間関係で色々衝突生じるが、ソロで活動するのに比べれば我慢できるだろう。これだけならどんどん大きくすれば良いのだがギルドランクで加われる人数には限度がある。

 ギルドランクの上昇には生産職によるクエスト納品が一番大きい。


たぶん読めてきたと思うが

戦闘職と生産職が互いの活動に敬意を持ち、仲良くやれるなら問題無いが、どちらかが自分の活動を誇示するようになれば組織内の空気はギクシャクしたものになるのは必然である。


また、同じ国のギルド間で競争相手で潜在的な敵となる仕様も厄介である


この事は今は触れないで置く。




 話を戻そう、ゲームでは無かった施設がここでは在ると言う事はそれが必要とされてる理由があるはずだ。冒険者協会に登録するには銀貨2枚、銅貨200枚相当を必要とするのは先に述べた


フィールドでモンスターを倒せば自動的にインベントリにお金が入ってくると思ってて、街の施設でそれが通用しなくて焦ったが、フィールドに食料調達しに出かけた先で知り合った冒険者との会話で手持ちアイテムが自分で思っていた以上の価値有るものと知り、売却で当座の活動資金を得る事が出来た。


これはあくまで緊急回避なのは言うまでも無い。


いかに強大な魔法を持っててモンスターを容易く倒せたとしてもそれがこの世界の社会生活と接点を持たなければ道路を爆音立てて走り回るバイクと同じ自己満足、もっといえば暴走となる迷惑行為になる。


冒険者協会に登録する事でこの世界のルールを確認するのは生活の糧を得る方法を知る事でもある、もとの世界の職安+斡旋所と言えば早いか。


 銀貨2枚が高いか安いかは今の俺には判断材料が無いが

「冒険者」を志すにはそれだけの覚悟と意気込みを必要とするのだろうと思う。

そんな事をぶつぶつ言いながら歩いていると目的の建物に着いた。

 傍から見たら「なんか危ない奴」と思われたかもしれない……。



『冒険者協会 グリンワルド支部』

『森の国 ホームタウン』としかゲームでは表記されてなかったがこの街の名はグリンワルドか、ここら辺も知っている知識と違うな……


ちなみに看板は日本語で書かれて居るわけではなく、異世界の文字らしいがそれに焦点合わせると視野にウィンドが透過板に白抜き文字で表示される

ゲームの中なのかまったくの異世界なのか判断に迷うところである。





石造り三階建ての協会の建物に入ると一階の半分がホール(広間)で

右側の壁に掲示板がありA4サイズの紙が所狭しと貼られている、使用されている紙の量から製紙技術がかなり普及していると伺える、左側の壁は板で仕切られ、小さなテーブルと数脚の椅子が置かれている、たぶんクエスト受けるPT用ボックス席だろう。そして正面には受付らしき職員が4名ほどカウンターの中で冒険者の相手をしている。



「あの、冒険者登録をしたいのですが」

ちょうど右端の狐顔の職員の列が空いたのでその前に進んで用件を切り出した

その職員はちょっと小首をかしげながら微笑んで応対する


「あら、異国の方ですか、登録の仕方はご存知ですか?」

いきなり異邦人と見抜かれた、すごいぞこの女性


「えっと、初めてなので説明してくれたらありがたいです」


「登録は『冒険者の心得』の小冊子読んで内容を理解して同意を示し、登録に必要な書類に諸項目記入して提出、登録料銀貨2杯支払いで完了いたしますが、小冊子の内容の読み上げ、質疑応答と諸手続き代行を頼みたい時は別途料金として各手続き料として銅貨20枚ずつ追加となります。」


うーむ、銀貨2枚は最低必要条件で、追加サービスとして全部頼むと銅貨60枚加算されるのか、朝食3回分と考えるとちょっと高いかもしれないが詳しく知るほうが後々の為だな


「はい、それでおねがいします」

「はい、しばらくお待ちくださいね」


営業スマイルをさらににこやかにしてカウンター内机の引出しから小冊子と書類を取り出して俺に手渡す、小冊子と書類を一瞥してみたがやはり異世界文字だ、全部読むとかなり時間掛かる


「内容読み上げとそれらの質問の回答を先に頼みます」


俺はインベントリーから銅貨40枚取り出し、カウンターに置く


別に手続き料全部一度に先払いしても良いのだが内容次第では登録を先延ばしにする事も無いとはいえない


「わかりました、では冒険者協会の意義と業務内容ですが

地域の安全確保の為の障害となる魔獣の駆除と冒険者の仕事の調整、いわばクエストの発注・受注の調整ですね。国の兵による魔獣討伐も有りますが、国土の広さと魔獣の数から手が回らない場合民間にその一部が委託される事が多いのです。

その他生産加工業に必要な素材の採取・収集などがあります、これは商業組合からの依頼を協会がまとめて受注して冒険者に発注する形が基本です、協会を通さず依頼主と交渉して直接クエスト受注してもかまいませんが、報酬の支払いトラブルが起きた場合、協会として調整は出来ません、個人の自己責任となります。


あと、加工・生産職の技術向上のため協会の施設を使用料支払って使う事が出来ます

自分の店舗を持つまでの間生産した品物を委託販売できますし、市場に品薄な商品を補充する為の発注クエストなども協会で受ける事となります。」


 「次に冒険者のランク制度について説明します

受けるクエストには難度が異なるものがあり、適正でないものが受けてクエストに失敗すると協会の信用が低下する事となるので事前にクエストのランク付けを設定してます。冒険者のランクは下からE・D・C・B・A・AA(ダブルエー)・Sと七段階に分けられ、初めての登録者はEランク、【ノービス】からのスタートとなります。


モンスター討伐クエストはDランク【ペイジ】に上がれば受けられますので焦る事はありません。Cランク【エスクワイア】になれば冒険者として一人前とみなされますが「緊急コール」もしくは「強制クエスト」が発令された場合、参加が必須となり拒否する事は出来ません。拒否すれば最悪の場合除名処分が下される事が有るのでそれだけ重い責任が有ると心にとめてください。


Bランク【マイスター】とAランク【マスター】は冒険者で言えば上位階級で、国家の擁する騎士団・宮廷魔術師に採用されて要職に就けるランクで場合により男爵など貴族入りもある階級です。


AAランク【スピリットガイド】Sランク【ソウルティーチャー】

ここまで来ると国家・大陸級の難題に取り組み、解決した者でいわば「英雄」ランクです。経験値貯めればいずれなれる「マスター」とは違い、

天・地・人「その時・その場所・人との絆」そのすべてにおいて恵まれないとなれません。

まぁ、当面はEランクからDランクにあげる事に専念してそれからCランク(一人前)になる事をお勧めします。」


「クエストの受注はあちらの掲示板を見て、受けられると判断した依頼書の受け付け番号と依頼者の名前を受付窓口に申請するか、受付でクエストの相談を頼める事も出来ます。クエストには達成に期限付けられているものと締め切り無しの常時募集のものがあるので注意してください。」


「期限守れないとどんなペナルティが?」

ここまで説明して一休みと水差しから注いだコップの水飲んで一息ついた受付嬢に質問した


良くぞ聞いてくれましたといわんばかりに営業スマイルから含みのある笑顔に変わり


「依頼された内容達成した場合は報酬の減額程度で済めば良い方で、報酬は受け取れず罰金支払う事態もあります。依頼された内容を達成できず、他の冒険者に依頼の引継ぎをする場合は罰金と警告が行きます。三回連続でクエストに失敗するか、そのランクでの通算五回失敗するとランクの降格。

 最低ランクでの降格は協会からの除名処分となり、「冒険者失格」としてブラックリストに載り、それは他国の協会支部にも通達が行きますので安易なクエスト受注はしない事です。」


お嬢さん、その笑顔は完全に肉食獣の狩りモードになっていません?

ふさふさ尻尾が左右にくねってるし……まぁ不真面目に軽い気持ちでクエスト受けて失敗されたら尻拭いが大変だと理解出来るし、協会の評判にも響くだろうから最初で脅しておくのは正しいと思いますです、はい



「あと、気になってたのですが『緊急コール』と『強制クエスト』とは何ですか?」

薄々内容は予想できたが、以前やってたゲーム内容からそれは避けられないと思いつつ質問した


「モンスターの異常発生による討伐クエスト」

「モンスターの集落襲撃・防衛クエスト」ならさほど心配して無い


問題はアレが有るとレベル100の俺でも生き残れる自信はまったく無い。





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