第16話 王様殺しの疑いよりもボロ家の壁を直して欲しい問題

「さて、それじゃ……まずは自己紹介から。俺がカムロン、こっちがテルで,テルのお母さんだ。それであなたは王様殺しの王国騎士団元団長さんだよね?」




「ちっ……違う! 私は王様を殺してなんかいないわ。私が行った時にはすでに王様が倒れていたの。王様は死んでしまったの?」




「詳しくは知らないが……今のところ未遂だって話。どっちにしろ、今国中を騎士団たちがあんたを探している。ここボットムはあんたのせいでいい迷惑だ」




「それはごめんなさい。でも、本当に私は王様を殺してはない。私が王様に呼ばれて会いにいくと倒れていたから、必死に回復魔法をかけていたのよ。そこにガフィル副大臣が来て、私が王様を襲った刺客だと騒ぎだしたんです」




「そうか。残念だったな。俺たちは信じたとしても、それを王国の奴らは信じてくれないだろうな」




「えぇ……だから私は逃げ出したんだんです。捕まってしまっては身の潔白を証明することができないから。それより、なんでカムロンはそんなに詳しいんですか? 王室関連の情報が外に漏れることなんてありえないのに」




「何を言っているんだ? 貧民街では誰でも知っているぞ」


「えっそうなの? 僕、今初めて知ったんだけど」




 まさか、そんな情報が広まっているとは、どうやらカムロンがすごいのではなくて僕だけ情報が回ってこなかっただけのようだ。


 カムロンに僕を少し呆れたような目つきで見られてしまった。




「テルは少し黙っていてくれ。まぁ情報が回らないと思っているのは、あんたたちだけってことだな。情報なんていくらでも流れてくる。それが特にボットムが危機的な状況になるようならなおさらだよ」




「なんということよ。王室の情報が筒抜けになっているなんて……これは国を揺るがす一大事件ね」


 カムロンが女騎士の頭を優しく手刀で叩く。




「あんたの今の状況を考えろ。情報が洩れていることに感謝しなきゃいけない場合だろ。このままいけば、王様殺人未遂に逃亡、よくて死刑。悪くて拷問プラス死刑って感じだな」




「そうだった。私もまだ混乱しているようだわ。そう言えばまだ名前を名乗ってなかったわね。私の名前はノエル。王国騎士団最年少騎士団長よ」


「元騎士団長だけどな」


「カムロン言わないであげなよ。いじめはよくないよ」




「いやいいわよ。言われても仕方がないもの。それよりも私の着ていた鎧や武器とかを知らない?」


「それなら売り払ったぞ。ノエルの回復薬買うのに金が必要だったからな」




「なっ……あれがいくらすると思っているの⁉」


「命と鎧の値段どっちが安いかなんて決まってるだろ?」




「なんてことよ。あれは私の師匠、戦場の滅狐カエラ様から直接頂いた剣だったのに。もしバレたら殺されるわ。いや、バレる前に買い戻して復帰すればいいのよ。さすが私!」


 母さんはカムロンたちが話しているのを、なぜか嬉しそうに笑みを浮かべながら話を聞いている。




「それでノエルはこれからどうするんだ?」


「王国騎士団の仲間に連絡をとって……」




「それは止めた方がいいんじゃないかな? 少なくとも昨日会った王国騎士団の人はいきなり僕を殺そうとしてきたり、仲間同士で殺しあってたり、多分だけど騎士団の人も一枚岩ではない感じだし。今の状況じゃ誰が味方かわらないんじゃないかな」




「そんなことはないわ。騎士団の人間はみんな……え、殺し合い? もしかして狩狼部隊まで呼ばれたと言うことなの? 裏切った私の部隊だけで動けずに……それで?」


 なにか一人で納得していた。


「なんだその狩狼っていうのは?」




「騎士団にも色々な部隊があるのよ。この国全体を守る部隊から、王様や、各王子直属の騎士団。あっ第三王子だけは武力を持っていないけど。狩狼部隊はその中で性格が一番悪い部隊で有名なの。元犯罪者や素行が悪い奴が多くて、主に品性の欠片もない奴らが集まっているわ。腕だけは立つんだけどね。私も何度か一緒に訓練したけど、イヤらしい目つきでまぁ返り討ちにしてはやったけどね。その私を喜んで殺しにくる部隊と私の部下が組んでいる可能性があるってことよ」




 ノエルは説明をするのも嫌そうな苦悶の表情を浮かべている。


 そんな厳しいノエルの状況を理解してか、知らずか母さんが容赦ない質問をしだした。




「えっと……ノエルさん、普通に戻るとか、これからの話をされていますけど、まず最初に一晩お世話になった家の壁を破壊した、その修理をしてくださるべきかと思うんですが?」




 母さんにとっては、王様殺しの容疑よりも、まずは家の修理の方が大切らしい。


 たしかに、それはそうだろう。


 知らない王様より。まずは自分の家だ。

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