第15話 女騎士は壁を蹴り破った。しかし囲まれてしまった。

 翌日、嵐は夜のうちに過ぎ去ったが、僕は呼吸が苦しくて起きた。


 なにか胸の上に重い物が乗っているようだ。




 うっすらと目を開け確認すると、見慣れない足が僕の胸の上にあった。


 そういえば、昨日女騎士を助けたのだと思い出す。




 これだけ寝相が悪く寝られるなら大丈夫だろう。


 ゆっくりと足をどかして外にでる。




 まだ辺りは薄暗いが、昨日疲れていたせいもあうだろう。深く眠れたので意外と気分がいい。




 このままどうしようかと考えたが、彼女が起きたら少しいいものでも食べさせてやろうかと思い、クワムシを探す。クワムシは体長5㎝くらいの芋虫の仲間で意外と美味しい。




 ただ、捕まえるのに時間がかかり、母さんと二人の時には鎧ネズミでいいかという結論になっていた。




 美味しいより、お腹いっぱいの方を優先させた結果だ。


 僕が草むらの中に入ってクワムシを探していると、こんな早い時間からは珍しくカムロンがやってきた。




「起きてて良かったよ。これポロポロ鳥とあと女騎士が使うと思ってお古のローブを持ってきた。これで少しは目立たなくなるだろ」




「いつもありがとう。昨日は助かったよ」


「女騎士はどうだ?」




「言われた通り薬を飲ませたらだいぶ楽になってたみたい」


「そうか。なら良かったな。ただ……ちょっとまずいことになった」




「まずいこと?」


「あぁ、この女からも話を聞いてみないとわからないが、王様殺しの疑いをかけられ城から逃亡したみたいなんだ。もしそれが事実なら隠し通せないぞ。本気で探しにくるからな。幸いにも昨日の雨のおかげで痕跡は消えたけど……」




「昨日助けたっていうのに、王国へ引き渡すってこと?」


「テル……俺もできれば助けてやりたいが、このままだとボットムは王国騎士団が毎日であることになる。この街の連中は……王国の法律なんて守っていない奴ばかりだ。誰にとっても彼女がここにいていいいことはないんだ」




「それでも……」


 カムロンは頭を激しく掻く。こういう時のカムロンは無理難題でもなんとかしようと考えていてくれている時だ。




 この国の王様と言われても、僕は直接会ったこともなければ話をしたこともない。


 母さんは悪ふざけで、僕は王様の子供だと二人の中ではなっているけど、それなら迎えにきてくれない理由がない。




 だから、王様が襲われたと言われもいまいちピンとこないのだ。


 それにしてもカムロンはよくそんな情報を仕入れてこれるものだ。王様がもし殺されかけていたなら、国の一大事件じゃないのだろうか。




「どうしても助けるのか? こいつを引き渡せば大金を手に入れることができるぞ。母さんだって楽にしてやれる。街の中心部にだって住まわせてやることができるぞ」


「僕は……なぜだかわからないけど、彼女を助けたいんだ。何かの理由があるのかもしれないし。それに昨日王国騎士団の人に襲われたけど、捜している側が正義とは限らないと思うんだ」




「そうだな。確かにあいつらの言いなりになる必要なんかないな。だってここは国から捨てられた自由と暴力の街ボットムなんだからな」


 カムロンはなぜか非常に嬉しそうな笑みを浮かべていた。




「とりあえず、俺にもその女騎士を会わせてくれないか?」


「あぁもちろん、まだ寝ているかもしれないけど」


 僕たちが家に入ると、母さんもまだ寝ているようだった。僕はジェスチャーで起こすかどうか聞く。




 カムロンは優しく女騎士の肩を叩きながら静かに話しかける。


「起きろ。こんなところで呑気に寝ていると王様が死ぬぞ」


 カムロンの威圧感が一瞬増す。




 ビックリしたことに母さんが飛び起き、カムロンの首筋に正確にかんざしで突き刺そうとした。


 その動きはまるで目が見えているかのような俊敏な動きだった。




「母さん! ちょっと待って! カムロンがふざけただけだよ」


 カムロンは母さんの簪をとっさに避け、家の外に飛び出たが、彼の頬からは一筋の血が流れ落ちていた。




「カムロン大丈夫?」


「あら? カムロンだったの? ごめんなさいね。なにかとても気持ち悪い感じがして、とっさに身体が動いてしまったみたいなの。怪我はない?」




「大丈夫ですよ。俺の方こそいきなり起こしてしまってすみません。昨日テルが助けたっていう女性に会いに来たんですけど、まさかおばさんを起こしちゃうとは思わなくて」




「あらまぁ。たしかに昨日テルが女の子拾ってきたわね。今起こしてあげるわね」


 なぜだろう。拾ってきたのは拾ってきたであってはいるが……なんか悪いことをしているような気分になってくる。




 母さんは、女騎士の髪の毛を優しくなでる。


「この子には少し薬が強すぎたみたいね。起きる時間よ。いつまでも眠っていると王妃様が白いスネークと一緒にくるわよ」


「はいっ!」




 女騎士は一瞬、辺りを見渡すと、そのまま小屋の壁を蹴破り外に飛び出す。


「なんだお前ら、私を誰だか知っての狼藉か?」




 そう言って彼女は腰の辺りの剣を探すが、剣も大岩のところに置いてきてあるため、彼女の手は空をきる。




 それでもさすが戦闘に慣れているのか、すぐに剣ではなく徒手格闘技ができるように構えを改めた。


 それにしても……。




「……なんか……テルのお母さんの動きを見た後だと……たしいたことないっていうか……」


「うん。寝起きの動きとしては母さんの方が10倍くらい早かったね」




「なっ何を言ってるの! ってここはどこ! 私は王国騎士団のだん……」


 彼女は途中まで言いかけて言うのをやめた。自分が今追われる身だということを思い出したようだ。




「えっとなんだって? 王国騎士団のだん……なに?」


「王国騎士団の……だん……応援団よ」




「だってよテル。どうする?」


 場の空気は母さんの時が一番緊迫していた。




「応援団はちょっと苦しいいいわけだよね」


 目の見えていない母さんは微笑みながら彼女の側によっていく。




「なによ、あなたは? もしかして目が見えていないの?」


 無言のまま近づいてくる母さんに女騎士もどうしたらいいのかわからず戸惑っていると、母さんは彼女の頭を思いっきりどついた!




「人の家に泊まって、壁を突き破るなんてどういう教育を受けてきたんですか!」


「はいっ! すみません」  




 急に女騎士は直立不動になり基本の姿勢になる。


 母さんがやっぱり最強みたいだ。




「初対面の人にお前というのも良くありませんよ。少しおごりがあるんじゃないですか。王国騎士団の団長さん」


「えっ……もう知られていたんですか?」




「あっ……えっと……あれかな。とりあえず座ってゆっくり話でもしますか」


「そうね。女騎士さんも今後のことについて話す必要がありますからね」


「はい」




 女騎士は今までの威勢がどこへいったのか、シュンとしている。


 僕たちは家の外に置いてあった切り株に腰掛ける。


 真面目な話、彼女から王様の話を聞かないといけない。

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