第17話 あくどい契約を目の前でしていましたが、止められませんでした。

 母さんの圧力にノエルは耐えられないようだ。


 元騎士団の団長とはいえ、やっぱり苦手なものがあるのだろう。




「それは……カムロン。私の鎧や剣を売った余りの金はないですか?」


「ないな。だけど、貸しておいてやることはできるぞ」




 カムロンの目が怪しく光る。カムロンはいい奴だけど……それはほぼ身内みたいなものだからだ。でも、彼女はただの……これ借りてはいけないお金な気がする。




「いいでしょう。この家の壁代くらい、城に戻れば返せない金額ではないですからね。こう見えて老後資金2000万ルルンのために堅実に貯めているんです」




 カムロンが懐から羊皮紙を取り出すと、何か魔法を唱える。


「契約魔術まで使えるとは……カムロンはボットムの商人か何かなのなの?」


「まぁ、そんなところだ。ここにサインをしてくれ。してくれればすぐに30万ルルンを貸してやろう」


「30万ルルン⁉」




 僕と母さんの場合、家賃がかかっていないので貧民街で食べていくなら2万ルルンあれば生きていける。普通の貧民街で住居を構えて10万ルルンってところだ。




「いいでしょう。ここにサインをすればいいんですね?」


「あぁ、そうすればこの30万ルルンはお前のものだ」




 ノエルはカムロンから言われるがままに羊皮紙にサインをしてしまった。


 そんな危ないことは絶対にやってはいけないことなのは僕でもわかる。


 きっとノエルは今まで安全な商人としか取引をしてこなかったのだろう。




「いやーいい契約ができたよ。ついでにこちらにも魔力を流してくれるかな?」


「これでいいの?」




「もちろんだ」


 カムロンが今何気なくさせたのは契約魔術の二重契約だ。




 一つの契約なら簡単な手続きで破棄することができる。でも二重契約は……どんな内容だかわからないが、あとから覆そうとしてもできない、かなり強力な契約だ。




 もしかして……ノエルはチョロい人なのだろうか?


 カムロンはニコニコと楽しそうに契約書を懐にしまい、そのかわりにノエルに30万ルルンを渡した。




 僕たちからしたらかなりの大金だが、ノエルからすればたいした金額ではないないのかもしれない。




「さて、俺はこのあたりで帰るわ。いい契約もできたことだし、肉も渡せたしな」


「カムロン、ノエルはこれからどうしたらいいと思う?」


 カムロンは一瞬何か考える。




「うーん。今ここを直すのはあまり賛成できないから、彼女の金を使って教会にでも一旦避難をするのがいいと思うぜ。あそこの教会、今は使われていないし、なにより広くて天井の半分には屋根がある」




「なんでここを直すのに賛成できないの?」


「ここを修理したりするには木材を集めてこなきゃいけないし、今までたいして修理もしてこなかった小屋を今から直すには目立つだろ」




 そう言われてしまうと否定もなにもできない。


 この小屋も今までお金をかけずに修理してきたのに、ノエルのお金で修理したら怪しまれることは間違いなかった。




「そうね。あそこならいいかもしれないわね」


「母さん、じゃあ準備をしようか?」




「そうね。盗まれるものはないし……ご飯食べたら行きましょうか。テル準備をして」


「わかったよ。教会へ行くと鎧ネズミとか捕るの難しくなるから、カムロンからもらったポロポロ鳥は教会で食べる感じでいいかな?」




「いいわよ」


 僕はそのまま近くの河川敷に鎧ネズミを捕まえに行った。クワムシはもう諦めよう。




 ノエルの契約が何だったのか聞きたかったが、結果が怖すぎて聞くことはできなかった。


 絶対にヤバい契約だと思う。




 しっかりしているように見えるノエルも意外と……。


 助けたのが失敗にならなければいいけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る