第37話 自分を振り返って③

 数日後、僕は友人とゲームセンターで遊んでいた。土曜日だというのにこのゲーセンはガラッガラだ。すぐ隣にある別のゲームセンターに客を全て取られてしまっているようで閑散としている。


 「んで、なんで俺を呼んだのさ」


「は?お前気付いていないの?今学校じゃお前が〇△に告白した話題ですげー盛り上がってんだよ」


「学校じゃなくて俺たちの学年だけだろ。そしてその中の俺の周りの人間だけだろ」


「お前の周りから拡散してな、学年の半数はその事実を知っているぞ」


「まじかよ。なんでそんな広まることがあるよ」


「バスケ部」


「・・・・理解した。あの人たちの顔の広さと言ったら底が知れないからな。それに男女関係なく友人が多い。質が悪いな」


「激しく同意するわ」


「てことはお前もそれを聞いて、落ち込んでいる俺を慰めるために呼んだと?」


「うーん、残念ながら慰めるつもりは欠片もない。俺はただその事件の真相を知るためにお前を呼んだんだよ」


「最悪じゃねえか」


「まあまあ、落ち着いてくれよ。早速だが色々話してもらおうか。まず結果だが成功したのか?失敗したのか?」


「流れている噂と全く同じだよ。振られました」


 そう、あのとき俺は彼女に振られたんだ。勢いに身を任せ告白した後、彼女の表情には嬉しさを欠片も感じられずただただ困惑した表情があるだけ。その表情が次第に嫌悪感をも含んでいると感じ始めたのは俺の被害妄想ではないだろう。


 「これは真実であると・・・」


「いちいち記者ぶってメモする必要ないから。続けてくれよ」


「なんだよ、つまらない奴だな。じゃあ次は今お前は彼女のことをどう思っているのかについてだ」


「どう思っているんだろう・・・・」


「あー、あー。そんな難しく考えないでくれよ。ただ今も好きだと思っているのかどうかだけ教えてくればいい」


「正直言うとさ・・・もう一度告白する勇気があるかないかで言えば、ないかな。そう言った気持ちもないし、何よりさ。怖いんだよな」


「もう好きでもないし、怖い・・・ね。怖いって言うのはあの人に限らず告白すること自体がってことか」


「もう誰にも告白できないわ。あの瞬間の表情見ちゃったらな」


「まあ、告白するときって恥ずかしいとか関係なく相手の顔見ちゃうからな。その時に見た表情が怖かったらそりゃそうなるわ」


「なにその経験者みたいな口ぶり。もしかしてお前も告白して振られた経験あるのか?」


「はははっ、何を言っているんだ。俺は振られたこともなければ誰かに告白した経験もないぞ」


「まぁ、予想通りだけどな」


「いやぁー、すげー唐突だけどさ、今この周りに鏡がないことがすげー残念だわ」


「何急に。どういうことだよ」


「お前は自分の顔だから気づかないと思うけどこの事件について話す前のお前の表情と話し終わった後のお前の表情じゃだいぶ異なるんだよ。なんていうかさ、柔らかくなった」


「はぁ、なんでだろうな。俺も話し終えて少しだけ楽になったわ」


「うん・・・よし、こっからはお前に言うつもりはなかったんだけどさ、そんだけ元気なら聞いても死ぬことはないだろうし言うわ。とりあえず聞いて辛くなったらストップをかけてくれ」


「なんでそんな苦行みたいなことしなければならないんだ。まあいいよ。話してくれ」


「・・・その前に、競馬ゲーム、椅子に座ってるだけじゃ良くないから少しプレイしようじゃん。俺一番に賭けるからお前二番に賭けて」


「めんどくせえ・・・・まあいいよ」


友人に言われた通り目の前にある競馬ゲームで二番の馬にコインを賭ける。明らかに弱そうだが勝つためではなく話を聞くために仕方なくやるので関係ない。


「まずこれだけは言わせていただくがお前も彼女も悪い人間じゃない」


「当たり前だろ」


「よし、次に結果から話すと、〇△はお前のことを欠片も好きじゃなかったし恋愛対象としてみることは到底無理だった」


「・・・・ちょっと強く言いすぎじゃないか?まあ、もう覚悟はできているから大丈夫だけどさ」


「これで辛いとか言ったらこの先何も聞けなくなるぞ。どうする、やめにするか?」


「いや続けてくれ。どうせなら悲しみの果てに陥ったほうがこれから先楽に生きていられるだろ」


「よし、では続けるとしようか。彼女が何故恋愛対象としてみることができない男とここまでなかよく接することができたかわかるか?」


「それは彼女が優しい人間だからだろ?詳しくはわからないけど世の中異性間での友情が芽生えることもおかしくない」


「まあ異性の友達が多い人間がいることも事実だからそれは否定しないさ。でもさ、〇△の周りに親しい男友達はいるか?」


「そう言われると・・・いない気がする。いつも仲良く話しているのは同姓だったな」


「そう、彼女は明らかに異性の友人を気軽に作るタイプじゃないんだよ。ではどうしてお前とはよく話すほど親しくなったのか」


「なんでだろう・・・簡単に思いつくのは同じ委員会になったからだろうか」


「まあそれもあるだろう。けどな、それ以外の理由もあるんだよ」


「それ以外の理由・・・気になるな、教えてくれ」


「じゃあ質問だけど、友人の数は?」


「そこそこ」


「サッカー部で仲のいい人は何人いる?」


「まあまあ」


「知らない間に話すことのできる人が増えた経験は?」


「そこそこ」


「俺の質問ラッシュをよく耐え抜いたな・・・」


「ふざけてるだろ」


「ふざけていないって。俺が質問した内容を全てまとめれば自然とお前が求めている答えが出るのさ」


「・・・・・・そう言うことか。〇△さんはサッカー部の誰かに好意を抱いていて、その人に近づくために男の中では比較的接しやすい人間である俺と仲良くしたってことか」


「うーん、惜しいな。サッカー部の誰かじゃなくて正しくはお前が仲良くしているサッカー部の一人だ」


「わざわざ辛いほうに訂正する必要あったか今?」


「真実を嘘偽りなく伝えるのが今の俺の役目だからな」


「その真実を伝えることだけに躍起になって誰かを傷つけたら意味ないと思うがな」


「そう言った話は私ではなく本職の方に言ってやってください」


「まあいいや。じゃあ俺はなんだ、彼女がそのサッカー部のA君のことを思い浮かべながら言った好きな人の特徴を必死に真似た道化ってことか」


「うーん、大正解」


「そこは大正解じゃなくて惜しいなって言ってほしかったよ・・・・いやぁ、まじかぁ。この事実知ってしまうとなかなか心に来るものがあるな。何だろう、説明できないんだけど泣きそう」


「一応ここ公共の場だから。泣くのは我慢してくれよ?」


「はいよ・・・・あのさ、俺これからどうすればいいのさ」


「その答えを出す役割は俺じゃないんだけどなぁ。まあ言えることがあるとすれば今回何故こういう事件が起きたかだ。お前のその来るもの拒まずなスタイルは友人を作るうえではとても有利に働いていると思う。だがそれに加えお前の性格の明け透けな感じがそのスタイルを悪い方向に助長させてしまったんだろ。お前がもっと強い感じの人間だったら〇△だって自分のことを好きな男子を利用して本命の奴と近づこうなんて考えなかっただろうよ。これから皆がこの事件に飽きるまでは色々揶揄われるだろうが頑張れ。そしてその間に少し強くなっとけ」


「そう、だな・・・」


友人の助言を聞き終わるとちょうどパラララーンと競馬ゲームのゴール音が響いた。


「おっ、俺優勝じゃん!喜代村は?」


「えーっと・・・七位だ」


「また中途半端な順位になりやがって・・・まあ最下位じゃないだけよかったな。じゃ、話もちょうど終わったからここで解散とするか。んじゃまた月曜日に会おうな」


 本来なら俺もここで彼と別れを告げて解散するべきなのだろうが何か胸に引っかかっているものがあり、それを彼に伝えなくてはいけない気がしていた。まだ言葉としては完成していないそれを彼に伝えるべきか悩んでいる時に彼のほうを見るとそそくさと逃げるように帰ろうとしている様に見え、それが俺の気持ちを固めた。


「あのさ!」


「な、なんだよ」


彼は俺に呼び止められ少し身をすくめた後俺のほうを見る。


「一つ言いたいんだけど、お前。お前も確かサッカー部だよな?」


「えっ!?あ、あははははははは。そ、それだけ?言いたいことはそれだけ?じゃ、帰るね。俺帰るわ」


 俺の質問に答えず、逃げるように帰っていった友人を見た時、俺の心の何かが溶ける音がした。

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