第36話 自分を振り返って②
「いやぁ、あっという間に当日になったね。〇△さんもそう思うでしょ?」
「そうだねー。でもなんでだろう、噂になっている程つまらない委員会じゃなかったよね?」
「まあ確かに。大変な力仕事もないし、面倒な計画を練ることもなかったからかな。これなら舞台製作委員会や実行委員会のほうが何倍も大変だと思うよ。やりがいがないと言う面でつまらないって表現していたのかもしれないな、先輩達は」
「それが時が経つにつれて曲解されるようになって今に至ると。喜代村君の推測は意外と良い線いってるんじゃないかな?」
「あはは、ありがとう・・・ってやばっ、俺〇△さんと話すことに夢中になって本来の目的である校内のごみ箱チェック全然してないや」
「えー、それじゃ今の時間ただ私と話しながらごみ箱巡りしてただけってこと?」
「そう言うことになるかな」
「うっかり屋さんだね。まあ安心して、とりあえず今まで見たところはごみも散乱してなかったしごみ箱が壊れていたりもしなかったから」
「そうか良かった。正直学園祭当日にごみ箱修理のためにずっと控室に籠るとか考えたくもなかったから」
「じゃあ、午前中にすべきことは全て終わったし、後は閉会式後の片付けまで仕事はないね」
「だね。でもこの仕事のせいで時間が中途半端だ。この後予定とかある?」
「私は友達が待っててくれてるんだー。いやぁ本当に昨日連絡しといてよかったよー。もししてなかったら今頃一人だった」
「それは最悪な学園祭になるところだったね。んじゃ片付けになるまでお別れだけど、またね」
「はいはいー。また」
当日午前中の立ち回りとしては我ながら完璧だったと感じる。あくまで友人と言う体を崩さず自然に意識していますアピール。そして最後の一緒に巡りませんかアピール。結果的には失敗に終わったが強く誘って断られるより俺の精神的ダメージは少なく済む。何よりも相手に自分が断ったのだと意識させないことで彼女が罪悪感を抱く事がなくなる。
そうなればこの後も気まずい雰囲気が立ち込めることなく予定通り動けるだろう。こうは言ったものの、うっすらと一緒に学園祭を満喫する未来を期待していた俺は友人に連絡などしているはずもないのでとりあえず屋台でたこ焼きなど王道からチーズハットグやプルコギなどの祭り屋台らしくない商品など数品を買い、委員会の控室に一人で向かった。
「みんな!今日は学園祭を本気で楽しみましたか?まだ余力が残ってしまった人も、死ぬ気で楽しんで燃え尽きた人も、残念ながらこれで終了となります。しかし!私たちの学園祭はこれで終わりじゃないですよね?そう、片付けです!しっかり片づけを行い、学園祭の亡骸と別れを告げてこそ、本当の終了です。それでは私のこの話を閉会宣言とします。皆、撤収ー!片付けに向かってください」
内容が空虚の一言に尽きる学園祭の自由時間を過ごした後、予定通り閉会式の会場に向かい学園祭実行委員長の閉会宣言を聞いた。皆それぞれの感情を胸に抱いて宣言を聞いていただろう。中には泣いている人もいた。未だ興奮冷めやらぬ会場だが俺はその熱狂など全く伝わってこない。
これから自分がしようと思っていることで頭がいっぱいなのだ。何度も想像し妄想した。その先の未来も何通りも想像した。その未来を創るための運命の分岐点が目の前に、すぐそこにあるのだ。祭りモードに浸っていられるわけがないだろう。怖い、怖い。頭のどっかにそんな言葉が駆け回っているがそれを気にすることなく突き進もうとしている。
冷静さを失い盲目になっているのか、それともやけくそになっているのか。どうやら負け戦に一人突っ走る蛮勇な戦士は胸の奥にかすかなに勝利という文字を宿しているらしい。これまでアニメや歴史の教科書などでそのような人物を何人も見てきて頭がおかしいだろと思っていた俺だったが、その理由を自分が同じ立場に立つことで初めて理解することができた。
十割負けるのならばそんな希望など抱くこともなかったが中途半端に準備をしてきてしまったせいで十割とは言い切れなくなっているのが事実だ。
何かほかのことを考えて落ち着かせるということが全くできなかったのでそのまままっすぐ閉会式の会場から委員会の集合場所まで来てしまった。しかしどうやら俺は何も考えられないと言いながらも色々考え事を無意識にしていたらしく集合場所にはすでに委員会のメンバーのうち半数ほどが集まっていた。
その中に彼女もいた。彼女はその生真面目さ故に閉会式が終わって一目散にここへ来たらしく、俺を見かけるとようやく話し相手に出会うことの嬉しさからか素直な笑顔で俺のほうへ駆け寄ってきた。
「喜代村君遅いよ!私結構待ってたんだからね!?」
「申し訳ない。自分の中ではすぐにこっちに向かっているつもりだったんだけどなぁ」
「まあいいや、昨日言われた通り私たちはこの後南側のごみ箱の片付けをしてそれが終わったら校内清掃に参加する形だよ」
「そうだね、じゃあまずは中央付近のごみ箱を片付けて、そこから順々に隅に向かうように片付けていこうか」
「そうすれば南側のごみ置き場に直接捨てられるしね。そうしようか」
俺の考えに同調してくれた彼女とともに俺は片付けを始める。学園祭で屋台が出店していたところは主に北側の中庭で、南側には文化部の作品展示が行われているだけであったためごみ箱の中のごみはほとんどなかった。中のごみをごみ袋に移し、手作りのごみ箱を壊していく作業を何回か繰り返すとあっという間に最後のごみ箱まで片付け終えてしまった。
悲しいことに俺が考える時間を捻出するためにゆっくり片付けているのに、いつも通りのスピーディーな動きでテキパキと彼女が片付けてしまうせいで時間が全く生まれない。そして俺がぼーっとしていると彼女に毎回注意を食らう。この時間だけは彼女の作業効率の高さを恨んだ自分がいた。
「やっと全部終わったねー」
「ほとんど〇△さんがやってくれたから予定よりだいぶ早く終えることができたよ」
「あはは、そんなことないよー。喜代村君もしっかり手伝ってくれたし。どうする?結構早く終わったから校内清掃行くと協力どころかフルタイムで働かされることになりそうだけど・・・」
「まあ委員会の仕事やった後に清掃も手伝うとなるとさすがに面倒だね」
「まあ仕方ないことだし行こうか」
彼女が仕事を終え清掃をしているクラスメートと合流しようとした瞬間俺の視界が急激に狭くなる。脳が叫んでいるんだ、今だ。今しかないと。だが残念なことにまだ何も言うことが決まっていない。
カッコいいセリフの一つも浮かんでいないのだ。脳の回転が急速に加速している現在も彼女に告白するのか否かを判別するのに精いっぱいでそこまで手が回らない。辛い、辛いけどこの瞬間を逃してしまったらさらに辛く情けなくなってしまうことはわかりきっている。そう思ってしまった瞬間
「あのさ、お、俺と付き合ってくれないでしょうか!!」
俺は彼女に告白していた。
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