第29話 いざ本番へ・・・行く前に練習 ~不思議沢~④

「なんだこれ?よくわからないんだが。もしかして俺をターゲットにしたドッキリを仕掛けているのか?」


「いやいや、そんな訳ないでしょう。仮にそれが本当だとしたらこの紙をキョム氏に見せる訳ないでしょう」


「いやまあその通りなんだけどさ。でも、ドッキリじゃないとしてもこの紙は俺に見せてはいけないやつじゃないのか?」


「うむむ。そうとは言い難いラインの品物ですよこれは。では少しお聞きしますがこれまで戸口殿、薪下氏と時間を共にして何かヒントや助言は与えられてきましたか?」


「ヒントって言われても、問題が何かが未だにわかっていないから何とも言えないな。だが戸口と薪下から得た情報からなんとなくどれがそのヒントなのかはおおよそわかるけれど。まず戸口からは俺自身の気づかなかった性格を教えてもらって改善するきっかけをくれたし、このフォーカードの存在を再認識させてもらった。薪下からは出会いには必ず理由が存在するっていう意味深な言葉をいただいたよ。詳しい意味はわからないままだけど」


「そうですか。意外と二人が真面目に取り組んでいて驚きましたぞ。ではそれらの言葉からキョム氏はどういうことか理解することができましたか?」


「え?どういうことって、どういうことだよ。全然わからないぞ。何がどういうことなんだ?」


「やはり。ほぼ理解していないと言っていいですな。まあ確かにあの二人のヒントだけでは答えにたどり着くのはほぼ不可能でしょうな・・・」


不思議沢が俺の全くわからない内容の話を一人でぼそぼそと始める。一応内容は聞き取ることができた。どうやら俺は三人の用意した、もしくは想定した答えにたどり着けていないらしい。しかし、俺は問題文を知らされていないのでヒントがあったとしても解きようがない。


「あのさ、もう少し俺にもわかるようにしてくれないか?お前の話を聞いた限りじゃ何もわからない」


「もちろん、いまからそうするつもりですよ。そういう命令が薪下氏から下されたのですから。本当はこの紙を見せてそれまでの体験を重ね合わせて・・・となってくれるのが私の理想だったのですが。私からもう少しヒントを出します。聞く準備はよろしいですか?」


「いや・・・あまり準備はできていないんだが。そもそも今言った話の流れ自体ほぼ理解できていないし。けどとりあえず聞くよ」


不思議沢が真面目な雰囲気で問いかけてきたのでこっちの調子が崩され思うように言葉を出すことができなかった。尤も、自分が発した言葉の通り理解できていない部分が大半なのだが。


「ふむ、ではズバリ言わせていただきましょう。キョム氏、あなたはこの世界の謎を知る必要があります。そしてその謎の答えを知った先にある現実に立ち向かっていかなければならない。これらを全てクリアするために渡されたヒントはこれまでの日常の全てに隠されています。キョム氏はそれを見つけ、忘れないようにするのです。以上が私のヒントですな。と言ってもほぼ答えのようになってしまいましたが」


「あ、ああ。とりあえずメモしておいたから大丈夫だと思う。まあ、よくわからないけれどお前らの期待に応えられるように俺も頑張るよ」


「そう言ってもらえると私たちも嬉しいですな。あと難しいヒントばかり出した彼らは後で注意しておきますので安心してください。とりあえずこれで私のミッションはクリアしたのでその紙はあげますぞ。と言ってもその紙自体は何の意味も持たないのでわざわざ大切に保管する必要は皆無なのですが」


「ありがとな、この紙はニ、三日取っておいてそこから捨てるかどうか考えるよ。でも持ち主である不思議沢が意味ないって言っているんなら本当に無意味なんだろうな」


「嘘ではなく本当に無意味です。では、もう予定がないのなら今日は解散しようと思うのですがいいですか?」


「あー・・・あのさ、ほぼ答えだって言ってたよな?自分でそう思っているレベルで重大な話を俺にしてくれたのはなんでだろうなと思って、さ」


不思議沢の問いに対し何か聞きたいことがないかと必死に考えていると突然不思議沢が先程言っていたことが気になったので聞いてみた。


「それは簡単なことですな。私はキョム氏のことをとても大切な友人だと思っているからですぞ。もちろん、他の二人があまり友好的ではないとかほかの二人に比べて自分のほうがより大切に思っているなどとは考えておりません。ただ二人はキョム氏に鍵を投げつけてキョム氏を試し、成長を望んでいるのに対し私は鍵をゴールまでの道のりに置いてキョム氏を導いているという違いだと思います。


それとあまりにもこのままではキョム氏がゴールにたどり着くのが絶望的になってしまうので手助けをしただけです。こうなることを想定して薪下氏は私の順番を最後にしたかと考えると少し腹立ちますが・・・」


「さすが薪下クオリティ。こうなる展開まで予想していたとは。そう思われていて且つその通りになってしまった俺の情けなさが露呈したな。まあでも助かった」


「ふむ。ではこれぐらいでよろしいですか?」


「おう。もう特にはないかな。じゃあ、今日は本当にありがとな」


「いえいえ、こちらこそ」


 そう言って俺たち二人は別れて帰っていった。少し驚いているし未だに理解できていないけれど、とりあえず自分がしなくてはならないことが明確になったような気がした。


 不思議沢に言われたことをぼーっと考えながら帰っていたらあっという間に家に着いた。家に着いてからも特に何かしようと言う気が起きなかったので引き続き謎とは何か。ヒントは何なのか。そしてそれら全てが意味することは何なのかを考えていた。


一人で考える気満々だったが心はそうでもないらしく先程からちょいちょい夕月がいる広場に向かいたくなってしまう。途中から謎を考えることに並行して夕月のところへ行くべきかということも考え始めてしまい、いよいよ思考がおぼつかなくなってきたので広場へ向かおうとすると、突然スマホが震えた。


どうやら誰かからメールが来たらしいので確認すると薪下からだった。


内容は「今はまだ行くな。それと本番は次の土曜日だ」という文だった。俺の思考や行動を盗み見ていたのではないかと思うほど的確なタイミングと指示だったため驚き、その後慌てて外や部屋中を確認してヤツもしくは盗聴器がないか探したがそのようなものは何一つ見つけることはできなかった。


この不思議な状況でも薪下が取得した超能力のせいだろうと思ってしまえばそれまでなので改めて薪下の起こした偉業に驚く。仮に薪下が超能力を得たという事実が世界に知られたらニュースどころか研究施設に連れていかれてしまうのではという一抹の不安もあったがその時こそ言葉の戦いになるだろうと勝手に想像し、その後薪下を想像し、安心した。


 自分が目視できなかっただけで薪下が俺を見ている可能性を否定できないので夕月のところへ行くのは諦める。謎解きは一人でやれというメッセージなのだろうか。夕月に頼ろうとしている甘い自分への戒めなのか。どちらかはわからない。もしかしたらこのことは関係なくただ純粋に作戦について夕月に知らせる必要はないという薪下からのメッセージかもしれない。どれが正しいのかはわからないがとりあえずメールに従うのがいいだろう。


 夕月のもとへ向かうことをやめた後再び不思議沢達が提示してくれた問題に取り組もうと色々と考えてみたが特にいい結果は得られそうになくただぼーっとしている時間が増えてきて、眠気が襲ってくるのみだったので正直に寝ることにした。寝る直前にこのことは作戦が終わってからにしようと勝手に決意した。

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