第26話 いざ本番へ・・・行く前に練習 ~不思議沢~①

 薪下と共に過ごした次の日、休日だったがメールが一通来た。元からそういう予定だったのか不思議沢に呼び出されたので不思議沢の協力人として参加することになった。一応薪下に言われたとおりにその後一度も夕月とは会っていない。俺の勝手な行動が周囲の輪を乱してしまったら嫌だからだ。


俺にはいまいちこの企画の重要性や必要性はわかっていない。これは何度も言っているが最初から変わらない。しかしみんながあれだけ熱量をもって取り組んでいるのに俺だけが不真面目に取り組んでいるというのもいい気がしない。


みんなの行動の意味が理解できるその瞬間までは俺もしっかり取り組みたい。そうして成功した瞬間の歓喜を共に分かち合いたい。その一心で取り組んでいるに過ぎない。


 「キョム氏ー!ここ、ここですぞ!」


カッコつけて思索に耽っていたら不思議沢に呼びかけられた。慌てて俺も不思議沢のほうへ駆け寄る。


「キョム氏どうもです」


「どうもです、不思議沢。んで、呼んだということはもちろん?」


「ええ、勿論アレですよ」


「アレですか・・・一応計画は完成されているのか?」


「完成しているわけないでしょう。湯気に光を当てて映像を投影する知識なぞ欠片もないのですから」


「まあ、それもそうだよな。すまん」


「とにかく今日はフィルム上映を行っている映画館に行って学びましょう。ちょうど場所に心当たりもあるので」


「おう、じゃあそこに行こうか」


 不思議沢に道を任せ彼についていくと二十分程で目的地である映画館にたどり着いた。


「ここですよキョム氏」


「だろうな。雰囲気が今っぽくない、カッコよく言うとノスタルジーか?」


「別にカッコよく言う必要ないと思いますけど・・・それに堂々とフィルム上映と謳っていますし。とりあえずちょうど上映しそうな映画がありますのでそれを見ましょう」

「だな」


 俺たちは映画館に入ってその映画を見る事にした。内容はずいぶん古い海外のラブストーリーの様だった。終始英語とは異なるフランス語のようなもので役者たちが話していたが勿論理解はできなかった。かろうじて最大の盛り上がり部分と思われる主人公とヒロインがお互いを見つめあう場面で怒涛のジュテーム合戦が繰り広げられていたのでそこだけ理解ができた。


 映画を見終わったのち感想・・・というのも光の当て方などの技術的部分をどれほど盗むことができたかを発表しあう為近くのファストフード店に入った。


 「どうでしたかキョム氏?何かわかりましたか?」


「ジュテーム連呼している事だけはわかった」


「いや映画の内容のことじゃなくて・・・ってなんだかキョム氏性格変わりました?こんなボケかますような人じゃなかったはずなのですが」


「まあこれはな、何と説明すればいいのだろう。簡単に言うと不思議沢が必死になって考えている間に俺はほかの二人に付き添って意外とたくさんのことを吸収出来たってことかな」


なかなかカッコいいことを言ったと思ったので少しキメ顔で不思議沢を見るととても呆れた顔をしていた。まるで世話をしなくてはいけない人間が一人増えたとでも言いたげな表情だった。


 「まあとりあえずそのままでいいですよ。それよりもう一度聞きますが今の映画を見て何か技術的な収穫はありましたか?」


「おいおい、わざと技術的なって部分を強調しなくてもいいじゃないか・・・あれはボケだったから。本当に聞きたいことも最初からわかってたから。まあ結論から言うと俺には全くわからなかった」


「やはりキョム氏も・・・・これはいよいよ緊急事態ですな」


「キョム氏もってことは、お前も全くわからなかったのか・・・」


「はい、残念ながら」


「これは困ったな。てっきり明らかに通常とは異なる専門的な方法があると思っていたんだけどな。どうする?」


「どうしましょうかね・・・あ、一つ提案がありますぞ」


「お、なになに。教えてくれ」


「いやぁ、打開策になるとはあまり思えないのですが、一度実践してみるというのはどうでしょう。ほら、さっきキョム氏も特別な方法があったわけじゃないって言ってたじゃないですか。つまりそれは専門的な技術を必要としていないということを示している故私たちにもできるのではと思っていたのですが・・・・どうでしょうか」


「それ名案じゃないか。次どうやって技術的なことを学ぶかばっか考えていたけど、一度やってみるのもアリかもしれない。これで成功してしまえばもう本番も安心できるしな」


 不思議沢の提案を受け、場所を近くの公園に移し早速実践を始めることにした。


「不思議沢ー。ここに着いてから気づいたんだけどお前今ライトとか道具持ってきているのか?」


「一応、あの時キョム氏に貸したライトはいつも常備しておりますので大丈夫ですぞ。ですがそれ以外は何も、カップラーメンであったり実際の妖怪であったりは準備しておりません」


「いや妖怪はそう簡単に準備できるものじゃないから気にするな・・・となるとスクリーンの役をしてくれるカップラーメンの湯気と今日使えそうな像を映し出すための物が足りないか。とりあえず近くのコンビニで適当に揃えよう」


 そう言って公園に着いたのも束の間、すぐにコンビニに行き道具を揃えることにした。


「カップラーメンはどれでもいいのですか?」


コンビニについて早々不思議沢が俺に訪ねてくる。


「あー、どうだろう。一応本番使うのは緑マル君に決定したんだけど。練習だしなかったら別のカップラーメンでもいいだろ」


「その心配は無用でしたな。ほら、しっかりマル君の緑が陳列されておりますぞ」


「お、じゃあそれを一つ。あとは適当に何かを」


「ではペットボトル飲料を買うというのは?買っても無駄になることはないでしょうしいいかと」


「だな。じゃあそれで決まりだ」


 そうしてコンビニでペットボトルのお茶二本と緑マル君を購入してまた公園へと戻ってきた。


 「よし、じゃあ今度こそ本当に実践を開始してみるか」


「キョム氏、今更発見してしまった事実が一つあるのですが・・・・」


「どうした?電池切れたとか?」


「いや、そう言った事ではないのですが、何と言えばいいのか・・・」


不思議沢の話し方に明らかにキレがなくなりボソッとしたので気になり、不思議沢に注目する。


「そこまで真剣に聞いてもらわなくても構わないのですが。ただ私は薪下氏の作戦に欠陥を見つけただけです。それも小さな」


「本当かそれ!?どんな小さな事でもいいよ。教えてくれ。もしかしたらその欠陥が原因で当日失敗に終わるかもしれない!」


「あのですね。キョム氏は薪下氏が最初に説明した策を覚えていますか?」


「ああ、一応覚えているよ。確かあいつがカップラーメンを食って能力発動して夕月を見ることができるようになる。そしてその目で見た姿をカップラーメンの湯気に投影させるんだったよな。どこか間違っているか?」


「いや、それで正解であります。それを覚えているのなら私が言いたいことがわかるのでは?」


不思議沢に問われ少しの間真面目に考える。薪下の意味不明な作戦に脳が慣れてしまったせいか不思議沢の言いたいことをすぐに理解することができた。


「あ、あーそういうことね。これだけ常人の域を超えたことができるのなら不思議沢や戸口の力を借りなくても一人で完遂できるだろって事だろ?」


「イグザクトリィですぞ。その通り。何故私たちの力を必要としたのか。さっぱりなのです」


そう聞かれて薪下のこれまでの言動や行動、性格などから理由を必死に考える。確かにそうだ。あいつはカップラーメン中毒だし自己中心的だ。もちろんそれは彼自身の持つ優れた知性によってその他の自己中心的な人とは少し意味合いが異なるが。そんな彼が今回の作戦であり得ないことをしようと言った。そして俺たちに作業を与えるという珍しいこともあった。ここまでの変化は何を意味するのか・・・・

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