第23話 いざ本番へ・・・行く前に練習 ~薪下~④

 次に薪下が見せたのは容器が全体的に黒で統一されているカップラーメンだった。富山にあるご当地ラーメンを彷彿とさせたが蓋に海苔と大きく書かれていることから違うのだろうなと思った。


「いい顔をしているぞ喜代村、これはな、海苔のっけ麺(ノリノッケメン)という名前のラーメンだ。普通に企業が作ったラーメンなのでスーパーで買えるのだがなぜかあまり見かけない。その理由としては・・・お察しの通りだ」


「そういうことね。でも選抜基準は美味しさだけじゃないから、もしかしたらっていう可能性もあるし」


「うむ、ではいかせてもらう」


 薪下は海苔のっけ麺を食べ始めた。明らかに一回に箸で持つ量が少ない。それを二口食べるとお決まりのモーションに入る。その姿に入る瞬間を見届けた後俺も毎回のように食べ始める。うん、海苔が麺に絡みついて吸いづらい。味は普通の塩味なのがそれをさらにネックだと思わせる原因になっている。まるでラーメン味のカルボナーラを食べているかの様なこのカップラーメンは残念ながらお残しさせていただく。ごめんなさい。


「うむ、十分経ったが、聞くまでもないな」


「その通りです」


 「次のラーメンはこれだ」


そう言って見せてきたのはわかりやすい普通の醤油ラーメン。敢えて王道を行くということなのだろうか


「これはな、普通の醤油ラーメンじゃない。醤油ラーメン(セウユラーメン)だ。普通にスーパーで手に入る商品だが、これもなぜかある店とない店がある。しかし、理由は先ほどとは全く違うぞ。詳しい理由はわからんが海苔のっけとは違うとだけは言える」


意気揚々とそう言うと、俺の反応を待つまでもなく薪下は食べ始めた。海苔のっけ麺の時の反応を見た直後だからなのかいつも以上に薪下が美味しそうに食べているように見えた。


 そうして今度は三口しっかり食べるとまたいつもの姿勢に移る。俺も残りを食べる。海苔のっけ麺を食べた後だと、ラーメンを食べているというしっかりとした感覚に浸ることができて美味しい。食感ってここまで大事なのかと改めて認識することができた。ありがとう醤油ラーメン、ありがとう海苔のっけ麺。


 「どうだ薪下。俺的には少し目が熱いのだが。外からわかる変化は何かあるか?」


「とりあえずはない。ちょっと目を見せてよ。うーん、色も変わってないし。でもさっきの塩の極みと一緒に保留ってことにしておこうか」


「そうだな、では次に行こう。次はこれだ」


「これは・・・あの一時期話題になったやつか?」


「その通り。これは辛井拉麺(カライラーメン)という。名前からして明らかに辛いはずなのに食べてみると辛いのかの字もなく王道味噌ラーメンというギャップが一時期話題となったな」


「そうそう、一時期すごい有名になってみんな買ってた記憶がある。俺も一度買ったと思うよ」


「コイツの話題性に力の発現物質が含まれているのではと推測した為選抜入りとなった。では、実食といこう」


薪下はなぜか辛井拉麺を恐る恐る食べている。もしかしてこれを食べるのは初めてで、いまいち信用しておらず実は辛いのではと思っているのかのように思えた。カップラーメンが大好きな薪下がこの有名なラーメンを食べていないのかと思うと少し不思議に感じたが、よく考えてみるとこの人は流行とかへの興味は皆無な人間の為、そういったことがあっても不思議ではないと感じた。


 三口食べた後いつもの態勢に入る。俺も残りを食べ始めようとしたが箸が動くのを躊躇していた。そしてそれを見て自分が満腹に近い状態だと知った。思えば現在七食目。量は減っているにしてもなかなかの量を食べた。まして興味のないカップラーメンもいくつか食べたのでそれが余計に胃にたまる。正直もう一口も食べたくないのだがこれを含めて残り四つ。我慢して食べ切ることを決心した。


 辛井拉麺は前に食べたことがあったが、その時と同じ味だった。当たり前なのだが。味噌、味噌。ただその感想しかない。ちなみに、なぜ名前が辛井なのかというと調べた限りでは開発者の苗字が辛井だかららしい。なんの捻りもない名前だった。


 「喜代村、このカップラーメンが持つギャップ力が何か俺に影響を及ぼしたように見えるか?」


「いいや、特には。薪下の面白い一面が見えたぐらいかな」


「そうか、これも駄目だったか。残りは三個、そろそろ一つぐらいは正解があってもいいはずなのだが。まあ、次にいこう。次はこれだ」


そう言って見せてくれたものは最初に見た一食ラーメンであった。


「おい、これはもう食べたじゃないか。間違っているぞ?」


「いいや、この容器の側面を見てほしい。この部分だ、注視しなくては気づかないと思うが豚骨と書いてある。そうこれは一食ラーメン豚骨味(イッショクラーメントンコツアジ)なのだよ」


「なんでこんなにわかりづらく表記するのさ・・・。これじゃ間違えて買ってしまう人もいるだろうに」


「その通り、多くの人が通常の味だと思って買ったら豚骨味だったという問題が起きた。この問題は消費者個人のみの問題では収まらず店側までもが間違えて買ってしまう始末だったらしい」


「この店はなんでそんなややこしい商品を作ったんだよ」


「この豚骨味は夏の終わりになると販売される限定商品でな。なんでも夏の暑さに負けて疲れ果ててしまった人が気づかないうちに元気になっていることを祈って製作したらしい。そんな隠れた優しさが詰まった素晴らしい商品なのだが、その優しさが隠れすぎてしまったせいか店側までもが気づかないという事態に発展してしまった残念な商品だ」


「優しさを隠すのが美徳だという日本人特有の精神が悪影響を及ぼして事件を起こしてしまったのか・・・まあそのカップラーメンの悲しさはわかったけどさ、それほどまでに残念な商品を何故選抜メンバーに入れたんだ?」


「うむ、何故だろう。俺もテンションが上がっていたからなのか、そこまで深く考えてはいなかった。今すぐ何か理由を考えたほうがいいか?」


「いやそこまでしなくてもいいよ。おおよそこの十個のカップラーメンたちは薪下の家にあったものをランダムに持ってきただけだろ」


「うん・・・まあ、そんなところだ」


「まあ俺も選考理由とか気にしていないし、早く食べて実験に移ってくれ」


「了解だ」


そう言うと素早く食べ始め、そして終えた。その後、同じような態勢に移る。何故毎回同じ姿勢なのだろうと不思議に思ったがルーティーンとしての役割を担っているのかなと思い勝手に納得する。一連の推測が終わると俺も残りの一食ラーメン豚骨を食べ始める。朝食を真面目にしっかりと食べてしまったことを強烈に後悔した。もし今日の朝食を抜かしてさえいれば、おそらく最後まで余裕で食べ切ることができただろう・・・いや九個まではおそらく行けただろう。海苔のっけは別としての話だ。


 この後来る九個目と十個目のカップラーメンにごめんなさいと謝りながら八個目のこのカップラーメンを意地で食べ終えた。正直もうこれ以上食べるどころか薪下との実験に付き添うことさえも苦しい。今すぐ外に飛び出してそよ風とともに胃の中のモノが上がってくるのを鎮めたいが、俺の食べるスピードが遅くなっているせいで、食後の休みすらなく結果を伝えなくてはならない。それどころか今に至っては俺が未だ食べている最中であるのに十分は経過してしまった。


「うむ、どうかな?俺の隠れた力が顕現したりは・・・?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・・・・うん、いいよ。そうだな、残念ながらお前の力はこのカップラーメン同様完全に身を潜めているよ」


「そうか、やはり隠れすぎていてはダメだということだな」


「うーん、上手いこと言っているようだけど全く上手くないな。とりあえず次に行こう」

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