第19話 少し学んだ俺と③

 「なあ夕月」


「なんだい?もう答えは言ったじゃないか。後はわからないよ」


「いや、答えはこれで合ってると思う。これでいいんだ。けどまだ何か聞きたいんだ」


「はぁ?心の内を暴かれたらやけに欲しがりの素直な少年になっちまったねぇ。なんだい、もう投げやりになっちまってるのかい?」


「俺もよくわからねぇえよ。けどさ、なんか、まだあるような気がするんだ」


「そうかい。じゃああと一つだけ。あんたは今確かに答えに近づいたんだよ。これでいいかい」


「ありがとう。それも何か重要な気がする」


それは当たり前のことだ。夕月の話を聞いたから答えに近づいた。夕月は確かに当たり前で何も新しい情報は言っていないのだけど自分には何か特別なことのように感じた。


 「はぁ、面白半分で話に付き合ってあげたら結局答えまで出しちまったよ。こんなにあんたを助けてるんじゃあまるであたしがあんたの手下になったみたいで面白くないよ」


「ははっ、そんなこと言うなよ。夕月が普通に力を使っちまえば俺みたいなやつは瞬殺なんだからさ。手下になるなんてことはあり得ないよ。親が子を助けるような感覚と一緒だから」


「その例えは気分がいいねぇ。どうだい、おんぶかだっこしてあげるよ。ほらおいで」


そう言って夕月は俺に向かって手を伸ばしてくるが俺はその手をはたくようにして退ける。


「お、おいやめろよ!さすがに色んな意味でやばいだろ。」


「なんでだい?男だって甘えたくなるだろう。気にすることはないさ」


「そういう意味じゃねえって。夕月、お前は妖怪だろ?」


俺がそう言うと夕月は小首をかしげて考え中だということを俺に示す。


「あー、そういうことかい。なんだいなんだい、やっぱ初心で可愛いねぇ。恥ずかしがらなくてもいいのさ。さぁ、そんな気持ち捨てちまって本能のまま飛びついてきな」


両手をしっかり広げて受け入れ準備が万端アピールをしているがそういう問題ではない。ここまでされるとわかっていないふりをして俺をおちょくっているだけなのではないかと思えてくる。


「だーかーらー!そういう意味じゃねえんだよなぁ。お前妖怪なんだから俺を抱きしめたら俺が骨折れたりするんじゃないのってことを言いたかったの!」


俺のセリフを聞いて大げさに納得したそぶりを見せる。こういった挙動の一つ一つが俺をいまいち信用させない理由なのだと思う。


「なんだい。あたしが力の調節もできないような怪力妖怪だと思ってるのかい。はぁー、ほんとにあんたは見る目がないねぇ。というよりもそのお目々を交換したほうがいいかもね」


「おいおい、さすがに言いすぎだろ。第一そんなのわかるわけないじゃん。俺、人間だし」


「人間も妖怪も多少の性能の差はあれど目の機能自体はさほど変わらないよ。じゃあ聞くけどあんたの目にはあたしはどう映っているんだい?」


「い、いや・・・普通の人間にしか見えない。服装は古っぽいかな。着物みたいなの来てるし。けどなんか少し洋服っぽくもあるね。何という服の種類なのかはわからないけど現代の街中にいてもあまり目立ちそうにはないな。素材が絹っぽくないからそう思えるだけか?それとも柄かな。桔梗とポインセチアが同じ服にデザインされてるってなかなかだよ。不思議だ」


「まさかそこまで詳しくみられるとはねぇ。あたしじゃなくて若い子が相手だったらきもいって言われてたかもねぇ」


「え、えぇー。ちょっとそれはひどすぎやしませんかね。姿を聞いてきたそっちが原因なのではと思うんだが」


「あたしはあんたの初めの一言を聞きたかったのさ。言っただろ?普通の妖艶で華麗な美女にしか見えないって」


「いやそこまでは言っ・・・・・たかもしれない」


言葉の途中で夕月の周りだけ明らかにおかしい色に変わり空気が歪んだのでとっさに変えてしまった。俺、ファインプレーだよ。アレ、絶対死ぬやつ。


「ともかくあんたは普通の女がそんな力を持っていると思うのかい?あり得ないだろう。だから私も同じなのさ」


「いや明らかに嘘だとバレバレだしなんかこじつけだけの説明で全く納得ができないのですが・・・」


「・・・・ん?」


「いや全て納得しましたハイ」


先ほどと同じ圧を身にまとったので否定できなかった。なぜだろう、この空気感というか妖怪の覇気というか。本当に怖い。口を開くどころか息をすることすら難しくなる。夕月が妖怪でその上トップクラスの実力だからこそのオーラなのか、それとも世の女性はみな同じ圧を生み出せるのか。もし後者だとしたら俺は一生女性に頭が上がらず女性が言ったことを全て首肯し続ける人間になるのだと容易に想像できた。


 「いやぁ今日はとても楽しめたよ」


「そうか、こっちも助かったし感謝してるよ」


「堅っ苦しいねぇ。まあいいさ。また寂しくなったら来な。いつでもあたしはいるからさ」


「そう言われると次来た時の理由が寂しくなったからと思われるからすげえ否定したい。てか普通に相談しに来ただけだからな」


「あっはっはっはー。そういうことにしておくよ。じゃあね」


「んじゃまた」


俺はそう言うと夕月が自分の前から姿を消すのを確認する前に後ろを向いて歩き始めた。特に理由はないけど。なんかそうしたかった。


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