第18話 少し学んだ俺と②
夕月は俺が話している間ずっと同じ態勢であった。そして俺が話をし終えた後も同じ態勢で目を閉じている。目を閉じているからか、それとも口を開いていないからなのか、どちらなのかはわからないがどことなくいつもよりも更に強い妖怪らしい、強者の持つ独特な雰囲気を感じる。夕月以外の妖怪を見たことがないから実際はどうなのかわからないがこれが妖怪然とした態度なのかもしれない。
「うーん、そういうことねぇ」
しばらくした後夕月の口が開いた。目は先ほどから変わらず閉じたままなのだが。
「ど、どうだ?何かわかったか?わからなかったとしても整理してくれれば俺はいいんだけど」
「どうやらあたしには答えがわかってしまったよ。勿論、あんたが言ったように答えがあったらの話なんだけどね。いやぁ面白いよ。本当にさ」
「な、なにがわかったんだ?俺に教えてくれよ。夕月だけわかって終わりなんてよくないぞ」
「そうなんだけどねぇ・・・あっ、にしし」
わざとらしい笑い方をした後に夕月の目が開いた。誰にでもわかるほど明らかに何か企んでいることはわかった。
「おい、先に言っておくけど嘘を言うのはナシだぞ。今俺は結構真面目に話してるんだからな」
「わかってるさ。嘘を言うつもりはないよ。でもさ、仮に私が嘘をついたとしてそれを嘘だと言い切れる証拠はあるのかい?」
「なんでそういうこと言うんだよ・・・人間である俺にそんな力があるわけないだろ」
「だろうね。ならあんたがいきなり嘘を見破る力を得たとしよう。そして私の嘘を見破ったとする。その後あんたはどうやってあたしから真実を聞きだすんだい?妖怪であるあたしは金に興味ないから買収はできない。力で吐かせようにも絶対に勝てることはない。そこんとこどうなんだい?」
「だからさっきから急に何なんだよ・・・その時は土下座でもなんでもして頼み込むしかないじゃんか。わかりきってるだろ」
「そりゃそうだよねぇ・・・・」
夕月はそういった後に黙り込んでしまった。俺には正直何もわからない。自分自身の今の感情も夕月の言っていることも、その裏に隠されているであろう意味も。何もわからない。明らかに彼女は俺の話した内容から整理だけでなく俺が到底知りえぬ情報を得てしまった。でもそれをどうしても俺に知られたくない。だから意味の分からない力がどうこうの質問をしたんだろうか。
では何故俺に知られたくないのか。色々と考えてもごちゃごちゃになったまま挫折して終わりそうなのでこれに集中しよう。これさえわかれば後は最悪こじつけでも答えは出せそうだ。
何故か・・・これは夕月の立ち位置によって変わるだろう。夕月が俺と友好的なポジションにいた場合その答えは情報を知った場合俺にデメリットが生じるからだ。それを防ぐためにあえて隠しているということになる。
夕月が実は俺をそれほど友好的には思っていない場合、夕月が情報を隠しているのはそれを知った場合に俺にメリットが生じるからだ。
前回聞いたときに恋愛感情は否定されたが俺とこうして話しているから嫌悪感は持っていない・・・と思う。妖怪社会のことについて何も知らないので確実ではないが人間と違って法が整備されているイメージはないので嫌な奴に会ったら消す方向に注力するはずだ。仮に人間と同じ上下関係や外からの評価を気にする社会であったとしても夕月は強いので気にする必要はないはずだし人間を殺せば逆に周囲の妖怪からは好印象のはずだ。人間を殺すことが禁止されていない限りは。
ということで、まず俺にデメリットが生じそうな内容から考えてみる。どういったものがあるだろうか。けがとか死などが思いついたが戸口との会話やそこから派生した俺の感情などを話しただけなのにそんな未来が想起されるとは思えない。そうなるとそれを知った瞬間に訪れるデメリットだということだ。俺と戸口の脳のスペック差だろうか。しかしそれだと俺も自覚している。
そんなことをわざわざ隠す必要がないし俺が知ったとしてもデメリットにはならない。仮にそれを再確認しただけで心が折れるような奴だと思われていたならばそっちのほうが落ち込む。立ち直れなくなるだろう。俺が話した内容から推測できて俺が知らなくて俺に衝撃を与える内容・・・実は戸口は俺のことが嫌い、なのか?
いやそれは本当に信じたくない。どんな俺でも受け入れるなんてカッコいいこと言っておいて裏では嫌ってましたなんて天才役者を超えてただのサイコパスだろ。戸口のあの雰囲気は確かによくわからないがサイコパスのそれとは違う気がする。というか違ってほしい。戸口が俺のことを嫌っているという推測はこれ以上行っても俺自身の心をすりつぶすだけなので終わりにする。
「真面目に考えたって答えは出ないだろうよ。そんな真剣な顔はやめな」
必死に考えていたところで夕月からの制止が入る。変な勘繰りになってしまうが夕月は俺が答えにたどり着くことを止めたいように思えた。
「そういう風に言うんならさ、俺に答えを教えてくれよ。さっき答えがわかったとか言ってたじゃないか」
「じゃあ教えてあげるよ。その代わり友達をなくしてしまってもいいのかい?」
「は!?どういうことだよ」
「あはははっ。冗談だよ、冗談。答えを知ったら友達を失うなんてこと起こるわけないだろう?」
「驚かせるなよ・・・本気にしただろ」
真面目モードに入っていたので急に来た冗談を見破ることができなかった。空気を少しは読んでくれと言いたくなったが口に出すのはやめた。
「まあ、本当のことを言うとあたしの中にある答えってのがあんたが求めているそれと一致するかはわからないってだけさ」
「じゃあそれでいいよ。夕月の中の答えってのを聞かせてくれ」
「そうだねぇ。あんたは戸口って奴と話して多くのことを同時に気づきすぎたんだよ。同じ空間にいるはずの彼と自分との差から始まり彼自身の自分では理解しきれない辛い過去。そして自覚してなかった自分のこと。それ以外もその時にたくさん感じたんだろうね。自分でもよくわからないって言ってたけどさ、わかってるはずだよ。ただわかりたくないだけ。
あんたはさみしいのさ。友人が遠くの存在になるのが。自分自身が自分の手から離れていくのが。それを感じ取るのが嫌だからアタマを使うのをやめたんだろうねぇ。ははっ、どうだいあたしの推理は」
「す、すごいよ・・・・おそらく、合ってる」
夕月に言われて、そのことが事実なような気がした。答えがそれだって頭に閃いた感じではない。まだ自覚症状のないふんわりした感じで、そっと胸にしまい込むように夕月の答えを取り込んでいる。
何時間後なのか、それとも何日後になるのか詳しくはわからないが、きっと夕月の答えからさらに導き出された本当の答えってのが出てくるということは予想できた。さみしいという言葉は本当に的を得ている言葉なのかもしれない。もしかしたら今こうして夕月のもとへ自然と向かってしまったのも自分では気づかなかったさみしさから来るものなのかもしれないとさえ思うことができた。
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