第12話 いざ本番へ・・・行く前に練習 ~戸口~②

 戸口と二人で行動することになった俺だがやることは特になくただ二人でぷらぷらとむやみに歩いているだけであった。隣で歩いている戸口の表情を見る限りいつもとあまり変化はないのでどのような感情を抱いているのかはわからないが目立った行動を起こすことなくこうしていることから薪下から課された役割を果たす方法が思いつかず悩んでいるのだと推測できる。


「なあ、やっぱり風を操る方法なんてないんじゃないか?こうやって戸口が必死に考えても答えは出ていないわけだし」


「え?何言ってんの?僕今何も考えてないよ?ただ歩いているだけ」


「・・・・え?」


戸口の衝撃発言のせいでオウム返しのようになってしまった。もう戸口のこういった行動や発言は慣れている気になっていたのだがどうやらまだ全然らしい。普通ならこうするといった考え方は常人とは異なる信念を持つ戸口には通用しないと何度も理解させられたはずだが未だに理解しきれてはいないらしい。


「あれだけの作戦会議をして解散したら普通はその為の行動をとるよな」


「あー、やっぱ喜代村は頭固いなぁ。カチコチのカッチ君だね。カッチくーん!」


「なんだよいきなり。別にそこまで固いわけじゃないだろ」


いきなりのカッチ君呼びに少し腹が立つ。まあこれも戸口と一緒にいるとよくあることなので気にしたら負けなのだが、一応今回は付き添い役なので少しぐらい説明をしてくれてもいいと思った。


「ごめんよごめんよー。冗談だってば、他の人も僕の行動見たら答えが出なくて悩んでいるように見えるさ。みんなカッチ君だから気にしないでよ」


「いや別にそこまで怒ってないよ。それより一緒に行動している訳だからせめておおまかな説明ぐらいは欲しい」


「そっかぁ。んじゃあさ、喜代村に質問ね。今回薪下が僕に出したミッションって何だったか覚えてる?」


「え、だから湯気がスクリーンになるように工夫するんだろ?」


「その通り。んじゃ次の質問ね。なんで街を歩き回っているだけの僕をみて答えを出せずに悩んでいると推測したの?」


「まあ普通に考えて戸口なら答えが出たらすぐ行動に移すタイプだからここでずっと歩き回っているのは悩んでいるからだと思った」


「んー、半分正解で半分不正解ってとこかな。僕がすぐに行動するタイプってことを知っていて、今の状況と照らし合わせて考えたのは正解。まあ僕といつも一緒にいる喜代村ならこの考え方にすぐたどり着けるよね。でも、悩んでいるってのは不正解だね。てことで、喜代村は半分ピンポーン!」


「えぇっと・・・すまん、今度はこっちが質問だけど戸口が今悩んでいるのではないとしたら何故行動に移さずただ歩いているだけなんだ?」


「おっ、テンプレのような質問だね。先生とか学者なら嬉しくなって答えちゃうかもしれないけど僕は答えないよー。その答えこそ最も重要なんだからね」


簡単に教えてくれると思っていた自分が甘かったようだ。戸口は笑顔を浮かべて俺が答えるのを待っている。その表情から今こうしている時間が戸口にとってどれだけ楽しい時間なのかは容易にわかった。だが肝心の戸口がここで歩き回っている理由がわからない。本来戸口はすぐ行動に移す。しかし今回はすぐに行動してはいない。それなのに戸口は悩んでいるわけではない。もしかして歩き回るという行為が答えそのものなのか!?


この事実に気づいた瞬間、俺の口から言葉が出る。


「歩き回る事自体が湯気をスクリーンにすることと関係があるのか!」


「うっひゃー!安直すぎるよ!ちょっと落ち込んじゃうなー。もし喜代村が言ったのが正解だとすると僕は喜代村に呼びかけられるのをワクワクして待ってた奴みたいになるじゃん。全然違うよ」


「え?全然違うの?」


「全然というかスーパー違う」


「スーパー違うの?」


「うん」


必死に導き出した答えが戸口にスーパー違うと言われてしまうとなんだかこっちが落ち込む。なかなかのダメージのせいで思考をそちらに向けるのに時間がかかりそうだ。


「もう一回考えさせてくれ」


「いいよー。面白いしね」


戸口に再び時間をもらい推理を再開する。一般的に考え得る答えは全て出したと思うのだがどうやらまだ残っているようだ。ビンゴで関係ないマスばかり開いていって目当てのマスが開かないのと同じだ。察するに今の戸口は大きなもぞもぞ感を抱えているに違いない。だったら答えを教えてほしいと思うのだがそれは面白くないのだろう。


少し思考がブレたので軌道を修正しよう。今までの答えから歩き回るという行為は作戦とは関係ないことがわかった。じゃあ何故関係ない行動をするのか。戸口だからという答えもあるだろうがそれは表の答えであり、別に滑り台に乗っていてもステーキを食べていてもいいんだ。大事なのは裏の答え、意味のない行動をとる本当の理由だ。これを考えるんだ。俺が意味のない行動を取る時。それは退屈な時ぐらいだろう。・・・・


そうか、退屈な時だ。


「戸口、俺はわかったぞ」


「お、聞かせて聞かせて」


「お前は今退屈なんだよ。だから関係のない事をしている。そして何故退屈になってしまっているのか。そう、湯気をスクリーンにする方法を思いついてはいるが何らかの原因により実証することができないからだ!」


「おおぉー!大正解だよ!さっすが喜代村ー。天才かよー」


どうやら正解だったようだ。何度も不正解を重ねて選択肢がどんどん狭まっていったのもあるが、無事正解できて嬉しい。と言うよりも戸口のこの偽りのない感じで褒められると素直に嬉しい。


「いや、嬉しいんだけどさ。答えを俺は教えてもらえてないんだが」


「そうだね。ここまで来れたなら十分か。僕の答えを教えてあげよーう。僕はね、湯気をどうにかして操作することは今は考えてないんだ。めっちゃ考えたら答えが出るかもしれないけど、仮に分かったとしてその方法が特殊な道具を用いたり、長い時間が掛かっちゃったりしたら意味がないからね。


だから僕が何もしなくともそういう条件が整うのを待つことにしたんだ。簡単に言っちゃうと気温だよね。喜代村も体験したことあると思うんだけど、新年なりたてで外真っ暗なのに初詣行ってお参りついでに甘酒買うじゃん。そうすると甘酒がすげー湯気出すでしょ?そんな感じだね。外気温が寒くなればなるほど湯気が出る量が多いんだよ。そのことを利用するってわけ。どう?名案だと思わない?」


「お、確かに。あの時の湯気は真っ白で量も多い気がする。俺じゃ絶対に思いつきもしなかった。さすが戸口だ」


戸口の考えだした方法が突飛な方法ではないのにもかかわらず俺には思い付きもしない方法だったので戸口の発想力に感心した。とてもすごい発想だと思うのだが、それには一つ欠点があるように思えてしまった。


「でも戸口、もう秋とはいえそこまで寒くなるか?」


「それは大丈夫、しっかり調べといたよ。気象予報が正しければ今年はこれまでにないほど寒くなるんだって。それに一応前日には地面に水撒いておくから大丈夫。後は当日までにさらに寒くなる方法を見つけて実行するつもりだし」


「だとすれば安心だな。んじゃ他に俺が手伝うことはあるか?」


「何かあるかなー。あっ、重要な話があるんだったよー」


「俺に話すことがあるんだったら歩いているだけで時間つぶさず、どこか喫茶店入ってゆっくり話せばよかったのに」


「あーそういうのもアリだね」


「いや普通思い付くだろ」


「僕普通じゃないからわかんなーい」


「自分で言うなよ・・・」


「まあ喜代村の意見を採用して喫茶店へ行こー。でも場所は前に僕が一度だけ行ったことのあるトコね」


「いやそこは行きつけの店に立ち寄る流れだろ」


「僕行きつけの店とかないし。一番よく通うのは学校と家だよ」


「大半の学生がそうだがな」


「ではレッツゴー!」


戸口がそう言うと歩きだしたので俺もそれについていった。一人で戸口の相手をするのってここまで疲れるのか。普段は四人全員が集まっていることが多いので自然とボケ二人の相手とツッコミは不思議沢に任せていた。戸口一人でもここまでボケラッシュが続き対応が精いっぱいなのにこれに薪下が加わった状態を平然と処理し続ける不思議沢はすごい。

俺なら瞬殺される自信がある。


今までただのオカルトオタクだと思っていたがどうやら相当能力の高いオカルトオタクだったらしい。ある程度の月日を共に過ごしていたが全く気付かなかった。今までありがとう不思議沢。今まで気づかずにごめんな不思議沢。とりあえず今はいないし会って直接言うのもなんだか気が引けるのでこうして心の中で言うことにする。


普通の人になら絶対に伝わらないと思うがオカルトに没頭しているあいつなら本などで得たオカルトの知識やパワーで受信できるはずだ。俺自身オカルトに詳しくない為、そのようなパワーが存在するかどうかは知る由もないがもしこの言葉が伝わることなく終わってしまったらそれまでの話なので別に気にしない。全ては不思議沢アンテナ次第なのだ。


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『偽りの世界で。』第12話を読んでいただきありがとうございます。

今回は戸口√(分岐ではない)のような感覚で読んでもらえればと思います。

何か評価してもらえると幸いです。

次回も同じ時間に投稿します。

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