第11話 いざ本番へ・・・行く前に練習 ~戸口~①

 夕月からの許可を得てから三日後、薪下に呼ばれたので前回行ったファミレスに向かった。


「ふむ、遅いぞ喜代村」


「いや、できる限り急いだよ。それにそっちが電話でいきなり呼びつけるからだろ」


「しかし、戸口と不思議沢を見てみろ。お前が来る十分前には集合していたぞ」


「それはその二人が早すぎるからだと思うんだが。後二分遅れ行動をモットーにしている奴が俺より早く着くというのがなんだか納得がいかない」


「まあ気にするな。早く座れ。それでどうだ。妖怪に許可は取ったか?」


流れるように話が変わるのでどれから処理をしていけばいいのかわからずとりあえず座る。しかし、戸口と不思議沢の集合の速さに驚きつつなぜそんなに早くこれたのかという疑問が強く頭にへばりついているため脳の速度が低下している。三人は実はシェアハウスしている説や三人は実は近所説などが脳内で生み出されているがそれを聞いてしまって想像を超えた答えが返ってきた場合更なる混乱に陥るし、何より薪下が早く答えろという圧を俺に向かってゲシゲシ飛ばしているのでそんなことを言う余裕もない。


とりあえずその疑問は心のどこか遠くにしまっておいて薪下に報告することにする。


「一応許可はとれたよ。日時とかもいちいち指定する必要はないって。なんか俺たちが来たら気配で分かるらしいから」


「そうか。不意討ちも検討していたのだが効き目はなさそうだな。まあいい、それでだ。今回またこうして集合してもらったのには理由がある。不思議沢、理由とは何か答えてみろ」


「え?理由?少しお時間をいただきたい」


そう言うと不思議沢はすっと態勢を崩し考え始める。こういう場面でも思い付きで答えを出さずしっかり考えるのは不思議沢らしいなと思いながらも俺より十分前に集合しているのならその間に説明できたのではとも思う。おおよそ薪下が全員揃うまでは話す必要などないと言って頑なに始めなかったことは予想できるのだが。


「ふむ、今考えたところ今後の日程などを説明に来たのではないかと推測できましたな」


「うむ、その通り。妖怪を目撃するためにはそれ相応の努力と綿密な計画が必要だ。許可を取ったからさあ行こう!などと能天気に考えている奴はこの中で喜代村ぐらいだろうな」


名指しの図星。本当はこいつがさとり妖怪なのではと思い始める。


「ということでこれからは各自練習に励んでもらう。よって今からその練習の内容などを説明したいと思いここに招集した。では、まず俺の練習からだ。俺は今回の作戦で最も重要な役職を担う。作戦は前に言った通りで、俺が失敗すれば他のだれ一人として成功することがなくなってしまうと言うことを皆には理解してもらいたい。


練習の内容だが俺はひたすらカップラーメンを食し、妖怪を見ることができる力を百パーセント身に着けられるようにする。そしてその目で見た妖怪の姿を像として湯気に映すことが確実にできるようにするための努力もする。誰かこの練習法以外にも効果的な練習を発案した人はいるか」


薪下がそう聞いたが誰も意見を述べなかった。そりゃそうだろ、やはり何回聞いても全く理解できる内容じゃない。そんなものの練習法など思い付くことなどできるはずがない。


そう思いながら他の二人を見ると二人とも、前回のような戸惑いは表情から窺えず、むしろ薪下を信頼しているから練習法に口出しはしないとでも言うようなオーラを漂わせていた。ここまで堂々としていると俺のほうが間違っているのではないかという気持ちになってくる。


「次に不思議沢の練習方法についてだ。お前は今回光役だ」


「光ですか。一応軍用懐中電灯は持ってますぞ」


「お、買う手間が省けたな。それを湯気にうまい具合に当てて妖怪の像が映るようにするんだ」


「フィルム映画に詳しい人ならどのような角度がいいとかわかるのでしょうが、残念ながら私はそういうのに疎いのですが問題ないですか?」


「問題ない。このメンバーでそんな専門的知識を持っている奴などいないだろう。そして有識者に聞いたとしても作戦の重大さがわからず真摯に対応してくれない者ばかりだろうことも容易に想像できる。なのでまずはフィルム上映を行っている映画館に行ってその上映を見に行け。そして光の感覚を掴むんだ。その後はそれを完璧に真似できるように特訓しろ」


「実際に見て学ぶと・・・それは思い付きませんでしたな。しかし、そうすると問題がありますよ」


「どうした」


「フィルム映画は映写機を用いてますよね?そういった専門用具があるから投影ができているとすれば私たちでは無理なのでは?」


「無理な時は無理だから諦めろ。その時は俺が見たものを絵で描いて伝えてやろう。だからそんな些末なことは考えず光の当てる角度などの真似できそうなことを学べ」


「了解ですぞ」


「よし、次は戸口の練習内容についてだ」


「お。来た来たー!頑張っちゃうよ」


「うむ。戸口にはカップラーメンから生まれた湯気をできる限りスクリーンの形に近づける役割を頼もうと思う。いいか?」


「うん、オッケーだよ。具体的にどうすればいいの?」


「そこらへんは俺もよくわからないが何か良い方法があればそれを使って構わない。とりあえずそれが見つかるまでは湯気に風を当てて形を作ってくれればいい」


「えー?簡単に言っちゃうけどそれ相当難しいよー?だって大気を操るってことでしょ?部屋の中ならまだできたかもしれないけど外だしねー。スーパーコンピューターとか使わなきゃ無理なレベルなんじゃない?」


「・・・相変わらずお前は雰囲気と頭脳にギャップがありすぎる。まあその通りだと思う。だから不思議沢にも言ったが必ず成功させる必要はない。最終的には俺が成功させればいいのだから気負わずにやってくれ」


「わはー。そう言われると成功させたくなっちゃうな。僕的にはオールオッケーなんだけど、一つ質問があるよ」


「ん?言ってみたまえ」


「あのさー、そこまで本気でやるんならカップラーメンの湯気をスクリーンとして使うよりも普通にスクリーンを買うか、それに近いものを買うほうが成功する確率が高くなるんじゃないの?」


「うむ、そう言われると否定はできないな。そこは俺とカップラーメンの力を信じてくれとしか言えん。それにカップラーメンの湯気に妖怪の姿を映せないということは俺がカップラーメンとの意識の統合に失敗したということ。だとすれば俺の目にも妖怪が見えることはないだろうから結局スクリーンとなるものを変えようが変えまいが同じ結果になるだろう」


「ふーん、そういうものなんだ。てっきり湯気とカップラーメンの二つと統合させなきゃいけないから難易度が倍になるとかだと思ってたけど。まあ薪下がそう言うのならそれでいいかな」


「ああ。それで頼む。では最後に喜代村、お前の練習内容についてだ」


「お、おう」


 薪下と二人との会話があまりにも熱意があふれていて茫然としてしまった。いつもならふにゃふにゃな戸口が今日はいつもよりぴしっとしているし、不思議沢に至っては薪下の部下みたいになっている。普通ならここで疎外感を抱く場面なのだろうが、本人の持つ雰囲気が変化しただけで三人が構築するフォーカードと言う空間としての雰囲気はいつもと同じなのでそういうことは全くない。


それ故にこの状況で俺が感じたのは三人の本来持つレベル、素質の高さであった。普段の生活ではほとんど見ることのできない彼らだ。実際に体験したことがないので何とも言えないが科学者の研究に立ち会ったらこれと同じ気持ちを抱くのだろうなと思った。


「なんだ、緊張しているのか?」


「いや、そういうわけではないと思う。気にしないでくれ」


「そうか、では説明を始めるぞ。喜代村、お前の役割は難易度的にほかの二人と比べてそう高くない。その代わりにいくつもある。一つ目は俺たちの練習に付き合うことだ。主に手を抜いていないかどうかの監視としての意味が強いがそれだけではない。もし誰かが躓いていたら手を差し伸べるんだ。方法は様々ある。自分なりの解決法を提示するでもいいし、作戦とは関係ないところで支えるでもいい。とにかく助ける役割だ。いいか?」


「いいかと聞かれても・・・・さっきの会話から考えて俺以外の三人がそういった状況に陥ることはあまり考えられないんだけど」


「ふっ、笑えてくるな。仮に俺たちが天才だったとしても今から行うのは全くの専門外だ。全てがスムーズにいくなどあり得ないだろう。ただ躓く回数が少なく、決して詰まないというだけだ」


「そういうものなのか。わかった、任せてくれ」


そう返事したものの、実際はまだ少し疑っている。普通の人間なら最初の会話で俺と同じようにハテナマークが脳内を埋め尽くすだろう。そしてその後は理解した風を装って聞く側に徹するはずだ。


しかしこいつらにはそれが全くなかった。そんな奴らが壁に突き当たった際に俺を頼るとは考えにくい。わざわざ自分より知力の低い人間に頼るメリットはないだろう。そして何よりも俺は薪下が自分がミスをすると断言したことが理解できなかった。


というのも普段はカップラーメン中毒に陥っている事を抜かせば超優秀と言っても過言ではない人だ。自分に絶対の自信を持ち、謙遜もしない人間が自分に失敗する可能性があると言ったのはどうしても考えられなかった。


凡人には理解のできない何かがあると言われてしまえばそれまでなのだが、俺に言葉の内容から真意を察しろとでも言っているように感じた。まあそれすらも凡人には推測がつかないのだが。


「よし、では任せたぞ。二つ目について話す。二つ目は本番の舞台製作だ。わかっている通り現状その妖怪が見えるのは喜代村だけだ。喜代村が俺と妖怪を向かい合わせてくれなければ何も始まらない。俺が力を使って自ら移動すればいいかもしれんがその間にも力の消耗は進むし、何より湯気がもったいない。ということで喜代村、お前にその役割を任せる」


「まあ、確かにそれは俺にしかできないことだからな。任せてもらって構わないよ」


「よし、では各自練習に移ってくれ。あと喜代村、お前はそうだな・・・最初は戸口の付き添いで頼む」


「えっ、あ、ああ。わかった。戸口もそれでいいか?」


「そうだねー。喜代村がいたほうが面白くなりそうだしそれでいいかな」


「じゃあ行こうか」


そうして薪下の命令により作戦会議の後戸口に付いていくことになった。


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『偽りの世界で。』第11話を読んでいただきありがとうございます。

何か評価を頂けると幸いです。

次回も同じ時間に投稿します。

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