第7話 俺の友人はキャラが濃い②

不思議沢は憎悪と激高と衝撃で今にも弾けそうな顔で俺を見てくる。一連の話を聞いていた周囲の人たちはさらにざわつき俺に外道を見るかのような眼差しを向けてくる。真犯人である戸口は笑いながら鈴村さんにうどんを注文しに行った。あいつの物事をとにかく面白いほうへ進める性格はとても迷惑だと改めて感じる。しかしそれに気づいたところでこの場の何かが変わる訳はなく現状無言を貫いていたことで罪が更に重くなってしまった。これ解決策ないんじゃないかなと頭のどっかで思い始める。


「あ、あのなぁ不思議沢。落ち着いて聞いてくれ」


「落ち着ける訳ありますかぁ!無理に決まっているでしょうそんなの!キョム氏は人間として最低のことをしたのですよ!許せる訳ないでしょう!」


「ち、違うんだ!これには深い理由があってだな・・・」


「何ですか深い理由とは!友達を裏切ってまで優先する理由というのが存在するのですか!?」


「いやぁ。あ、あのなぁ」


「呼んできたよー鈴村さん。ほら」


 不思議沢の圧に負け何も言えずにじりじりと冤罪という文字が背後に近づいているとき、うどんを注文しに行ったはずの戸口がうどんではなく鈴村さんを持ってきた。


「あ、あの・・・宜しくお願いします」


「は、はぁ」


何も知らされていないまま連れてこられたためか、疑問や疑念が声色にそのまま出ていたので、鈴村さんの言葉を聞いた俺たちまでもが頭に?マークを浮かべる。尤も戸口が鈴村さんを連れてきた理由は話の流れからして推測できるというだけで真相はまったくもって知らされていないのだが。


「あ、あのぉ、私はなぜここに連れてこられたのでしょうか」


当然の疑問だなと思いながら二人を見ると、二人の首の動きから二人もまったく同じことを思っているのだとわかる。


「それについては僕が詳しく説明するよー。うーん、まず鈴ちゃんは僕たちのことどれぐらい知っているの?」


「「「す、鈴ちゃん・・・」」」


戸口の突然の鈴ちゃん呼びに他の三人の声が期せずしてぴったり重なった。まあ、重なったのは声だけで内心はまったくバラバラだと思うが。特に不思議沢はその瞬間からよくない色のオーラを纏い始めた。


「え、えと。ごめんなさい。あなたたちのことはよくわからなくて・・・というよりも学生全体のことをほとんど知らなくて。けれどいつも食堂に来てくれている人だなっていうのはわかります」


先ほどの衝撃がまだ残っているのか、それとも元からなのか、氷の上を歩くようなゆっくりと、しかしはっきりとした口調で話していた。それより学食の人が生徒のことをあまりわかっていないということに驚いた。よくドラマやアニメで見る学食の人は必ずと言ってもいいほど生徒の情報を網羅しているキャラだったので、てっきり実際もそのような超人集団の集まりだと思っていたのだがどうやら違ったらしい。


鈴村さんの見た目と雰囲気から推測するにまだ学食勤務の経歴が浅く、その域に達していないという可能性もあるが。


「あー、じゃあ簡単に説明するね。僕が戸口で鈴ちゃんが座っているところから机挟んで向かいにいるのが喜代村っていうの。んで喜代村の隣にいるのが不思議沢っていうんだ。紹介も終わったところで、じゃあ本題行くね。これから僕が質問するからそれに答えて。いい?」


「あ、はい。わかりました」


「んじゃ質問ね!昨日の夜、何してた?」


「え?昨日の夜ですか。普通に、家にいました」


「オッケー!んじゃ最後!ここにいる喜代村と学食以外で会ったことある?」


「たぶん・・・ないかと」


「オッケーオッケー!んじゃもう戻っていいよ。またねー」


「は、はぁ」


理解が追い付いていない表情のまま鈴村さんは戻っていった。そりゃそうだ、と心の中で反応するとともに勝手に連れてきてしまったことを謝罪する。


「どう?不思議沢もわかったでしょ?僕の推測は大ハズレだよー!」


「な、なぜあれだけで分かったのですか!彼女が嘘をついていたということもあり得るではないですか!」


「えー?不思議沢は自分が好きな人を疑っちゃうのー?」


「んあ、んなことしませんよ!」


「あははー!冗談だよー。理由はしっかりあるよ。僕が鈴ちゃんを連れてきた時の鈴ちゃんの表情見た?最初のなんだろー?って表情からなんの変化もなかったんだー。もし二人が隠れて会っているような関係なら驚きとか焦りが顔に出るはずだよね」


「た、確かにそうですな・・・」


楽しさと面白さが行動原理である戸口がまさかここまで考えた行動をとるとは・・・前から面白さのために才を振るうことは多かったが。自分の発言で場が更に荒れてしまったことに反省したのだろうか。とにかくとても助かったのは事実だ。と思うのと同時にやはり何を考えているのかわからない人って恐ろしいとも思った。戸口恐るべし。


「で、でも!お相手が鈴村さんではないにしろ誰かとそういう関係にあるというのは否定できないのでは!?」


「まーそうなんだけどさぁ。正直言うとそれはどうでもいいんだよねぇ。仮にそういった相手が喜代村にいるとしても僕たちとの時間は必ずこうやって守ってくれてんじゃん。だからそれ以外の余った時間に喜代村が何しててもいいかなーって。でもさ、ここまで言っといてなんだけど喜代村にそんな相手はいないと思うんだよなぁ」


「と、戸口氏・・・・深いことを仰られる。確かにそう、ですな」


予想に反して戸口が重みのある言葉を放ったせいか、不思議沢も俺のことに関して深く入って来ない。と言ってもすべての真相は不思議沢に最初に相談したままのことなのだが。


「ではやはりキョム氏が妖怪とあの現場で会っているというのは本当なのでしょうか」


「うん、その通りだと思うよ。まあ妖怪じゃなくて幽霊かもしれないけど。どっちでもいいや、面白そうだしね!」


「そうなるとその妖怪のお姿を私たちも一度見てみたいものですな」


「だねだね!んじゃどういう作戦でいく?」


「現状私たち二人では名案は思い付きそうにありませんね」


「となると頼れるのは薪下だけだね!すぐに呼ぼう!」


「ですな」


「あ、あー。ちょっと盛り上がってるとこ悪いんだけど・・・」


「どうしたのですかキョム氏?」


二人が喜々として夕月に会うための作戦を話し合っているのをおもむろに遮ってしまったせいか、二人は純粋に疑問を浮かべた表情のまま俺のほうへ顔を向ける。二人の表情からは俺が話を遮ったことへの苛立ちなどは全く感じられないのだが、そのことが逆に俺を苦しめる。前回夕月は俺一人でなければ姿を現してくれなかった。そして不思議沢を帰して姿を現してくれた時、なんだか怒りや嫌悪感のようなものを感じた。いくら強い妖怪だからと言ってもむやみに人前に出たくはないのだろう。そう考えると今目の前にいる二人を悲しませることを伝えなければならない。


「いや、あの、本当に言いづらいんだけど、二人が・・・というより俺以外の人が会うのは無理だと思う」


「なぜですか?私たちに何か見てほしくないやり取りをしておられるのですか?」


よほど妖怪を見てみたいのか、なかなか強い気迫で俺のほうへと詰め寄る。


「あー、もしかして不思議沢が言っていたいきなり帰れって言われたことと何か関係あるとか?」


なんか今日の戸口、冴え過ぎていて怖い。


「あー、大体合ってる。不思議沢、質問なんだがあの時俺が帰れっていう前に何か異常なことはなかった?」


「ん?変化とは?あの時私が隠れていたらいきなりキョム氏がライトで私を照らしながら帰れと言ったのでしょう。それ以外に異常なことなどありませんでしたが」


「やっぱりか。あの状態で不思議沢が冷静に隠れ続けられていることが今思えばおかしいんだ」


「どういうことなのですか?説明してください」


「実はな、あの時周囲はすごい突風で木々が揺れていかにも何かが出る雰囲気だったんだ。その妖怪が来るってわかっていた俺でさえ突然のことで驚いたんだからお前が慌てないのはおかしいと思ったんだよ」


「あの現場でそのようなことが起きていたなど全く知りませんでしたぞ」


「へぇ、そんなことがあったんだ。その怪奇現象がその場で起きていたってことはわかったから、肝心の僕らがその妖怪に会えない理由ってのを教えてよ」


話が脱線してしまったところで戸口が俺たちをもとの軌道に戻す。


「ああ、そうだったな。実はな、その妖怪がほかの人間とは会いたくないって言っていたんだよ。だからあの時不思議沢も見ることができなかった」


「ええー!そんな個人的な理由で無理なの!?納得いかないんだけど?」


「戸口氏、落ち着きなされ。確かに妖怪は昔のような人間を驚かしたり脅かしたりする存在ではなくなり、逆に人間に住処を奪われる存在となってしまいました。となれば人間に対しての恐怖から人間との接触を拒むのも自然と言えるでしょう」


夕月本人から詳しい話を聞いたわけではないのだが、不思議沢の推測はおおむね正しい気がする。


俺たちがイメージする妖怪ってのは山一つを本拠地にしてそこで様々な妖怪が独自の社会を形成している感じだ。そして冷やかし程度に人里に降りてきて人里を気の向くままに荒らしていく。そのようなイメージだが今現在俺が生きている限りそのような場面に出くわしたことはない。もちろんニュースでも聞いたことはない。


このことから、妖怪が昔のような勢いを有していないことは推測できる。そして弱くなってしまった妖怪が生物史上最も技術を発展させた人間を怖がるのは当然なのかもしれない。そう考えると不思議沢の推測はやはり正しい。ただ一つ間違っているところがあるとすれば、夕月は人を襲うような弱い妖怪ではなくとても強い力を持った妖怪だということだ。


「だからさ・・・すまん」


「キョム氏がそう言うのなら、それに従うことにしましょう」


「・・・ちぇー。まあ仕方ないか。妖怪探しは諦めて他に面白いことを探すよ」


「ありがとな、二人とも」


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『偽りの世界で。』第7話を読んでいただきありがとうございます。

前話の末尾に書いたので存じていたとは思いますが文字数、冒頭のことを再び謝罪します。

改善点を含め☆やレビューで評価していただけると幸いです。

次の話も今回と同じような時間で投稿する予定なのでよろしくお願いします。

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