第6話 俺の友人はキャラが濃い①
次の日の朝、ガラッガラの食堂に呼び出されたので集合した。メンバーは俺、不機嫌さを露骨に表した顔をしている不思議沢、ニコニコ顔でよくわからない戸口の三人だ。本当はもう一人薪下という男がいるのだがここにはいない。今日の集まりの呼びかけ人である不思議沢に聞いたところ、一応薪下も呼んでいたらしい。だが来ていないということから推測すると寝坊か何かだろう。
「ねーねー。なんで僕呼ばれたの?なんか面白いことが始まるの?教えて教えてー」
どうやら不思議沢は戸口に全く説明せずに呼び出したらしい。正直ほかの人ならとても迷惑に思うだろうが戸口が対象だからできたことだと思う。こいつはそういった細かいことをまったく気にしない人間なのだ。もし、少しでもそういったことを気にすることができる人間だったらこんなはじかれ者の集まり、通称フォーカードに席を置いたりしない。
そもそも戸口は大学に入学したばかりの頃は、超イケメンでクール系という俺たちとは比べ物にならない評価を得ていた。主に女子生徒からの人気がとても高く、大学内で生活している時間は必ず周囲を女子に固められていた。他の男だったらウハウハハーレムやっほい!と超ハッピーな生活を送れただろうが戸口は何故かいつも静かに黙って下を向いていた。
そういった状況が何日も続くと戸口を囲っていた女子たちも不安に思い始めたであろう。さらにその中でもとりわけ短気な人は戸口の声は実は顔に似つかず汚い声だと根拠のない噂を立て始めた。そういったことが重なり次第に戸口の周りにいる女子の数は減っていった。そしてある日、戸口の孤立を決定づけた事件が起きた。
それは去年の秋だった。俺たちはいつものように食堂で鈴村さんを見ながら話し合っていた。テーマはこの秋を満喫するために行くべきはUFO博物館とカップラーメン博物館のどちらなのか。今考えてみるとなかなかぶっ飛んでる二択だと思う。秋関係ないし。結果はオカルト中毒不思議沢とカップラーメン中毒薪下の熱戦の末カップラーメン博物館に決まったのだが、その途中で薪下が新作カップラーメンを食べ始めると猛スピードへこちらに向かってきた戸口が
「僕も、それ食べたーい!」
と言った。瞬時に警戒態勢に入り戸口を威嚇しだした薪下を除いて俺たち二人は教科書通りの茫然とした姿を晒した。茫然としたのは俺たちだけでなく、戸口の取り巻きたちもだった。そしてこの空間が音をなくしてから数秒後、取り巻きたちは洗脳が解除されたかのように
「こんな頭のおかしい人だとは思わなかった」
「普通に引いたんですけど」
などの言葉を口々にこぼし戸口の周りから消えていった。この事件の衝撃は彼女たちだけでなく俺の脳にも深く刻み込まれた。
当の本人はその場で薪下と静かな攻防を繰り広げた後に、さも最初から会話にいたかの如く自然と俺たちの輪に加わっていた。
この後、今まで静かにしていた理由や俺たちの輪に加わった理由を聞いてみると
「僕興味ないこと話したくなーい!こっちにいたほうが楽しいから」
という小学生レベルの答えが返ってきた。
このように素晴らしいが残念な人が戸口と言う人間であり、俺たちが彼と出会ったきっかけである。素晴らしいが残念と言うのはあくまで他者からの評価であり本人は楽しく過ごしている今のほうが素晴らしい人間だと主張するだろう。聞いていないので証拠はないが。
「え?喜代村?なんでもう考え事なんて始めてんの?まだ駄目だよー。僕が呼ばれた理由をまだ不思議沢から聞いてないからね」
「えっ、あぁ。すまん。不思議沢、早く答えてやれよ」
「戸口殿の質問はとても素晴らしい!くくくっ、今から答えてあげましょう」
よほどその質問が来るのを待っていたのか、不思議沢の顔が気持ち悪いほど幸せそうに歪む。
「ズバリ!戸口殿には私とともにキョム氏を糾弾してもらいたい!!」
「おいおいなんだよ糾弾って。理解できないんだが」
「キョム氏に発言を許した覚えはないですぞ!」
「お、よくわからないけれどいいねぇ。面白そうだー」
数秒前までは目的はわかっていたはずなんだが全くわからなくなった。なんだ糾弾って。俺なんも悪いことはしていないはずだが。
「おっ、キョム氏。身に覚えのないといった顔をしておりますね。しかしそのポーカーフェイスもいつまで続くでしょうなぁ・・・」
「いろいろ言いたいことはやまやまだが、とりあえずお前の話を聞くよ」
「では。キョム氏、これを聞いてしっかり反省してください。戸口氏はこれを聞いて私の気持ちに同情してもらいたい」
「いいよー!」
「まず、私は先週キョム氏から相談を受けました。それは自分が妖怪に出会ったかもしれないというもの。今思えばキョム氏はこの時点で私が興味を持つ話題を話し、私を乗り気にして嵌めようと計画していたと思われます。
そして昨日、キョム氏が妖怪と出会ったという場所に私も同行しました。私が草陰に隠れ待機していますといきなりキョム氏が私のもとに駆け寄り帰れと攻め立てて来たのです。私はキョム氏の圧に負け、その場を退散して帰宅しました。
家に帰って落ち着いて考えてみるとある一つの考えが浮かびました。それは、キョム氏がそこで待っていたのは妖怪ではなく意中の女子なのではという推測です。そして私にそれを自慢するためなのか夜道を安全に移動するためなのかはわかりませんが、どちらにせよ私は道具として使われていたのではないか。以上が今回の問題です。どうでしょうか戸口殿」
思いっきり間違った推測だ・・・てかこいつは俺のことをそんな人間だと思っていたのか。一年以上行動を共にして扱いが少し雑になっていたとは言えそこまでのことはしていないのだが。少し不思議沢の心情を知りたい気がした。
「うーん・・・薪下の新作カップラーメンがあれば速攻答えを出せるんだけどなぁー。仕方ない、チートを使わずに考えてみるか。びびびーん!答え出ましたー。聞きたい?」
「教えてください戸口殿!」
戸口の謎の独自効果音には触れず答えを急かす不思議沢。てかこんな答え出るの早いならカップラーメン要らないじゃないかというツッコミが出かかったが我慢。あらぬ疑いをかけられている身としては無駄な発言で場を荒らしてしまっては余計不利になってしまう。
「結論から言うとね、喜代村は極悪非道なんだ。不思議沢が推測した女性と会うからその現場を見せつけるというのは正解だと思う。けど、ただ現場を見せつけるんならターゲットは不思議沢じゃなくて僕や薪下でもよかったはず。驚いた顔のレア度なら表情筋が硬化しきった薪下のほうが上だからね。つまりわざわざ不思議沢を選んだ理由があるんだ。それは・・・・相手だよ!」
「「相手?」」
俺と不思議沢の声が予期せず重なる。
「そう、相手。喜代村が仲良くしていると知って不思議沢が最も衝撃を受ける相手。ズバリ!鈴村さんだよ!!」
そう言い終わるのと同時に戸口は食堂にいる鈴村さんを指さす。彼女自身は気づいてなかったのか反応はなかったが俺たちの机の周りはほんの少しざわつく。
「な、ななな、なんですとぉぉぉーーー!?」
的のはずれた推測から導き出されたかなり間違った答えを聞いて不思議沢が衝撃を受け立ち上がった。そしてそのまま俺を見る。
「キョム氏、キョム氏・・・・・キョム氏ィィィ!!」
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
『偽りの世界で。』第6話を読んでいただきありがとうございます。
今回は題名に①とあるように本来一話分として作られたものを分割しています。
ちょうど良く区切れる場所がここしかなかったため次回の話は少し長くなってしましました。
改善点を含め☆やレビューなどで評価していただけると幸いです。
次の話も今回と同じような時間で投稿しますが、無理やり区切ったため冒頭いきなり話が始まることを先に謝罪します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます