第5話 未知との再会

 不思議沢に相談してから一週間後、前回と同じ時間にあの場所に行くことになった。なぜ次の日ではなく、一週間後になったのかと言うと


「キョム氏、次行くときは少し時間を空けていただけないだろうか。私も準備がある故、すぐにというのは厳しいですぞ」


 と不思議沢が言ったからだ。まあ不思議沢が時間をかけて準備してくれるのなら仮にあの妖怪が人食い妖怪だとしてもなんとか対処できるだろう。アイツのオカルトに対しての熱意と知識だけは信用に値する。


 時刻は夜の七時ごろ、暗いのだがまだ完全に暗くはなっていない。そんな時間に広場近くのコンビニに集合した。後二分すればアイツは来る。


「やぁどうもですぞキョム氏」


ほらね。時間ぴったりだ。


「集合できたことですし早く行きましょうぞ」


「いや、行く前に作戦会議みたいなのはないのか?だって、ほら、そのリュックの中身とかさ。絶対今日使うものでしょ?」


「いやぁ。特に作戦などと言える立派なものはないですぞ。キョム氏が妖怪と接触しているところを遠くの草陰に隠れた私が撮影するだけです。使う機材は夜でも使える高性能ビデオカメラと、収音器ですな。ビデオカメラでも音は拾えるのですが私の雑音が入ってしまいますし、何より綺麗な音が取れません。なので収音器を用意しました。あとビデオカメラが妖怪の力により使用できなくなった場合の予備として一眼レフカメラも用意したので、どんな場合でも確実にキョム氏との接触シーンを撮影できるので安心してくだされ」


「え?それだけ?俺が襲われたとき用の道具とかはないの?」


「安心してくだされ。その時は私が常に携帯しているアメリカ陸軍も愛用している特殊な懐中電灯があるので、これで目くらましをします。その間にキョム氏は逃げてくだされ」


 え、ええぇぇぇぇぇ。全く安心できないんですけど・・・。てっきりお札とか聖水とかのガチなやつを用意してくれていると思ったのに。アメリカ陸軍愛用の懐中電灯ってなんだよ。仮にすごい光の強さで目くらましができるとしてもそれは対人の場合だろ・・・


俺が今から相手するの人間では無いんだよな。効かなかったらどうすんだよ。俺あの妖怪の夜ご飯になっちゃうよ。まじかぁぁぁ。


「お、おう。じゃあ、行こうか・・・」


結論不思議沢は役に立たない。


 前回の時と同じぐらいの時間に広場に着いた。予定通り不思議沢は遠くの草むらに隠れている。

 

「おーい。来たぞー。いるのかー」


待っても何の変化もないので小さな声で呼んでみる。すると周囲の草や木が急にざわざわとしだした。それに呼応して俺の心臓もやたらと騒ぎ出す。


ほどなくして空から一枚の紙が落ちてきた。不思議に思いこの紙をライトで照らす。ちなみにこのライトは不思議沢から最終的に自衛のため奪った陸軍愛用の奴だ。それで照らしてみると文字が見えた。


『どうやら邪魔者がいるようだ。追い払ってしまってもいいかい?』


この文字を見た瞬間、このままでは不思議沢の身に危険なことが起きると予想した俺はライトの光を不思議沢に当てながら急いで不思議沢のもとへ走っていく。


「なんですかキョム氏。私が素早く目を閉じていなかったら今頃目が眩んでおりましたよ」


「そんなことはどうでもいいんだ!早く帰れ。じゃなきゃお前に災いが来るぞ!」


「えっ、えぇぇぇ・・・は、はい。帰ります・・・」


 どうやら俺の焦りを感じ取ったのか、不思議沢は悲しそうな足取りで。だが危険から逃げるための確実なスピードで帰っていった。


 不思議沢が帰ってしばらくするとあれだけ五月蠅かった木々も元通りひっそりとし、散歩コースのゴールにふさわしい空間へ戻った。しかし、あの紙を渡してきた張本人と思われるあの妖怪は辺りを見回しても見つけられない。自分たちがした行動が相手を不快にさせる行動だと思い、謝罪をしようとしたところ


「うん、どうやらもう近くにはいないようだねぇ」


という声と共に彼女が現れた。


「あの男はあんたの仲間かい?なんであの子を連れてきたのか説明はしてくれるんだろうねぇ?」


表情は前回会ったときと変わらないが口調に少し怒りが感じられる。これはやばいぞ。答えによっては食われるかもしれない。どうにかしていい言い訳を考えなくてはと思うのだが、そう思うほどに思考が停止していくのがひしひしと伝わる。


「ふふふっ。そんな怖がらなくてもいいさ。だいたいわかっているからね。大方怖くなって仲間に相談して助けてもらったってところだろ?」


「なっ、なっなんでわかった!」


「人間の行動なんて単純だよ。ましてや恐怖を根本にあればほぼ一通りしかないようなものだよ」


人間のことを詳しく知っていることからどうやら相当昔から存在していた妖怪らしい。まあ不思議沢の推測通り強い妖怪なら長生きしているのは当たり前なのか。


「お前は、あの時・・・から、俺を食うためにこうして話しているのか?」


やっと聞きたかったことを聞くことができた。これを聞くためにここに来たんだ。


「その答えを知りたいかい?」


「ああ」


「・・・くくっ、ぷふっ、あはははっ!笑えちゃうねぇ!」


「お、おいどうしたんだよ・・・・・まさか本当に・・・」


「あたしがあんたを食うわけないよ。あははっ、妖怪みんなが人間を食うわけじゃない。あたしみたいに人間の肉に興味がない妖怪だっているってあの子に教えてやっとくれ」


「そ、そうなのか・・・・」


この言葉を聞いた瞬間体からふっと力が抜けてその場に座り込んだ。命を失う可能性から逃げ切ったのだ。そりゃこうなる。


「じゃ、じゃあなんで俺に話しかけた?」


ここでふと湧いた疑問をそのままぶつける。


「うーん、そうだねぇ。あんたからあたしと同じ雰囲気を感じたからかねぇ。人間なのに妖怪と同じ雰囲気を纏う。気になって気づいたら話しかけてたって感じかねぇ」


「ほぅ、そういう理由なのか・・・」


答えを聞いても何もはっきりしない。俺の両親も人間・・・なはずだし、俺自身も人間だ。妖怪と同じ雰囲気を纏う理由が全く見つからない。もしかしたら住んでいた土地に問題があるのだろうか。でもそんなこと言いだしたらきりがないので生活に支障が出るまでは気にしないでおこう。


 「おい人間よ。今日は何でも答えてあげるよ?ほかにないの?」


「え?あー、そうだな。じゃあ今更だがお前の名前が知りたいかな」


「そうかい。私の名前が知りたいのかい。妖怪の世では基本的に名は明かさないんだがここは人の世のしきたりに合わせて教えてあげようじゃないか。一度しか言わないからよく聞きな、私の名は夕月だ」


「夕月、ゆう・・づき・・・・か。うん、覚えたわ」


名前を聞いた時、よくわからないけど心にすっと入ってきた。これは同じ雰囲気を纏っているのが原因なのかもしれないな。まあ単純に彼女自身の纏っている雰囲気が名前と合致しているからかもしれないけど。


「人の名を聞いたら自分の名を教えるのが道義ってものじゃないのかい?」


「あ、あぁすまない。俺の名は喜代村悠人。よろしくな、夕月」


「喜代村悠人ねぇ・・・妖怪の私が聞いてもいい名じゃないかい」


「そう、なのか。ありがとう」


残念ながら人間にはそのセリフはあまり言われないなぁ。まあ人間の場合すぐお世辞ってわかるんだろうけど。今言ったのは妖怪だからお世辞なのか真実なのかわからない。どちらにせよあまり褒められてないので少し嬉しかった。


「あ、あのさ。明日以降また来てもいいか?」


「おっ、やっぱあんたはあたしに惚れているのかい。全然遠慮せず来ていいさ」


「おいっ、だから惚れてはいないって言ってるだろ。まあそういうことならまた来るよ。じゃあな」


「では今日はお開きとしようか。あたしはこれで」


ガチャ。別れの言葉を言った後に何かカギを開けるような音がした。消えるときの音なのだろう。突然のことに少し驚いたが、俺だけがぽつんと存在した広場を後にして俺も帰った。


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『偽りの世界で。』第5話を読んでいただきありがとうございます。

改善点を含め☆やレビューなどで評価していただけるとありがたいです。

次の話も今回と同じような時間で投稿する予定ですが、投稿時間を変えてほしいなどの要望があれば検討するので是非教えてください。

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